第5話
ーーー深層まで潜り手繰る記憶。
始まりはとても些細な嘘。
誰にでも訪れる可能性があるもの。
女の子なら女の子の嘘…。
男の子なら男の子の嘘…。
内容はどうあれ、孤独を嫌い、疎外感を味合わない為の自己防衛。
つまり、恋心を抱く人物偽装だ!
当時小学低学年だった龍真も人並みに初恋をしていたのである。
その人物というのが、幼馴染である凛だった。
特に具体的な理由がある訳でもなく、自我が芽生えるより前から一緒だったので自然と好意を持つ様になった。
その時も些細な、男友達と雑談中な出来事。
男でも女でも2人以上集まれば自然の摂理とすら思える必然。
恋話しになる訳だ。
当時はまだヤンチャな子どもだった龍真もその場のノリと勢いで答える事になるが、捻くれと羞恥が綯交ぜになり咄嗟に別のクラスメイトの名を呼んだ。
追記として、10人近く雑談し答える順番も上手く操り最後にして誰とも被らない人物を答え面倒臭いイベントはスキップした。
10人の全員が全員本音をぶちまけた訳では無いだろうが、参加した事に意味があるので特に問題は無かった。
ただ、龍真はこれをキッカケに平然と嘘を付く子どもになっていき心に亀裂を付け自分自身も無意識に壊れていく…。
(これが記憶にある始まりの嘘か…。今となっては当時の感情はよくわからないが…この時の感情を思い出せば何かわかるのか?)
自問自答しつつ、更に回想する。
(小・中学生の頃は良く笑い良く泣き良く怒る子どもだったと認識してるな。いや…表面的に見ても分からないな。だけど…。)
過去を遡ろうとしても曖昧にすら思い出せない映像を必死で紡ごうとしても泡の様にパチパチ音を立てて消えていく。
自己分析は難しいと思い頭を抱える龍真。
そうした悶々と悩んでいると不意にコンと窓ガラスが鳴る音がした。
視線だけ窓側に向け、暫く見ていると再びコンと音がする。
幻聴でない事を確認して、起き上がり窓に近づいていく。
すると、そこにはラフな格好をした凛が居た。
「どうした?」と問い掛けると、
「今からそっち行く。」と言われ、会話になってないし決定事項なのねと呆れながら、
「わかった。」と素っ気なく対応する。
戸建ての隣家で、ベランダから乗り移る事が可能な狭さなので凛はすぐに龍真の部屋にやってきた。
「………………………。」
「………………………。」
互いに沈黙が続き、幾ばくかの時間が流れた。
そして、遂に耐えられなくなった凛が声を荒げながら言った。
「最近の龍真は変!何があったの?」
「………さぁ。自分自身の変化は気付かない。凛にも聞いてみたかった。」
「えっ?」
間の抜けた声を漏らす凛を無視して独白を続ける。
「夕方凛と別れてから考えてた。昔と今と、表面的には変化が多少理解出来たけど、本質的な部分は理解出来なかった。だから凛に聞きたい、俺はどう変わった?」
真っ直ぐ自分の目を見て言われた凛は一瞬で赤面してわたわたと返答した。
「じ、自分で分からない事が、わ、私に分かる訳ないでしょ!?」
ふむ、なるほど確かに。そう思った龍真だが、続けて問う。
「分かる範囲で構わないよ。」
ぐぬぬ、と暫く唸っていた凛が何かを諦めたのか、力なく頭を垂れてポツポツ語り始めた。
「……龍真、今日笑ってたの…。」