第11話 変化の芽生え
フィルジルに駆け寄ってきたルドルフはミーシャの様子を開口一番問う。
「フィルっ!ミーシャはっ!?」
「気を失っているようだ……念のため侍医に見せようと思う」
「途中からしか見ていなかったけど、さっきのあれ……お前の魔力か……?」
「違う……俺の魔力と波動が違った
俺が魔力を使ったのは浮き上がったミーシャを自分の方へ寄せた時だけだ」
「それでは……誰の……?」
「おそらく──……」
フィルジルは抱き上げているミーシャへ視線を向ける。
「ミーシャ……?
だけど、ミーシャは僅かな水の魔力しかないって……」
「ずっと違和感があったんだ……ミーシャの魔力の波動を側で感じていた時に水の魔力とは何か違うような気がしていた
だけど、本人は水の魔力が僅かしかないと言っていて封印具の試験も通っている……
ただ、試験官が魔術師団長だったという事も不可解だった
師団長が試験官につく時は特別な場合のみであるはずなんだ
魔力が桁違いに高いとか暴走した時の危険が高いとか……それなのに僅かしか魔力のないミーシャの試験官を務めるなんて不自然でしかない……師団長だけでなく、フェンデル公爵やおそらく父上も何かを知っている……」
「フィル……お前がティアラ嬢方がミーシャへ悪意を向けているあの場へすぐ駆け付けられたのはそのイヤーカフの魔石があったからだろう?
お前は……」
「………この際だから、ルドルフお前に言っておく」
フィルジルがルドルフへ鋭い視線を向けた。
「フィル……?」
「俺はお前には勿論、他の誰にもミーシャを渡すつもりはないし、ミーシャへ危機が迫っているのなら俺が守る
ミーシャが妃候補として居てくれるなら他の婚約者など俺はいらない
ただ……それを選ぶのはミーシャだという事だ」
「王子として伴侶になる者を決めるのにそんな中途半端な考えで他の人間が黙っている訳がないだろう?」
「ミーシャの気持ちを無視する事は俺はしたくはない
だけど……ミーシャを誰かに奪われるのを黙って見ているつもりも俺にはない」
「本気で動くって事?」
ルドルフを見据えるフィルジルの瞳には揺るがない気持ちが含まれていた。
「お前がそう思うのならそう思っていたらいい
だが……俺達のその事は一先ず置いておく
それよりもあの性悪女をどうにかする方が先だ
今までのミーシャに対してやっていた事もだが今回の事は俺は絶対に許さない
一歩間違っていたら最悪な事になっていた
ルドルフ、お前の力も貸せっ!
あの女を二度とミーシャや俺の前に姿を現せられないようにしてやるっ!」
「それは……まあ……僕も同感かな
彼女の件が片付いてから、フィルとはゆっくり勝負させてもらうよ」
◇*◇*◇*◇*◇
ミーシャがぼんやりと瞳をあけると見えたのは見覚えのない天井であった。そんなミーシャに傍についていた母親のルーシェはミーシャの頬へ掌をあてる。
「ミーシャ気が付いたのね……」
「お母様……?私……?」
「お茶会の途中で、池で溺れかけた貴女を殿下が助けてくださったのよ
陛下と王妃様が王城の客室を貸してくださったの
身体で痛む所やおかしな所はない?」
「身体は大丈夫……
溺れた……?
フィルが助けてくれたって……」
その時ルーシェの後ろにある人影にミーシャは気が付き、そちらへミーシャが視線を動かすとそこにいたのフィルジルであった。
「殿下もずっと貴女の傍についていてくださっていたのよ」
「公爵夫人、少しミーシャと話しをさせてもらっても構いませんか?」
「ええ、それでは私は少し部屋を出ていますわね……
ミーシャを宜しくお願い致します」
ルーシェが部屋を出て部屋にはフィルジルとミーシャの二人きりにとなった。
「あの……フィル……助けてくれたって……
ありがとう……」
「……どうして、俺が止めたのにも関わらず池の中へ入った?」
「だって……それは……ブレスレットを探さなければって思ったから……」
「そんなもののせいで、もっと酷い状況になっていたかもしれないんだぞ!?」
「そんなものなんかじゃないっ!
私にとってはとても大切なものだったの!!
私にって、フィルが作って贈ってくれたもので……失くしたくなかった……」
フィルジルは、今のミーシャの言葉に自分の贈ったブレスレットを喜んで大切にしてくれていたのだという嬉しさと、自分の贈ったもののせいでミーシャを危険に晒した怒りなどの様々な気持ちが綯交ぜになったような感覚を覚えた。
「お前は……」
──シャラッ……
フィルジルはミーシャの手を握ると掌になにかを握らせる。
「え……?」
それはあの時、ティアラに引きちぎられ池の中へ投げ捨てられたフィルジルが贈ったブレスレットであった。
「これ……どうして……?」
「俺が作ったものなんだから、俺なら池の中へ入らなくとも魔力で探し出す事ができるんだよ!
だから、あんな無茶をしなくとも良かったんだ!!」
ミーシャがそんな事を知っている訳がないことはフィルジルもわかっていたが、複雑な気持ちからそんな怒ったような口調になってしまう。しかし、ミーシャはそんなフィルジルの言葉につっかかる事もなく素直な言葉を返した。
「ありがとう……」
「え……?」
「見付けてくれてありがとう……フィル……」
ブレスレットをギュッと握り締めてホッとした嬉しそうなミーシャの表情にフィルジルの胸はぐっと苦しくなった。
「………そんなに気に入ってくれていたのかよ……?」
「嬉しかったの……フィルが傍に居るみたいに思えて……」
フィルジルは顔が熱くなるのがわかった。
(反則だろ…そんな言葉を不意打ちに聞かされるなんて……
こいつにとって深い意味なんてないんだろうけど……)
フィルジルは自分の気持ちを自覚してからミーシャの言葉や態度に振り回される自分の感情についていくのに必死であった。
ブレスレットは千切れた部分は既に直っていて元の形に戻っており、そのブレスレットをミーシャの手からまたフィルジルは取るとミーシャの腕に付ける。
「だけど……これのおかげでお前が危険な目に合う前に間に合った
今日みたいに故意的に千切られたりお前の恐怖心を魔石が感じ取ったら俺のイヤーカフの石と共鳴して俺に伝わるんだ
間に合って良かった……」
ブレスレットを付け終わった後思わずフィルジルはミーシャを抱き締める。そんなフィルジルの様子にミーシャは戸惑い慌てた。
「フィ、フィル!?
な、何っ!?」
ミーシャは自分の事を抱き締めているフィルジルの身体の大きさが出会った頃と比べてとても変わっている事に改めて気が付く。
(昔のフィルは……もっと華奢で背も私より小さくて……
こんなに身体もがっしりなんてしていなかった……
いつの間にこんなに大きくなったの……?)
フィルジルはそっと抱き締めているミーシャを離しミーシャの髪の毛を一束手に取ると自分の唇へ近付けた。そんなフィルジルの行動にミーシャの心臓は脈打つ。
「フィ、フィルっ!?」
「もう少し待っていてくれ……俺が終わらせてやるから……」
「終わらせ……?」
「お前は……心配しなくていい……」
ふっとフィルジルは柔らかい笑みをミーシャへ浮かべたが、その笑みはすぐ消え怒りを含んだような表情に変わった事にミーシャの心の中には不安がひろがった。
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