クレアとオムライス 後編
「で、シフォンちゃん、パーティーに入れたの?」
セレナさんがシフォンに向かって聞いた。さっきグレカロイドの頭にオムライスをぶっかけたにしては、落ち込んでいない。
やっぱり500年も生きてると肝っ玉も太くなるな・・・。
当のグレカロイドは、シフォンに頭を拭いてもらったのが嬉しかったのか、相も変わらず酒を煽っている。
一方クレアは、「オムライスたべたいー」と駄々をこねていたが、今はシフォンの膝の上に座り、セレナさんが作り直してくれたオムライスに舌鼓を打っている。
てか、オムライスなんでそんなに好きになったんだろ。初めて食べるからか?
あんなにクレアを奪おうとしたセレナさんも、どうやら諦めてくれたようだ。
「い、いえ・・・」
シフォンが力の無い声で言った。
「うーん・・・やっぱり、防御魔法だけじゃ厳しいか・・・」
「あの、セレナさんとシフォンちゃん、どうゆう関係なんですか?」
俺が、隣のセレナさんに向かって言った。さっきのどさくさに紛れて、いつの間にか酒を煽っている。
酒が喉を通り抜ける度に、大きなおっぱいが揺れる。ていうか、おっぱい大きすぎだろ。
「あぁ。一週間くらい前にこの子が店で、パーティーに入れてもらえないって一人で飲んだくれてたもんだから、相談に乗ってあげたの。それから毎日ここで飲み合う付き合いだわ。てか、あんたは?」
なんか会ってほとんど経たないのに馴れ馴れしい気がする。まあこの人と俺、400歳以上歳が離れてんのか。・・・当然か。
「クレアが昨日、シフォンちゃんに迷惑かけちゃって・・・。あと、偶然にも部屋が隣だったんですよ」
俺も酒を一杯飲む。舌に苦い味が溶け込み、強い刺激臭と共に液体が喉を通り抜けていった。
やっぱりキツい。何度飲んでもこの味にはなれそうもないな。よくこんなもん飲めるよなー。
「あれ?もしかして剣を振り回して、メイド服を着させた子ってこの子?」
セレナさんがクレアを見た。クレアは構わずにオムライスを食べている。
・・・メイド服?
「ちょっと、セレナさん!メイド服は違います!」
「あれ可愛かったなー。あの格好でパーティー申し込んだら、男達はみんなOKするんじゃない?」
「そんなの絶対嫌です!都会は恐ろしいですから、何されるか分かりません!」
「そう?」
セレナさんが笑いながら言った。
確かに、昨日のシフォンちゃん変な格好してたかも。
「何でパーティーに入れてくれないんだ?」
「私、防御魔法しか使えないんですよ・・・」
「え?他の魔法とかは?」
「・・・これしかできませんでした」
「・・・回復魔法とかは?あれだったら勉強さえすればどうにかなるだろ」
「いえ、私、勉強嫌いなんです」
「え?」
「いや、だから、勉強嫌いなんです」
「いやいやいやいや、生活かかってんじゃないの?」
「私は自分に嘘をつくくらいなら死んだ方がマシです」
「アッハハハハ!やっぱりあんた面白いわねー」
酔いが回って顔が赤くなったセレナさんが笑った。500年生きて、あらゆることを経験したはずのセレナさんが笑っている。
シフォンが、ちょっとドヤった顔をしてきた。
「あ・・・そう」
ふと前に視線を横移すと、グレカロイドがチラチラとシフォンの方を見ていた。その怪しげな姿は、犯罪者にしか見えない。
その犯罪者は、俺の方へ身を乗り出した。
「おい、トール」
「あ?」
「なぁ、俺達のパーティーに、シフォンちゃんを誘わねえか?」
「・・・は?いやいや、誰のパーティーだよ」
「いや、だから、俺達のパーティーだって」
「なんでお前とパーティー組まなきゃならねえんだよ」
「おいおい、俺達は絶対無二の親友だろ?」
「やだよ。お前、体がデカいからすぐ敵に見つかっちまうじゃねえか。俺のスタイルに合わねえーんだよ。てか、そのポーズ止めろ。なんか変な目で二人がこっち見てるから」
セレナさんとシフォンが、「二人でコソコソなにしてんの?キモ」という目でこちらを見ている。あ、シフォンちゃんはしてないか。
「頼む!一生のお願いだ!俺とパーティーを組んでくれ!」
グレカロイドがツルピカ頭をこちらに煌めかせて言った。
「あ!そうだ!グレカロイド、あんたシフォンとパーティー組んであげなさいよ。あんた、どうせボッチでしょ?」
お、セレナさんナイス!
シフォンが、興味あり気にグレカロイドの方を見た。
「え!あ、あ・・・・」
グレカロイドは、机をバンッと叩いて立ち上がった。シフォンと目が合う。
「・・・お、おれ・・・こいつとパーティー組むんで、無理です。」
・・・は?
シフォンが、ガッカリした表情を浮かべた。
もういいや、どうなっても。こいつマジでめんどくせえ。
「おいおい、シフォンちゃんもパーティーに入れればいいだろ?」
グレカロイドが、意外そうな顔でこっちを見た。
「おい、いいのか?」
「え!?いいんですか!」
二人の声がハモった。
「ああ、いいよ」
「やったー」
シフォンが、クレアを抱きしめた。クレアは、?というような表情だ。
「あれ?シフォン顔が暗いぞ?どうしたんだ!?」
オムライスを食べ終えたクレアが、シフォンの顔を見上げている。
「そーう~?」
クレアがシフォンのほっぺたを手で弄り始めた。
なんか、この光景は微笑ましい。
「はー良かったー!これでお金の心配しなくていいし、田舎にも帰らなくて済むー」
シフォンが安心したような顔を浮かべて椅子にもたれかかった。
けっこう辛い生活をしていたのだろう。もうちょっと他の努力をすれば、全然いけたのに。
「アハハハハハハハハ!よかったな!」
クレアがシフォンの膝から飛び降りて言った。そして、そこから既に泥酔したセレナさんの席に回り込んだ。
「とーちゃん!書くもの!」
そう言って俺に手を差し述べる。
「はいはい」
俺はお得意の金魔法をペンの形に変えた。そして、その中に黒色の重めに錬成した水を加える。
「ほい」
クレアの手の上に乗せた。すると、笑顔のままセレナさんの顔に落書きをしまくる。
「ちょ・・・クレアちゃん」
「シフォンもやるか?!」
「え・・・ぷっ・・・・・や・・やる」
途中まで渋っていたが、セレナさんの顔を見て、やる気になったようだ。
けっこうイタヅラ好きなんだな。
その横で、グレカロイドは一人で何かブツブツ言っている。
俺はその光景を見ながら、つまみを口に含み、酒で流しこんだ。やっぱりこの味には馴れない。
意識がもうろうとしてきた。酔いが回ってきたようだ。周囲の笑い声や話し声だけが、耳の片隅に残っていく。
俺達の日常は、これからどうなっていくことやら。
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