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山田

 1


 私は一人別室でテストを受けた。

 実は今回みたいなかとがあると、別室でのテストをおこなうことになっている

 学校の救済措置だ。

 そして本来なら自己管理不十分で、反省文を書かないといけないのだが、英語のヒアリングは少し違っている。 

 これは無防備になるためだ。

 だから先生も、かなり寛大だった。

 

 テストは上手くいった。

 動揺はあったけど、なんとかなった。

 でも、気分は晴れない。

 モヤモヤが続く。

 

 教室に帰る。

 ホームルームは終わったようで、教室は疎らだった。

 それでも私に視線が集まる。

 なんだか、ためらってしまう。

 それでも席に戻ると、少し周りをみる。

 アカネが優子を慰めている。

 優子がすごく泣いている。

 私は優子のところへ、いく。

 

「優子、どうしたの?」


 私の問いに、優子はチラッと視線をむける。

 そして体を私に向けると、立ち上がりいきなり頭を下げた。

 私は訳がわからない。

 あたふたしていると、優子が涙を拭いてすすり泣きながら……。


「やよい、ごめんなさい。どうやらパターンをロックしたのは貴史なの」


 そういい、また泣き出した。

 近くにいるアカネが、優子を元気づけてる。

 私は驚いた。

 なぜ?

 だけど目撃者が数人いて、山田の犯人は揺るがないみたい。

 確かに私は山田が嫌い。

 だけど……なんだか、しっくりこない。

 なんでそんなことを、人前でやるのか?


「今、山田は職員室にいる。私は優子と待つけど、やよいちゃんはどうする?」


 アカネがいった。

 少し考える。

 私は、私は……よし。


「アカネ、私は職員室に行く。山田に聞きたいから」


 そういって、教室をでる。

 教室の角を曲がる。

 この先に階段があり、下に降りて職員室を目指す。

 その前に大きなガラス窓に目がいき、無意識に教室をみた。

 ……え?

 私は不可解なだった。

 それが目にはいる。

 アカネが優子に謝っている。

 それも泣きながら、謝っている。

 優子は少し笑っている。  

 なんだか、慰めているよう。

 どうして?

 目の錯覚なの?

 まあいい、とにかく私は今は職員室を目指す。

 山田に聞きたいことが、山ほどある。


 2


 職員室に続く廊下一番遠い場所に私はいた。

 そこにいて、数十分は過ぎた。

 まだ出てくる気配はない。

 待ちぼうけをしている。


 その間に、少し考えてをまとめている。

 まず私はパターンをロックされた。

 これは間違いなく、山田である。

 目撃者もいたし、間違いない。

 

 ではどうして、そんなことを?

 私だから?

 そのための嫌がらせ?


 ……ちがう。

 あてはまらない。

 もし嫌がらせなら、今回のは度が過ぎる。

 それにやるなら、バレないようにやるはず。

 今回は正々堂々と、山田はやった。

 そこが、わからない。

 

 いきなり職員室のドアが開き、生徒が出てきた。

 もちろん、山田だ。

 山田がトボトボ歩いて、教室に戻っていく。

 私はその後を追いかけ、後ろから声をかける。


「山田、話がある」


 私の声に、山田が驚き振り向いた。

 

「井上……」

「ここは人がくる。別の場所に行こう」


 私がいった。

 山田はうなずき、ついてくる。

 教え貰わないと。


 3


 体育館の裏、日陰になったそこは少し寒い。

 やはりまだ夏には早い。

 そこは普段から、人気が少ない。

 ましてテスト終了後で、部活動も休み。

 今日は本当に人気がない。

 そこに私と山田がいる。

 山田はうつむいていた。

 

「山田、おしえて! なんでパターンを触ったの?」


 私の声が、体育館裏に響く。

 山田は顔を上げた。


「スマン、いえない」


 山田の解答だ。


「いえない、それはいってるよ」


 私は呆れる。

 山田があっ! となる。

 おいおい……。


「おしえて!」

「スマン、俺が触った。スマン」


 山田は口が固そうだ。

 これでは、どうにもならない。

 私は考える。

 少し沈黙が続いた。

 重苦しい、時間が流れる。

 

「私は山田と、向き合えない。最低! 帰る」


 私は背中を向けた。

 こい! 心でつぶやく。

 これがだめなら……手はない。

 私が歩きはじめる。

 食らいつけ!


