全ては……
1
空は青い。
体育館裏は日陰であり、空の青さと日陰の暗さを眺めている。
山田はなにかいいたげだけど、私は無視していた。
好きだ。
そうはいわれたけど、私の気持ちは少しもかわらない。
かわらないから……。
体育館通路から二人が走ってきた。
二人……一人は優子だ。
もう一人は。
「やよいちゃん、山田と行くって! 本当に?」
アカネが息を切らしている。
私は少しこの子が落ち着くのを待つ。
落ち着いてくると、私ははじめる。
「アカネ、バカ!」
「え?」
「あんた、どうしてこんなことをしたの」
私は怒る。
少なくとも、無表情にはなれない。
まして、絶対笑えない。
「なんなの? やよいちゃん、私よくわからない」
「すべては、公園の言い争いからはじまった」
私がそういうと、アカネが少し震えた。
「優子と山田の言い争い。あれは、私のこと。これは少し前にここで山田から聞いた」
そういうと、私は山田をみた。
そして優子も。
「実は私も、あのやり方を断片的だけど聞いていた。アカネと二人で」
私の言葉に、優子と山田が顔を見合わせた。
その表情には、驚きがある。
やはり! アカネは私が聞いていたことを、二人に伝えてなかった。
「アカネ、あんた、はじめに山田に会い。山田からあることを聞き出した。それは私への感情だった。つまり、『好き』というモノだった」
「……」
アカネが黙って聞いている。
私は続けた。
「そのあと山田と別れると、優子に連絡をとった。理由は今回のこと。そして優子への肩入れ……つまりは味方になる約束だった」
「なんのために?」
「優子に山田の目を戻すためよ」
私は優子をみた。
ほんの少しうつむき加減だけど、私を見てくれている。
「優子、山田のこと好きよね」
私の問に、コクンとうなずく。
すると私はアカネに手を出した。
「スマホ貸して。アカネ!」
アカネが無言になり、黙って私にスマホをわたす。
「みるよ。拒否しても!」
きつく私はいった。
スマホを立ち上げ、山田を呼ぶ。
携帯電話の履歴をみる。
「これは、俺の番号!」
これで繋がった。
私は確信した。
電話の主は、アカネである。
いくら非通知にしても、持ち主のスマホにははっきりと記録がある。私は運がいい。
電話の履歴削除されてなかったから。
そして一気にまくし立てた。
「アカネ、あんた! 山田におかしな行動とるように、誘発したね。それがこの電話だった。タブレットは本来個人責任に置いて管理しないといけない。だけどそれが、できないときがある。英語のヒアリングの送信よ。受信に時間がかかるからどうしても無防備になる。私を誘ったのは、私とジュースを飲みたい訳ではなかった。私をタブレットから引き離すことだった」
「……それで」
「アカネの行動は、おかしかった。まず、待つのがキライなあんたが、レジを待とうといったこと。次に買ったジュースを飲まなかったこと。レジを待ったのは、時間稼ぎよね。私が教室に、戻ろうといわないために」
「……ジュースを飲まなかったのは、私はそのとき、のどが渇いてなかったから」
アカネがいった。
どこか観念したように、ポツリといった。
「アカネ、右手のクセ、私は知ってるよ。うまくいくおまじない。あんた、右手のグーパーを何回もするよね。それを教室からでるときしていた。はじめはテストかと思ったけど、それでも引っかかった」
私はアカネの右手をみた。
いまは開かれたままだった。
するとアカネがしゃべりはじめる。
「山田がパターンブロックをするのはわかってた。なぜなら昨日の電話、私がまくし立てしゃべったとき、いったもん。『それなら、俺は守る! 救済措置で』そういったの」
私は山田を、みた。
「確かにいった。さっきはいわなかった。スマン」
山田が頭を下げる。
これで完全に……待ってまだ一つ繋がってない!
「アカネ、どうしてこんなこと、思いついたの?」
そうこれだ。
これを聞かないといけない。
「……優子を助けたかった。だって、優子は山田を本気で好きだから。幼なじみ、それで終わりたくない! その想いに味方したかった」
アカネが泣いていた。
さっきの涙に似ている。
つまり、教室で謝っていたときのアレに。
だけど……それだけではないように、私は感じている。
「それだけ? 本当に?」
アカネが黙り込んだ。
まだ隠している。
私は確信した。
……だけと、そろそろ一つの区切りを入れる。
「山田、さっきの返事する。好きの返事だよ」
山田がいきなり私をみた。
それと当時に、アカネ、優子も続く。
「私は、あんたが、嫌い。それも大嫌い。だから、あんたと会うと私は逃げ腰になった。理由は私にいじわるだった。いま思うと、私の気を引くためだった。それがわかった。でも、嫌いは嫌い。山田を体が寄せ付けないの……ゴメンナサイ!」
私は深々と、山田に頭を下げた。
ここまで、やることはない。
だけど……これがいま、私にできる精一杯だった。
しばらく沈黙が続く。
沈黙が続き……。
「わかった、俺も男だ。受け入れる。いままですまなかった」
山田が頭を下げた。
その瞬間、優子とアカネが泣いた。
……わからない。
優子が泣くのはわかる。
それは、山田が好きだから。
そこに私が現れた。
いってしまえば恋敵だ。
だけど、ここではっきりさせた。
嫌い、大嫌い……と。
だから、泣いた。
おそらく嬉し泣きだ。
だけど……アカネがわからない。
なぜ、アカネが泣くの?
私はいつもアカネといっしょ。
例えこんなことがあっても……あっ! そうか!
「アカネ、あんたはあんた! こんなバカなことしても、アカネが好き。もう、バカ!」
「…………やっ、やよいちゃん! うあーん!」
やっぱり、この子は!
私が友達絶交するなんてないよ。
アカネに私は激しく抱きつかれ、大声で泣いている。
「やよいちゃんは、私のやよいちゃん!」
あらあら、大袈裟ね。
私はアカネの頭を撫でている。
これで丸く収まった。
私は空を見上げる。
相変わらず、青かった。
これでおわ……ん?
ん? 優子と山田が、私達をみている。
その顔が、どこか真っ青だ。
私は頭を捻っている。
「やよいちゃん、私、帰り支度するから。私を許してくれるお礼に、荷物持ってくるから」
アカネが、教室に帰っていく。
私は優子と山田、三人で体育館裏にいる。
だけどここに、私がいる必要はない。
むしろ邪魔だ。
「私も、アカネ追うわ。なによ、はしゃいで! 友達だから当たり前でしょ」
そういいながら、体育館裏を離れた。
さて帰ろう。
「なあ、優子、まさか坂本は……」
「貴史、やよいは、気づいてないよ」
「坂本の助けてくれた理由って!」
「だめ! これ以上は!」
おわり