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クレアとオムライス 前編

「トール、ところで、荷物はもう入れ終わったのか?」


 目の前で豪快に酒を煽っている、大柄な男が言った。顔のサイドは髭で覆われており、時々ツルピカの坊主頭が反射して光る。


 こいつはスキンヘッドだと言い張っているが。


「あぁ、まあな。こいつは俺を置いてどっか行っちまってたけどな」


 隣でお子様ランチをむしゃむしゃと食べているクレアの頭を抑えて言った。


 この体格のいい坊主男の名は、グレカロイド。この町の冒険者で、俺の腐れ縁だ。


 今日はここのギルドに来て移住手続きをした後、ちょうどクエストから帰ってきたグレカロイドとばったり鉢合わせた。そして、ついでにギルド内の酒場で一緒に飲んでいる。


「なんだ?またこいつどっかいなくなってたのか?」


「ああ。俺が遊び道具で作った剣と盾を道端で振り回しやがった。しかも、歩いていた女の子にその剣で勝負挑んで、その剣、水と光の魔法を使って組成したもんだから、途中で剣の形が崩れて、その女の子に水をぶっかけた」


「ハーハッハ!なんだよそれ。意味分かんねーな。さすがクレアだ」


 グレカロイドが大声で笑いながら言った。手に持っている酒がグワングワン揺れている。


「んーんへはもへふはっは!」


 クレアがこっちを向いて言った。


「わ!おいおいー食いながら喋るなよ。オムライスが散っただろ?」


 こっちを見ながらクレアは必死にモグモグしている。ゴクリと飲み込むと、真剣なまなざしで言った。


「クレア、ちゃんと謝ったもん!」


「あーまぁそうだな。謝ったからもういいか」


 そう言うと、クレアはにっこりと微笑んだ。


 やんちゃなクレアだが、やっぱりかわいい。


「はいお待ちー」


 声に少し驚いて振り向くと、店員さんがいた。どうやら、頼んでいた料理がきたらしい。


「お!きたきた」


 グレカロイドがそう言って酒を置いた。すると、


「あれ?あんたグレカロイド・・・よね?」


「お、よお。セレナ。どうした?」


 串の肉にがっつきながらグレカロイドがその店員に聞き返した。知り合いなのか?


「いや・・・いっつも誰かと騒いでるあんたが、こんな子連れと一緒に飲んでいるからさ。なんか声かけづらかったんだよねー。まあ、その体格見た目だからすぐ気づいたんだけどね」


 セレナと呼ばれているその店員は、グレカロイドの頭をツンツンしながら言う。


 改めて見ると、とても美人だ。すらっとしたわがままボディに、へそを大胆に出している。金髪のロングで、いかにも酒場の店員という感じだ。耳が特殊な形をしている。もしや、エルフだろうか。


「おいおい、この頭のことは言うなよ。傷つくだろ」


「何言ってんのよそんな大きい体のくせして。それで、この二人は?」


「あ、そうか。えーと…こいつはトール。俺の・・・何だろうな・・・腐れ縁?かな?」


「へー。で、この子はこの子は!?」


 俺のことはどうでも良さそうだが、クレアには関心があるようだ。


「あぁ、そいつはクレア。トールが1年ぐらい前に拾った子供だ」


「え!あんたの子供じゃないの?」


「はい・・・そうですけど」


 けっこうグイグイくるな。


「へぇー」


 セレナさんは興味深そうな反応を見せると、俺の後ろに回ってクレアに近づいていった。クレアはというと・・・相変わらずむしゃむしゃとオムライスを食べている。


「ねえ、そのオムライスおいしい?」


「もいしい」


「だから食いながら喋んなって。すいません。散っちゃいましたね」


 ハンカチをポケットから取り出したが、それを手で制された。


「いいですよ。このくらい」


 そう言うと、にこやかな表情を崩さないまま、ハンカチ顔を拭く。ちょっと怖い。


「それより、触っていいですか!この子!」


「え、あ・・・はい・・・」


 セレナさんの目の輝きが凄い。それに押されてOKしたが、大丈夫だろうか。


「ねえ・・・クレアちゃん?」


「なんだ?」


「・・・・きゃー!可愛い!」


 ムギュッという音がした。クレアが、セレナさんの巨乳に飲み込まれている。


「ん・・・んんんん」


「あー!動かないでーくすぐったいー」


 ちょっと、苦しそうなんですけど。


「あ、あの・・・」


「おい、トール」


 グレカロイドが小声で話しかけてきた。


「セレナはな、こう見えても500年生きてるんだ。見たとおり、エルフだろ?こいつ、冒険者として魔王を倒した後、もうやることなくなったからって言って、ここで働いてんだ。もう人きる糧が人をいじるか、可愛いものを見ることなんだそうだ。まぁ、こいつも色々苦労してる。察してやってくれ」


