第1話 出会いは最悪
お久しぶりな方も初めましてな方も、一ノ瀬葵と申します。
二作目の連載開始致します。
設定の甘さなど目につく所もあるかと思いますが広い心で読んで頂ければ嬉しいです。
少しでも皆様が楽しめる事を願っております……
拙い部分も多いですが、宜しければご覧ください!
豊かな国であるローディエンストック王国は貴族社会の国である。
今日はその国の王子の未来の側近候補や婚約者候補を探す為のお茶会が王城の庭園で王妃主催で行われていた。
庭園には今年十歳になる王子の歳に近い年頃の貴族子息令嬢が集まっていた。
王子と同い年のミーシャ・フェンデルもそのうちの一人で、この国で古くからある家柄のフェンデル公爵家の令嬢である。ミーシャは銀色の艶やかなストレートの髪の毛に少しつり上がり気味の光の加減で何色にも見える灰色の大きな瞳を持つ容貌をしていた。
ミーシャは王城に到着してから溜め息しか出なかった。
それもこれもこのお茶会に両親から無理矢理出席させられたからだ。初めは出席しない方向になっていたはずなのに、お茶会開催日間際になって父親から令嬢の人数が足りないのでその場に居るだけでいいから出席してくれと言われたのだ。
庭園で周囲のざわめきがより大きくなった事にミーシャがざわめきの大きな方へ顔を向けると綺麗な金色の髪の毛を靡かせ透き通るような空色の瞳を持った天使のような少年を出席している子ども達が囲んでいた。着ている服装からも恐らくあの少年がフィルジル王子であろうか? と、ミーシャは思った。王子に興味がなかったミーシャは父親が見せてくれた姿絵をたいして見ていなく覚えていなかったのだ。
(それにしても……)
王子は周りを取り巻く令嬢方や子息達に公平に話し掛け、そして嫌な顔一つせずに笑顔で接していた。
(王族っていう人種はこういう所も特別なのかしらね?
私ならあんなに周りを囲まれてひっきりなしに話し掛けられたりするなんて面倒だし笑顔をずっと固定なんて出来ないわ……)
そんな風に考えながらそちらを見ていた時、こちらへ顔を向けた王子とミーシャは目が合ってしまった。ミーシャは辺りを見渡してみるが、王子の側で挨拶をしていないのは自分だけだと気が付く。
(挨拶……しない………訳には……きっといけないのよね……
まぁ……挨拶さえ終われば私の役目も終わったようなものかしら?)
そう考えながらミーシャは王子へ近付き綺麗な所作で淑女の礼をとる。
「フィルジル王子殿下、フェンデル公爵家長女のミーシャ・フェンデルと申します
本日はこのような素晴らしいお茶会へご招待頂いただけでなく、殿下にお会い出来る機会を頂き感謝申し上げます」
「出席して頂いて感謝していますフェンデル嬢
どうぞ、ゆっくりと楽しんでいってください」
フィルジルが丁寧な言葉で綺麗な笑みをミーシャへ向けた瞬間ミーシャは違和感を感じる。
ミーシャには特技のような人間の本性を察する鋭い直感を持ち合わせていた。
目の前の人間の内面の感情を感覚で察する事ができ、その直感は九割以上の確率で当たっていた。裏で悪どい事を考えていながら取り繕い善人のような表の顔があるのかというような事を直感で感じる事ができたのだ。
そして、今ミーシャは目の前で自分と挨拶を交わしているフィルジルの姿が表向きの姿のように感じた。
(嘘くさい表情……この笑顔……作り物の笑顔みたい……
フィルジル殿下の周囲の人へ向ける完璧な王子の姿って……作り物って事……?
この笑顔の下でどんな事を考えているのよ!?)
「…………………」
「フェンデル嬢どうかされましたか?」
(……でも……王子の裏の顔なんて私には関係がないものね
そもそもこの貴族社会でその本性が善人なのか悪人なのかは置いておいて素の顔をそのまま出す人間なんて殆ど居ない訳だし……目の前の王子が人前で余所行きの顔をしていたって問題がある訳じゃないわ
そういう私だって笑顔を作って外向きの態度をとっているのだし……挨拶さえ終われば後は目立たないように過ごして今日のお茶会は終了……
それに、これ以上側にいたら……知りたくもない事まで察してしまいそう……)
ミーシャは笑顔をフィルジルへ向け、もう一度礼をした。
「いえ、なんでもないですわ
殿下とお話されたい方が他にも沢山いらっしゃいますから、私は御前失礼致します」
「そうですか……」
ミーシャはフィルジルの前から下がると人気のない方へ歩いていった。
そこは、庭園の中に作られた池で周りを木々が囲んでいるような場所であった。
「ふぅ……ようやくこの作り笑顔もいらないわね
本当に貴族の社交って面倒……これが、デビューしたらもっと増えるなんて今から気が重たいわ……」
ミーシャは特に気にする事もなくドレスのまま芝の上にコロンと寝転んだ。見上げた空は青く澄んでいた。
「まるで王子の瞳みたいな空ね……
………王子の瞳が空のよう?
