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第14話 守りたい存在

 王城の一室では少女のすすり泣きが響いていた。


「殿下……本当に(わたくし)は何も知らなかったのです……

 ミーシャ様にあんな恐ろしい事を友人達がしているなんて……」


 庇護欲をそそるような容貌で沢山の涙を流しながらティアラはフィルジルを見詰めた。


「そうですか……ティアラ嬢は全て知らなかったのですね……

 では、もう一つお聞きしますミーシャ嬢のブレスレットはどうして池の中にあったのですか……?」


「ブレスレット……?よくわかりませんわ……

 (わたくし)が彼女達の傍に行った時にはミーシャ様が慌てて池の中へ入られていたのです……

 (わたくし)も危ないと何度もお伝えしたのですけど…全く聞き入れてくださらなくて……」


「今の言葉に偽りはありませんか?」


「ええ……殿下に偽りを言うなど不敬でありますもの……」


「わかりました

 やはり、貴女は私の思った通りの方だ……」


「ええ!(わたくし)はずっと殿下の伴侶となってお支えする事が夢でしたの

 信頼関係をずっと築きたいと思っていましたわ

 今日は、あの日の真相をお聞きになる為の時間といえども(わたくし)の事を信じてくださりありがとうございます」


 瞳を潤ませながら可愛らしい笑みをティアラはフィルジルへ向けた。

 そんなティアラへフィルジルは柔らかい笑みを浮かべる。


「そうだ……少し貴女に見てもらいたいものがあるのですよ」


「見てもらいたいもの?」


 フィルジルがティアラの前のテーブルの上に装飾の施された小箱を置きその蓋を開けるとその小箱の中味がティアラの目の前で露になる。


「…………っ!!………」


 箱の中には千切れたブレスレットが入っていた。

 もともとフィルジルはこのブレスレットを対で作っており、ミーシャが池で溺れかけたあの日、ミーシャが目覚めた時はもう一つの壊れていないブレスレットを池の中で見付けたとミーシャへ言って渡していた。

 実際に千切られ池の中へ捨てられたものは後日探し出し、今日この場に持ってきたのだ。


「このブレスレットはお茶会のあの時、何者かがミーシャ嬢の腕に飾られていたブレスレットを引きちぎり池の中へ捨てたものです

 見覚えは?」


「あ……ありませんわ……」


「そうですか……

 このブレスレットは私がミーシャ嬢へ贈ったものなのですよ……」


「え……?」


「ミーシャ嬢が令嬢方から酷い扱いを受けているという事が私の耳にも届きましてね……

 このブレスレットの魔石に私の魔力を移し、私が付けているイヤーカフにはまっている魔石と同調するよう私が作りミーシャ嬢にはお守りとして持っていて頂いていたのです」


「そう……なのですか……」


「このブレスレットは、ミーシャ嬢へ悪意を向ける者がミーシャ嬢に危害を加えたり、故意的にこのブレスレットを壊した者がいたら私のイヤーカフを通じてミーシャ嬢の危機がわかるようになっていて、だからこそ先日のお茶会の時も彼女の元へ早く駆け付ける事が出来たのです」


「…………………」


「それと、もう一つこのブレスレットには秘密があるのですよ」


「秘密……?」


「このブレスレットを故意的に壊した者が再度触れるとその者が壊したとわかるように魔術を施してあるのです」


「え……」


「他のあの場にいた令嬢方にも触れてもらいましたが、どの令嬢方も反応が出ませんでね……

 このブレスレットを見たこともない貴女が触れても何も起こらないとは思いますが、全てのあの場にいた人物に触れて頂いているので、実質的な無実の証明として触れてくださいますか?」


「あの……(わたくし)……」


「どうしたのです?どうして触れてくださらないのですか?

 このブレスレットを見るのも触るのも初めてなのですよね?

 それとも……私が王子だとわかっていながら偽りを述べたのですか?」


 フィルジルは笑みを深めた。

 顔色を青くしたティアラは何か弁明しようとするがカタカタと震える唇からは何も言葉が出てこない。


「王族からの贈答物を故意的に破損させた場合の処罰はどのようなものであったかティアラ嬢は妃教育で学んで良く知っていますよね?

