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魔王、勇者に討伐される

「この扉の先に居る魔王を倒せば全てが終わる!

賢者!魔導師!準備は良いか!?」

「大丈夫です!」「はい!」


人々が苦しむ姿が彫刻された大きな扉が、

錆び付いた大きな音を立てながら左右に口を開く。


これが魔王の城ではなく、王族の住まう城ならどれだけ気が楽な事か。そして部屋の最奥には、王族が座する代わりに、魔王がその椅子に鎮座する。


「「勇者よ、良くぞここまで辿り着いた。だが、その様なボロボロの姿で余に勝てると思っているのか。」」

重苦しい空気が魔王の言葉と共に、より一層重みを増して室内に充満していく。


「魔王グレアム!今日が貴様の命日だ!貴様のせいで露と散った者たちの無念。ここで晴らす!」

勇者は剣を正眼に構え、賢者と魔導師は杖を用いて呪文を詠唱し、戦いの火蓋が切って落とされたのだ。


攻防は一進一退であったが、雌雄を決したのは勇者が隠し持っていた一振りのショートソードであった。


「「まさかその剣はっ!」」

「魔王グレアム!お前の命を絶ち、人々を解放する!」

賢者と魔導師が呼吸を合わせた魔法攻撃を放つ最中、勇者はショートソードを腰だめに構えて突進する。そのショートソードは吸い込まれるように魔王に突き刺さると音もなく魔王の体に吸い込まれた。


「魔導剣滅!終わりだ、魔王グレアム!」

「「余が、余が負けるというのかぁぁぁぁ!!」」


断末魔の叫びを最後に、

魔王グレアムは滅び、世界に平和が訪れた。


勇者一行は魔王城に蓄えられていた財宝を持ち帰り、

魔物に荒らされた世界を復興する資金源とした。


また、平和になった世界は勇者達を世界を救った英雄として称え、最大限の尊敬と謝辞を送ったのだ。


「------魔王グレアム、今度はお前の番だ。」

「勇者ー?早くしないと置いていくよ!」

「ああ、今行く。」


こうして今日も勇者達は世界を旅をして行くのだ。

---FIN


ここまでが世界で語られた、平和をもたらした勇者のお話。

ここからはこの世界が知らない別のお話。

―――――――――――――――――――――――――――――

-------System:魔王グレアムの死亡を確認

-------System:勇者候補作成プロセスを開始

-------System:魔王グレアムの魂を取得開始

-------System:Success

-------System:魔王グレアムの魂を保護開始

-------System:Success

-------System:魔王グレアムの魂に勇者の素質付与

-------System:Error

-------System:魔王グレアムの魂に勇者の素質付与

-------System:Error

-------System:魔王グレアムの魂に魔王の素質付与

-------System:Success

-------System:魔王グレアムの魂を人間に定着開始

-------System:魔王グレアムを異次元世界へ転送完了

-------System:勇者候補作成プロセス終了

―――――――――――――――――――――――――――――

(----勇者に討ち滅ぼされたハズだが、何故意識があるのだ…。暗闇に居ながらにして手足の感覚まで備わっているではないか…。はて、実は余は敗北などしていないのではないか?)


頬を撫でる柔らかな風と、暖かい空気にどうやら自分が生きていると言うことに気がつかされる。

そして、実際に暗闇に居るわけではなく、自らの目を閉じているだけという事にも気がつかされる。


ゆっくりと目を見開くと、そこは見慣れた居室ではなく、予想していたように屋外。

視界に写るのは陽射しを受けて青々とした草原に、

遠くの方で霞んで見える建築物の群れ。

そして、耳に入るのは風が葉を揺らす音。

(先程まで戦っていた魔王城とは全く異質の場所か‥‥)


穏やかな空気の流れの中、地面へと腰を下ろしてから呟く。

「勇者と戦った後、余に一体何が起きたのだ…」

---System:魔王グレアムは異次元世界へ転生。


不意に頭の中に誰ともつかない中性的な声が響き渡る。

唐突な出来事に視線を再び周囲に巡らすが、人影も魔物の姿も無い。

(勇者との戦いに敗れて、余の頭は狂ってしまったのか?)


