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第2話 王子の素顔

 フィルジル・ローディエンストックは幼少の頃からある理由から人前では理想的な王子の姿しか見せる事はなかった。彼の本来の姿を知っているのはごく一部の人間だけであり、そのうちの一人が幼馴染みで従兄弟のルドルフ・スタンリーであった。

 今日の王妃陛下主催のお茶会はフィルジルにはギリギリまで知らされず、知らされた時には有無を言わさず参加しなければならない状況で、そんな文句をルドルフに溢していた時に木の上からミーシャが落ちてきたのだ。


「お前……木の上で人の話を盗み聞きするとは……どういうつもりだ……?

 フェンデル家は王家への反対勢力ではないと聞いていたが、欺いていたのか!?」


「欺いてっ!? そんな訳があるわけないでしょう!?

 お父様は権力なんてこれっぽっちも興味のない野心なんて言葉の知らないような夢見る人間なのに、そんな悪事を考える事すらしないわよ!!

 私が木の上にいたのはこの子を助けるためであって、貴方のくだらない不満なんかを盗み聞きするわけがないでしょう!?

 そんなものを聞いて私や我が家に何の得があるのよ!!」


「なっ…!!?」


 ミーシャは売り言葉に買い言葉のように思っている事をオブラートにも包まずそのままフィルジルに言い放った。そんな事を言われ馴れていないフィルジルは驚きと悔しさでワナワナと顔をひきつらせた。

 その瞬間ルドルフが吹き出し笑い出す。


「ふっ!

 っ……~~~~!!あっははははは……」


「なっ、何が可笑しいんだよ!!ルドルフっ!!」


「だっ、だって……その通りじゃ……ないか……

 あ~~可笑しい……

 フィルの不満を聞いて王家を欺くって……ぶはっ……」


 ミーシャは我に返りとんでもない言葉を王子に向かって言ってしまったと焦ったが、もう言ってしまったものは後にも引けず、複雑な表情しか出来なかった。そんなミーシャへ、ルドルフが声をかける。


「フェンデル公爵のご息女のミーシャ様でしたね

 初めまして、僕はスタンリー公爵家嫡男のルドルフ・スタンリーと申します」


(スタンリー公爵家といったら宰相様のご子息……)


 丁寧な礼をとったルドルフに挨拶を返そうとした時、ミーシャは自分がフィルジルの上にまだ乗っかったままである事に慌ててフィルジルの上から降りる。


「で、殿下……申し訳ありません……」


「何を今さら……」


 不貞腐れたフィルジルの言葉に多少イラッとしたミーシャだったが、佇まいを直して二人へ言葉を返した。


「先程は、はしたない所をお見せいたしまして申し訳ありません

 後、助けて頂いたようで……ありがとうございます……

 先程もお伝えしましたが……決して盗み聞きをする為ではなくて仔猫が木の上から降りられなくなっていたので、この子を助ける為に自分で木に登ってしまったのです……」


 そんなミーシャの言葉にルドルフが返す。


「仔猫を助ける?」


「あの……この子が降りられなくなっていたので……」


 ミーシャは手で包んでいた仔猫を二人へ見せた。


「あ……」


「ミーシャっ!!」


「はっ!?」


(なっ、何なのこの王子……王子だからって初対面の令嬢に向かってファーストネームを呼び捨てって!!?)


 突然フィルジルから自分の名前を呼び捨てにされたミーシャはフィルジルを訝しげに見詰めた。


「……殿下……今の──」


「返せよっ!!」


 フィルジルが奪うようにミーシャから仔猫を取り上げる。


「なっ!?何を突然っ!?」


「これは、俺の飼い猫だっ!!」


「えっ……」


「ちょっと待ってフィル

 その態度は良くないと思う

 フェンデル嬢はミーシャをわざわざ木に登って助けてくれたんだよ?

 それをお礼も言わずに奪うようにミーシャを取り上げるのは礼儀に反していると思うけど?」


「……っ!…………」


「あ……フェンデル嬢……フィルが失礼な事をしてごめんね……

 この仔猫……最近フィルジルの両親である両陛下から贈られてフィルが大切に育てている仔猫なんだよ……ミーシャって名前で……あ……君の名前も……」


「いえ……私は……」


 三人の間に微妙な空気が流れた時、フィルジルの手の中にいた仔猫がフィルジルの手の中から抜け出してミーシャの足元にすり寄った。

 ミーシャは屈み仔猫を優しく撫でる。


「そう……あなた……殿下の飼い猫だったの……怪我がなくて良かったわ……それにしても……あなたの名前……私と一緒なのね……」


「………………感謝する……」


「え……?」


「何度も言わせるな!感謝すると言ったんだ!!」


「あの……いえ……私は……当たり前の事をしただけですので……」


 そんな意地を張ったようなフィルジルの態度にルドルフは苦笑いを浮かべた。


「こんなにフィルの仮面が剥がれたなんて初めてなんじゃない?」


「こいつが、俺に突っ掛かってくるからだ!」


「まぁ、フィルにこんな接し方のするご令嬢も初めてだよね?」


「あの……」


「そういえば……お前の名前もミーシャといったな?