 そして、王族への偽りの証言の罪も加わればどうなるのか……」


「わっ、(わたくし)っ……

 本日は体調が思わしくないので……」


「そうですか……それは残念ですね……

 あ……ティアラ嬢にもう一つお伝えしておいた方がよろしい事が……」


「え……?」


 フィルジルは今まで整えて座っていた脚を組むと笑みを浮かべて言葉を続けた。


「今頃……貴女のお家も大変な事になっているかと思いますよ……?」


「大変な……?」


「ええ……

 またお会い出来るかわかりませんが……

 お元気で……」


 目の笑っていない笑みをフィルジルはティアラへ向けた。

 フラフラと力をなくしたようなティアラは王城の侍女方に支えられながら応接室を出ていき、ティアラが退室した応接室にルドルフが入ってくる。


「気は済んだの?」


「……あの程度で済むわけがないだろ……?」


「これで、裁きによってはローランド家は最悪爵位剥奪のうえ取り潰しとなるのかな?」


「そんな事はどうでもいい……」


「フィルは何にそんなにイライラしている訳?」


「………………………」


 フィルジルはティアラの行動は勿論の事であったが、自分の未熟さに一番苛立ちを深めていた。



 ◇*◇*◇*◇*◇


 ローランド公爵が多くの悪行で捕らえられた事、そしてティアラの妃候補解消の話題はすぐ貴族達に広まった。

 そんな人々が落ち着かない中、いつも通り妃教育の為に登城したミーシャへ話し掛ける人達がいつも以上に多く、ミーシャはその者達へ困惑した表情を浮かべながら対応している時、フィルジルがミーシャとミーシャへ声を掛ける貴族達の間に入った。


「ミーシャ嬢と話したい事が沢山ありますので、皆さんには申し訳ありませんがミーシャ嬢の時間を私へ譲ってくれますか?

 ミーシャ嬢、父上と母上の了承それから今日の講師のハンナ女官長から今日の講義の時間を頂いので今から私と少し話をさせてもらえないだろうか?」


「殿下……」


 フィルジルはミーシャをいつものガゼボへ促した。

 ミーシャはフィルジルが自分へ話したい事があると言った事に何時ものように空き時間に誘うような形でない事からも、きっと本当の婚約者になる相手が見付かった事を伝える為なのだろうと思い、ズキンと痛む胸がさらに苦しくなった。

 用意されていたお茶を飲みながら、なかなか話さないフィルジルにミーシャは痺れを切らして口を開く。


「フィル……大変な事になったのね……

 それで、話しって……どうしたの?」


「…………………」


「フィル……大丈夫よ……?

 そんなに気にしなくても……私……」


「………悪かった……」


 フィルジルはミーシャへ頭を深く下げた。


(……やっぱり……)


「……フィル……頭を上げて……?

 王族がそんなに簡単に頭を下げては駄目よ……

 それに……フィルが悪い訳じゃないでしょう?」


「いや……俺が悪いんだ……」


(……やっぱり、さよならを言うつもりなのね……)


「フィル……だって……貴方と約束した事じゃない……」


「約束……?

 あ……約束したけど……俺は……もっと以前から気が付くべきだったんだ!!

 それなのに……俺は自分の事ばかりで……

 もっと、ミーシャの事を考えて俺が守らなければいけなかったのに……」


「………私の事よりもフィルの大切な人を守る方が大事よ?

 私なら大丈夫だから……」


「だからっ!

 その大切だと思うお前を初めから俺が守らなければいけなかったんだ!!」


「え……? 私……?」


「………だから……ずっと言ってるだろ!?

 お前を妃候補に名前を挙げた時点でお前をあんな奴らの悪意から俺が盾にならなければならなかったって……」


 自分とフィルジルとの噛み合わない話にミーシャは違和感を感じる。


「え……?フィル……何の話をしているの?」


「あ? ………っ!! だからっ!!

 ローランド家のクソ女からの悪意にずっとお前を晒してきて、守れなくて悪かったって言ってるんじゃないかっ!!

 何度言わせんだよ!!」


「ローランド家って……ティアラ様の……?え?

 私の妃候補を解消する話じゃなくて?」


「はあっ!??

 なっ、何言ってんだよ!!

 何でお前の妃候補を解消するなんて話になるんだよ!!

 そんな事、俺は一つも望んでないし絶対に解消なんてしないからな!!

 どうして……それともそんなに俺の妃候補が苦痛だったのか……?」


 フィルジルはミーシャの思ってもいない言葉に焦る。


「えっ!?

 え……いや……あ……え?

 ……だって……フィルは……本当の婚約者にしたい方が見付かったんじゃ……?」


「そんなものいないっ!!

 どうして、そんな事に話が飛ぶんだ!?

 そもそも……」


「だって……ずっとフィル、私に余所余所しかったじゃない……

 本当の婚約者にしたい方が見付かって、私に妃候補の解消の話をする事を言い出しにくかったのでは……って思って……」


「それは……ローランド公爵と公爵の娘の事を調べていたから……」


「じゃあ、婚約者にしたい方が見付かった訳じゃないの?」


「………それは……」


 フィルジルは迷った。

 ここでミーシャ自身が自分が本当に婚約者にしたい存在なのだと言ってしまう事は、ミーシャに同じ想いを抱いているルドルフに対して卑怯なのではないかと……

 しかし、ここで何時ものようにミーシャへ話してしまったらこんな絶好なチャンスは二度と訪れないかもしれないとも思った……


「フィル……?」


 不思議そうな表情を浮かべるミーシャの顔を見てフィルジルの胸はグッと詰まったかのような感覚を覚えフィルジルは自分の拳を握りしめた。




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