「井上」


 山田の声だ。

 きた! 

 私は振り返った。

 

「あれは井上を守るためだ」

「は? 守るため?」


 私は声が、裏がえる。

 だってそうでしょ。

 テストを邪魔されて、守るなんておかしい。


「井上、すべて話す。なぜそうしたのか。だけどその前にいいたいことがある」


 山田が真剣な眼差しを、私にむける。

 その視線に、なにか決意が感じられた。 


「俺、山田 貴史は、井上 やよいが、好きだ。お前にいろいろ、ちょっかいかけたのは気を持って欲しかったからだ。もう一度いう、俺は……井上 やよいが、好きだ」


 …………言葉がない。

 私の時間が止まった。

 そんな感覚に、おそわれている。

 まさか……だった。


「今回、俺が井上のタブレットを触り、パターンをロックしたのは……優子から守るためだ」

「は?」

「俺と優子は、幼なじみだろ。だからスマホの電話もたまにしているんだけど……」


 ここまでいって、話が途切れる。

 本当なら突っ込むところ。

 だけど、「好きだ」の魔法に足が地に着かないでいる。

 

「昨日、夜、いきなり優子から凄まじい電話がきた」


 そしてスマホを見せる。

 よし、少し地に足が着いてきた。

 いつまでも、動揺してられない。


「それがなに?」


 私は声がうわずりながら、いった。

 

「昨日の電話、優子からの。俺、そのとき風呂に入ってたから、留守電になってる。つまりこの中に、そのときの声がある」


 井上はスマホを渡し、留守電の内容を聞かせてくれた。


「私、優子! 今でも信じられない。公園のできこと! なんでやよいちゃん? 私じゃあないの? 私はやよいちゃんを許さない! 英語のテスト、邪魔する。タブレットを絶対に机の上に置かないといけないから狙える。フォルダーを消して、やよいちゃんの邪魔をしてやる」


 そしてメッセージが切れた。

 私は少しおかしな感覚に、おそわれている。

 まず、呼び方だ。

 優子は私のことを、やよい、と呼ぶ。

 よび捨てだ。

 だけどこのメッセージ、やよいちゃんになっている。

 このときだけ、やよいちゃん、これはおかしい。


「一つ教えて、その電話は間違いなく優子からきたの?」

「ああ、間違いなく、優子からの電話だった。非通知だったから」

「非通知!?」


 私は声が、裏がえった。

 

「俺と優子の電話は、非通知でする。以前俺がスマホを友達に貸したら、優子の電話をみて、かけてきた馬鹿野郎がいたんだ。それ以来、俺と優子の電話は非通知でしている」


 なるほど。

 それなら、わかる。

 履歴をのぞく常識知らずは、どこにでもいる。

 だけどまだおかしい。 

 それは声だ。


「山田、優子ってこんな声だった?」

「俺も少しそこは気になった。でも、朝方、優子にバカことを考えるな! そういったとき、アイツ、『私は本気よ』なんていってた。怒鳴り気味に話していたから声が変に思えた。そうしたんだ」


 確かに少し熱くなっているしゃべり方だ。

 だけどここまで、声がかわるなんて。


「公園のできこと! これが全てだった。俺はそこで優子に俺の気持ちは井上にあると言い切ったから」


 山田がいった。

 あの公園のことか、そうだったんだ。

 断片的な会話だったから、見えなかった。  

 いまはみえる。

 …………ん?

 私は一つ見落としている。

 ……そうだ! そうだったんだ!

 簡単ことだったんだ。


「山田、優子を呼ぶよ。優子の非通知、かけるよ。教えてあげる。今回のできごとの裏側をね」


 そして私はスマホから、電話を入れる。

 

「ごめん、優子! 山田のスマホ借りてる。いま体育館裏にいるけど、私と山田、今から場所を移すから。どこ行こうかなあ。じゃあね!」


 スマホを切った。

 そして私はスマホを返す。

 後はここに、集まるのを待つだけ。

 話はそこから! はじまる。

 



 

 




 

 

 

 




 

 

 

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