 ま、俺のミーシャの方が美人だけどな!!」


 フィルジルの馬鹿にしたような言葉にミーシャはまたイラッとした。


「なっ!!」


「後、お前っ!!この事誰にも言うなよ!」


「言ったって……あれだけ完璧に理想的な王子の仮面を被っていたら誰も私の言葉なんて信じませんよ……」


「そんな事は当たり前だ!

 俺が言っているのはこの封印具を外してお前を魔力で助けた事だよ!」


 フィルジルは腕にはまっている筈の銀色に光る魔力の封印の紋が印されたブレスレットをミーシャへ見せた。


 封印具──……


 ローディエンストック王国は精霊の加護をうける国と国内外に伝わっている。

 ローディエンストック王国の国民の血をひく子供は多かれ少なかれ力の差はあるが魔力を持って生まれてくる。ローディエンストック王国では十二歳前の子供には魔力の差はあれど全ての子供に魔力の封印具を腕にはめる事を法律として定めている。その訳は幼い子供は自分の魔力をコントロールする事が難しい為に魔力が暴発し自分や他人を巻き込む事故を起こさせない為だ。十二歳を過ぎ精神が安定してきた頃から魔力のコントロール方法を学び王立魔術師団にて合格点を貰えた者から腕にはめている封印具を外す事が出来るのだ。

 時折魔力の強い子供が悪ふざけで封印具を外し自分の魔力を使うような事があるが、その事が見付かった時には貴族、平民に問わず重い罰が与えられていた。


「木から落ちた時に感じた温かな風は殿下の魔法だったのですね……?」


「ああ……」


「助けて頂いてありがとうございます

 でも、見付かれば処罰があるかもしれないのに何故助けてくださったのですか?」


「そんなの、考えもしなかったからわからねぇよ!

 咄嗟に魔力を使ったから……」


(この人……根はきっと悪い人ではないのよね?

 口は悪いし性格に難があるけど……どうしてこんなにひねくれてしまったのかしら?)


「助けて頂いたのですし誰にも言いませんよ

 それにその事を伝えたら私が木に登った事までばれてしまうじゃないですか」


「なら……いい」


「話しているところ悪いけど、フィルそろそろ戻らないとまずいかもしれない

 それに、フェンデル嬢もご家族の方が貴女のお姿が長く見られないと心配されるのではないですか?」


「あ……そうですね……」


「じゃあ今日ここであった事はこの三人の秘密で、という事だね」


 そうルドルフは二人へ笑顔を向けた。


 始めはいがみ合っていたミーシャとフィルジルもすっかり勢いをなくし、お茶会が催されている場所へ戻ることにした。

 会場に戻った時にはフィルジルの顔には完璧王子の仮面が元通り装着されており、そんな姿を見ていたミーシャはどうしてそこまで自分の本来の姿を出さないのだろうと思う。社交の場で取り繕わなければいけない事は十歳のミーシャもわかっているし、ミーシャ自身も取り繕って他の者に接しているが、フィルジルの姿は他の者には絶対に隙をみせないよう徹底しているようにも思え、この国の中で頂点にいる王族であり、多少は無理も通せるような権力を生まれた時から持っているのにと不思議に思った。


(ま、そんな事は私には無関係よね

 これからは当たり障りなく生きていければいいのだし、面倒事なんて御免だわ)


 ミーシャはこれでフィルジルとの関わり合いはもうないと思っていた。


 しかし、それから数日後思ってもいない事が起きる。




ここまで読んで頂きありがとうございます!

そして、評価ポイントとブックマークもありがとうございます!



作者の覚書


ミーシャ・フェンデル フェンデル公爵令嬢、銀色の髪色に灰色の瞳。父親のフェンデル公爵は王国の外務大臣を務める。


フィルジル・ローディエンストック ローディエンストック王国第一王子、金色の髪色に空色の瞳


ルドルフ・スタンリー スタンリー公爵家嫡男、黒色の髪色に藍色の瞳。父親のスタンリー公爵は王国の宰相を務める。


三人とも同い年、身長は成長中…十歳の現在はそんなに差はないが若干ミーシャが三人より高め、その次ルドルフ、一番小さいのはフィルジル。

その事がまたフィルジルが不貞腐れる要因になっているとかいないとか…

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