「へぇー魔王倒したのか、凄いな」


「ああ。まあ、パーティーだったそうだけどな」


「ふーん、じゃあしょうがないか」


 フライドポテトを頬張り、肘をつく。


 セレナさんを見ると、嬉しそうな顔でギュッとクレアを抱きしめている。


 ま、クレアは可愛いからな。しょうがねーか。


「・・・ッパ!ハァ・・ハァ・・ヤメろ・・・」


 クレアがおっぱい地獄から脱出した。すると、ガチャンという音がした。どうやら、ギルドの扉が開いたようだった。


 何げなく見ると、中に入ってきたのは俯きながら重く扉を閉める女の子だった。少し茶髪がかったロングの髪が、さらさらと歩く度に靡く。


 あれはシフォンちゃんではないか!


「お、」


「あ!シフォン!」


 俺が昨日のお礼も兼ねて呼ぼうとすると、クレアが先に反応した。酒場に響き渡る大声で、一瞬静かになった。


「あ、ちょ、クレアちゃん!」


 クレアは嬉しそうな顔で、セレナさんから抜け出し、シフォンの元に駆け寄っていった。セレナさんは、悲しそうな表情をしている。


 それにしても、シフォンはどことなく表情が暗い。何かあったのだろうか。


「あれ!?シフォンじゃん!」


 クレアを名残惜しそうに見ていたセレナさんが、突然声を上げる。


 ・・・もしかして知り合いか?


「おい、なんだよあの子。お前らの知り合いか?なんだか俺だけ仲間はズレなんだが・・・」


 グレカロイドがシフォンの方と俺とを交互に見ながら言った。クレアは、シフォンと何やら話している。


「あぁ、あの子が昨日、クレアに水をぶっかけられた女の子だ。昨日、荷物を運ぶの手伝ってもらった」


「あーなるほどな。あの子か・・・って!荷物運ぶの手伝ってもらったってどうゆうことだよ!」


「え?あーあの子部屋が向かい側だったんだよ。偶然な」


「くそー!なんだよーお前!あんな可愛い女の子とお隣さんなんて!」


 何でこんなに駄々こねてんだ、こいつ。


 グレカロイドはそう言うと、酒をグビグビっと煽った。


「何がグーゼンだよ。・・・そうだ!俺のことも紹介しろよ!」


「お、おう」


 グイグイ来るな・・・。そういや、こいつ今年で38だったけ・・・。


「おい、ちなみにシフォンちゃんは18だぞ」


「なに!?俺の倍以上あるじゃねえか!・・・じゃあ無理かーあーでもなー・・・うーん・・・そうだ!もし10年後だったら・・・シフォンちゃんは28で、俺は48!もう2倍じゃ・・」


「あの、お邪魔していいんですか!」


「いいぞいいぞ!」


 クレアがシフォンちゃんを押して、グレカロイドの隣に座らせた。


「いいよいいよ。こいつ持ちだから」


 そうやってグレカロイドを指差した。グレカロイドは、ちまちまと酒を飲んでいる。


 何恥ずかしがってんだよ。


「あれ?もしかして、トールさんたちも知り合いでした?」


 何か、さりげなくセレナさんもクレアが座っていた席を陣取っている。


「あークレアのせきー」


「え~?どうしたの~?あ!このオムライス食べたいんだぁ~。じゃぁ、こっちこなきゃね~。ほら、お姉さんの上、空いてるよ?」


「やだークレア、シフォンの上がいいー」


「じゃあこのオムライスはお預けねー」


 そう言うと、セレナさんがオムライスを腕で囲った。


 大人げないなーこの人。


「ク、レ、ア、の、オ、ム、ラ、イ、スー」


「わ、た、さ、な、い、わ、よー」


 二人がオムライスの皿を引っ張り合っている。


「ちょ、割れるぞ」


 皿が震えている。やば・・・


「「「あ!」」」


 セレナさんの手が滑った。


 皿から飛び出したオムライスは、宙を舞う。


 時間が止まったような気がした。


 オムライスは形を崩しながら、あたかも始めから狙いを定めていたかのように、そこへ向かって放物線を描いていく。


「ベチャ」


 オムライスは、グレカロイドの卵頭に着地した。

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