頭の中に響いてきた言葉の主に話しかけるように言葉を紡ぐ。

「余に話しかけて来た貴様は何者だ。姿が見えぬが何処に居る?」

---System:世界の選択、あるいは、管理者。そして物質としては存在しない。

(何を言っているのか全く理解が出来ぬ‥)


「余が狂ってしまった訳ではなく、姿は無いが会話が出来ると言うことか?そしてお前は余の敵か?味方か?」

---System:肯定。敵でもなく味方でもない。

(よくわからんが、とりあえずは害は無い‥。と言う事か。)


「異次元世界へ転生と言ったが、余は勇者に敗北したのか?」

---System:肯定。魔王グレアムという存在は消滅。


「何故、余を異次元世界へ転生させたのだ?」

---System:世界の理、定め。


「世界の理?定め?もっと簡単に説明しろ」

---System:…………。運命。

(全く埒があかぬ…。)


「余はこの世界で何をすれば良いのだ?」

---System:人々を導き、世界に秩序と平和を。


「‥‥‥つまりは、余に勇者になれと?」

---System:否定。世界に秩序と平和を。


「世界に秩序と平和をもたらすのは勇者の仕事ではないのか?」

(少なくとも、余が居た世界ではそうであったが‥)

---System:否定。世界が求める者。旅をして見定めよ。


「旅をして見定めよ‥とな。面白い事を言う。なら余の行く末を示して見せよ。」

---System:否定。行く末は自らの決定で定めるべき。


「命ずる割には役に立たんのだな。」

---System:‥‥‥‥‥


一瞬重苦しい沈黙が穏やかな空気を排除し、その場の支配権を譲り受ける。

(‥‥‥‥、触れてはいかん部分に触れてしまったか?)


「‥‥‥とりあえず余の状態を確認したい。術を教えろ」

---System:□マークを選択。情報表示。

沈黙に支配されていた状態を取り除くように、再び会話(?)を始める二人(?)


(□マークとはなんだ?さっきから視界に写り込むこれか?)

手を伸ばして触れると同時に、視界に半透明で何種類もの窓が突然現れた。


「なんだこれは!!余の目が異常をきたしたのか!?」

---System:否定。目は正常。情報解説。

---System:

左上:ステータス情報。

左中央:スキル情報。

左下:クエスト情報。

右上:所持品情報。

右中央:PT情報

右下:未解放。解放条件は秘匿。


(余は勇者との敗北で数多の異常を抱えてしまったのか…?)

順番に窓に触れると触れた窓が大きく表示され、再度触ると小さくなる。×の所に触れると□に戻った。


「ふむ……。これはなんと奇妙な……。」

再び□に触れて、窓を表示してステータス情報を拡大してじっくり内容を確認していく。


[ステータス情報]

職業 無職

レベル:1

年齢 16

性別 男

種族 人間

HP 300

MP 100


「余が、余が人間だと!?これは間違いではないのか!!

しかも無職だと!これは一体どういう事だ!」

---System:転生先の種族は選択不可。魔王という職業は存在しない。つまり魔王グレアムも無職(魔王)


「なんと言うことだ‥。人間に成っただけではいざ知らず、魔王は無職扱いだったとは‥」

(では何か?余の右腕たる四天王達よりも余は劣っていた‥?)

---System:情報解説を継続

HPは体力。0時点で死亡。

MPは魔力。0時点で気絶。

スキル、魔王の素質により高基礎値。


愕然としている間にも謎の存在は矢継ぎ早に続ける。

「……魔王の素質とはなんだ。」

---System:魔王の素質はユニーク潜在スキル。

現時点での効果は所有者の肉体強化、魔力特性強化。


「余の力が引き継がれている。と言うことか。」

---System:肯定。


「余の行く末が解らなくても、近くの街くらいはわかるのだろう?ここから一番近い街は何処か?」

---System:緑花(りょくか)都市ヘルミナ。


「その街には何があるのだ?」

---System:質問通り、現在地より一番近い。

(割りとこいつ適当な事言っているんじゃなかろうか‥?)


「確認の為に聞くが、遠くに霞んで見える建築物の群れがそれか?」

---System:肯定。現在の移動方法は徒歩のみ。

(わざわざ説明せんでもわかるわ。)


腰を下ろしていた地面から立ち上がり、視線を進むべき方角へ向ける。空は雲ひとつなく青々と広がり、陽射しは進むべき大地を明るく照らす。


ゆっくりと大地を踏みしめながら、歩き始め全身に陽射しと暖められたそよ風が駆け抜けていく。

(魔王の時分には縁の無い事であったな‥。)


「そうだ貴様、名は無いのか?性別はあるのか?」

---System:名前という概念も性別という概念は存在しない。


「では、余が名をつけてやろう。貴様はこれよりアインと名乗るが良い。魔王城で余の右腕として働いていた者の名だ。

余を護り勇者の剣で命を散らしたがな‥。」

---System:呼称アイン。肯定。


こうして、元魔王と新たな名を受けた謎の存在アイン。

二人の新たな物語が幕を開けたのだ。


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