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第13話 国王の思惑

 フィルジルとルドルフは国王のヴィンセントへ話す為に指示された国王の執務室に来ていた。中へ入ると国王のヴィンセントとルドルフの父親でありこの国の宰相でもあるドレイクの二人だけがフィルジルとルドルフの事を待っていた。

 フィルジルとルドルフが正式な礼をとり言葉を伝える。


「陛下、本日は時間を作ってくださりありがとうございます」


「今は、公務の時間でないからいつもと同じ関わり方で構わないよフィル

 それで?

 ルドルフも一緒に私に何の話なのかな?」


 ──バサッ……


 フィルジルは、ヴィンセントの座っている前の執務机の上に書類の束を置きヴィンセントを見据える。


「ローランド公爵の汚職や悪行の報告ですが、これは一部でしかありません

 こちらへ持ってこられる分だけ取り敢えず持ってきました

 まだ叩けば埃はいくつも出てくると思う

 後、公爵の息女で妃候補のティアラ嬢の妃候補としてあるまじき行動についての報告も纏めてあります

 父上は何故こんなに汚れた奴を野放しにして大臣職にまで就かせているんですか!?」


 ヴィンセントはフィルジルが机に置いた書類を捲りながら唇の端を上げて呟いた。


「ここまでたどり着くのに二年か……」


「は……?」


 ヴィンセントが手元の書類をドレイクに手渡しフィルジルに笑顔を向ける。


「少し時間がかかりすぎかな?

 ま、ローランド公爵の調査をお前達が始めたのがミーシャ嬢の事があったお茶会以降と考えるとまだ許容範囲……かな?

 あまりに行動が遅いからこちらも政に影響が出ないよう対処するのが大変だったよ

 しびれを切らしてこちらで全てを対処してしまう所だった

 それに、ミーシャ嬢への影響も大きすぎだな……ユリウスが我慢の限界を超えて本気で怒り出す前で良かったね

 あいつが本気で怒ってしまったらお前はもう二度とミーシャ嬢とは会えない所であったよ?」


 ヴィンセントの言葉に初め呆然としていたフィルジルはだんだんと怒りが沸き起こってくる。


「全て俺を騙して仕組んでいたのかよっ!?」


「仕組んでいた?

 少し違うかな……どちらかというと試していたが正解かな?」


「試していただ?

 なんだよそれ……

 意味がわからないっ!!」


「じゃあ、どうしてこんな事を私がしたのか少しお前に説明してあげようか

 フィルは妃候補が決定された時、ローランド公爵が自分の娘を妃候補に名前を上げたやり方は正しいやり方だと思っていたのかい?

 私が思うにフィルは先ずはそこに気が付いて一言でも信用する者へ自分の意見を伝えるべきだった

 この二年の間にローランド公爵の行いに対して幾つも不信感を抱く場面は何度もあったと思うよ?

 そして、なによりお前の妃候補になったティアラ嬢の振る舞い方も表向きは虫も殺せないようなか弱い令嬢の姿を振る舞っていたが、そうでない事はすぐ気が付いたはずだ

 だからこそ、お前が彼女との交流に嫌悪感を抱いていた事は理解していたが……そこでもお前は声を上げるべきであった

 行動を起こす切っ掛けは幾つもあったのにも関わらず、その事を当たり障りなく振る舞ってみないふりをする態度はお前の悪い癖だ

 まぁ……お前が人前で感情を出したり自分の意見を言わなくなった原因は私達にもあるのだろうがね…

 だけどね……そのような状態ではお前の事をこれから王太子に任命する事に対して隔たりになるのだよ

 いや……王族を手の上で転がしたい人間達には格好の存在になるだろうね……ただの傀儡としての国王に出来るのだから……」


「………………」


「だが……少なくとも私やリリアに宰相のドレイク、ミーシャ嬢の父親であるユリウスはお前がそんな傀儡ではない事は知っている

 今みたいに感情的になったり自分の意見をしっかりと持っていて自己主張出来る性格である事もね?