って……別にあの似非笑顔の王子の事なんてどうでもいいわ……」
「──ミャァ……」
その時に聴こえてきたか細い鳴き声にミーシャは身体を起こす。
「鳴き声?」
辺りを見渡すと自分の傍の木の上に真っ白な毛色の仔猫が震えて座っていた。
「え? あなたどうしたの?
もしかして、登って降りられなくなっちゃったの?」
ミーシャは辺りを見渡すが誰も近くにはおらず、一つ息を吐くとミーシャはドレスの裾を捲り上げた後、木に登り仔猫を優しく手で包み助けた。
(お城の木にこんな格好で登ったなんてお父様とお母様に知られたらどんな事になるやら……誰かが来る前に早く降りなきゃ……)
その時、こちら側へ誰かが話しながらやってきた事に気が付く。
(ええっ!?誰よっ!?お茶会中にこんな所に来る人はっ!
降りられないじゃないっ!!)
木の下までやって来た二人はそこで立ち止まり話を続ける。
そのうちの一人の機嫌はとても悪いようであった。
「ったく……父上も母上も何でこんな面倒な催しをするんだよっ!」
「フィル……陛下も王妃様もフィルの婚約者が未だに決まっていない事を危惧したのだと思うよ?」
「そんなの、こんな歳からいらねぇよっ!!何で俺がニコニコとあの騒がしい奴らに愛想を振り撒かなきゃなんないんだよ!!
あいつら、俺が王子だから親に言われて付きまとっているだけじゃねぇか!
俺が王子でなきゃ誰も寄ってもこないくせに……」
木の上にいるミーシャは驚きで言葉が出なかった。
木の下で悪態をついているのはこの国の王子でその横には王子と同じ年頃の男の子がいた。黒色の髪色のその男の子は上等な服装からして高位貴族の子息であるように思われた。
ミーシャが驚いた訳は、先程まで出席者の令嬢方に笑顔で礼儀正しく接していた王子の、別人ではないかと思うぐらいの口の悪さと態度を知りたくもないのに知ってしまったからだ。
(あの態度は作り物だと思ったけど……こんなに……)
──ミシッ……
(え…? ミシッ? って……)
ミーシャが違和感のある音に気が付いたのとミーシャがいた幹が折れるのは同時で突然体勢が崩れた事に思わずミーシャは悲鳴をあげた。
「キャッ…!?」
(お、落ちるっ!!)
その瞬間ミーシャの身体を温かな風が包み込んだような感覚をミーシャは感じ衝撃に備えて固くしていた身体には痛みを感じる事はなかった。むしろ地面の硬さとは違う感触に疑問がわく。
「え……? い、痛く……ない?」
「……大丈夫ですか?」
「え……?」
「怪我はありませんか?」
ミーシャは自分の状況に驚く。それは自分が王子の上に乗っかっていたからだ。
「似非王子っ!?あ……っ!!」
思わず口から出てきた言葉にミーシャは口に手をあてるが目の前のフィルジルの表情は先程の柔らかい表情とは全く違う黒い表情に変わっていく。
「………あなたは……フェンデル嬢でしたね……?
似非王子とはどういう意味でありますか?
私は歴としたこの国の王子であり偽者ではありませんが…?」
「い、いえっ……殿下が偽者という訳ではなくて……殿下の口調と態度が作り物……っ!!」
(私のこの口は~~~)
「お前……さっきの俺とルドルフの話を聞いていたな……?」
「っ!!!?」
絶対零度の笑みを浮かべたフィルジルにミーシャの体感温度は氷点下まで下がったのかもしれない……
(ごめんなさい……
お父様、お母様……私は王子を怒らしてしまいました……
もう我が家の安泰は……)
ここまで読んで頂きありがとうございます。
初魔法系のお話になります!
色々とご意見はあるかと思いますが……大きな心で見守って頂ければと願っております……