 これから少しずつその辺も上手く立ち回れるようになってほしいと思ってフィルが自分でローランド公爵の悪行に気付き対処したいと行動に出るまでローランド公爵はあえて游がしておいた

 あと……自分の大切な存在に対して動けるような人間でなければ、こちらが決めた婚約者で構わないであろうとも思ってティアラ嬢をローランド公爵の言う通りにお前の妃候補に上げた

 ミーシャ嬢には悪いがその事もユリウスには我慢してもらっていたが、かなり際どい状況だったけどね……

 フェンデル公爵夫人の口添えがなければ早々にユリウスはミーシャ嬢を領地へ隠してしまっていた所だったよ……

 フィル、お前は……彼女の名前を自分で上げた時から……恐らく彼女に対して本気であったのだろう?少なくともどうでも良い存在ではなかったはずた」


「なっ!!?」


 ニヤリと笑った父親のヴィンセントに自分の気持ちを指摘された事に、フィルジルは訝しげな表情を浮かべる。


「だけども、それも……なんだか複雑な感じになっているようだけど?

 ねぇ?ルドルフ?

 君を巻き込んだのもドレイクと相談して君の宰相候補としての素質もみる為だったのだよ」


 ヴィンセントの言葉にルドルフは一つ息を吐くと言葉を発した。


「………フィルと僕は陛下や父上の手のひらで転がされていたという事ですか……

 しかも、フィルと僕とミーシャとの関係も気が付かれていたのですね……」


「ミーシャ嬢はユリウスから大切なご令嬢を預かっている事もあったし、親としても気になっていてね……だけど、ルドルフはフィルが王子だから一歩引くとかは考えないでくれるかな?

 二人には良きライバルとなってほしいから、これからもどんどんぶつかっていってくれて構わないからね

 その結末にミーシャ嬢が王妃ではなく公爵夫人になる未来が待っていたとしてもね」


「何で……?

 ローランド公爵の悪行についての対処を試されていた事はわかるけど……どうして……ミーシャの事まで!?」


「どうして……?

 フィルはわからないかな……?

 お前は幼い頃から近くで見ていたからよくわかっているはずだよ?

 王族に嫁ぐという事は重責を伴う事だけではない

 強力な後ろ楯がない時の周囲の余計な干渉を……お前は間近で見て身をもって味わっている

 その時、その存在を一番守らなければいけない人間は上手く立ち回りどんな事があってもその存在の盾にならねばならないということを……

 今のお前にそれが出来るかい?

 お前のその想いを実現させるには沢山の壁があるぞ?

 ミーシャ嬢は家柄は文句を付けようがないが……この妃候補である現在、自分でどうする事も出来ない事で卑下されていた事を知らない訳じゃないだろう?

 その事にお前はしっかりと盾になれていたのかい?」


 フィルジルはルドルフと同じような事を言う父親の言葉に何も言い返す事が出来なかった。結局自分の未熟さでミーシャに辛い思いをさせたり危険に晒したのは自分なのだとそう強く感じた。


「ローランド公爵と息女の事に関しては、後はこちらで対処するよ

 さすがに、成人前で立太子もしていないお前にやらせる訳にもいかないからね」


「…………その前に一つ頼みがあります……」


「頼み?」


「ティアラ嬢と会う時間を一度自分に頂けませんか?」


「…………会ってどうする?」


「このまま、妃候補の任を解くのをただ見ているだけだなんて、俺の気がおさまらない

 あの女には言いたい事が沢山ある……」


「……まぁ、その気持ちはわかるかな……?

 良いだろうお前の頼みは聞き入れよう」



 フィルジルとルドルフが国王の執務室を退室しヴィンセントとドレイクの二人きりになった時、ドレイクが呟く。


「苛めすぎじゃないのか?」


「苛め?

 人聞きが悪いなドレイクは、私は可愛い息子を成長させたいだけだよ」


「お前のその腹黒さを受け継いでいなければいいけどな……」


「腹黒いなんて失礼だね

 でもさ、こんな立場にいたらそうならざるをえないと思わない?

 あいつにもそういう素地はあると思うよ

 そうでなければこんな何年も理想的な王子の仮面を綻びをみせずに被り続ける事なんて出来ないよ

 だけどさそれだけじゃ、あいつがこの重責と周囲の思惑に潰される

 そうなる前に鍛えないといけないのだよ

 あと、ミーシャ嬢は将来的に王妃になるのかな?

 それとも宰相の妻になると思う?

 どちらにしても私達幼馴染みの子ども達にそういう繋がりが出来るなんて楽しみだよね」


「ユリウスが聞いたら発狂しそうだな

 あいつはこの王城に娘を近付ける事だって本音はしたくなかっただろうに……」


「まあね……だけどさ……彼女の運命(さだめ)はそんな事を許さなかったって事なのかもね……」


 それは国王と宰相の他の人間には絶対に話す事はない内密の話しであった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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