ショートコント『床屋』
洋介は髪が伸びたので床屋に来た。自分と同年代の女性が切ってくれることになった。名札には本馬と書かれていた。
「……かわいい人だなあ」
「はい?」
「あっ! 何でもありません!」
心の声が漏れた。ただ、彼女がサッカー日本代表のユニフォームを着ている理由だけがわからない。
店員はハサミを持ってこう言った。
「じゃー今日はどうインターセプトしますか?」
「え?」
「あ、どうカットしますか?」
「あ、ああ。都会じゃそう言うんですね」
「そうですねー。最近はみんなインターセプトって言ってます」
「そうなんだ……。えっと、耳にかからないくらいでお願いします」
「中央から縦パス出す布陣ですか?」
「はい?」
「前はどうします? 私はワントップでもいいと思いますけど、やっぱフォワード二枚にしときますか?」
「ええ?」
「でもあんまり前に行きすぎるとディフェンスが心配になりますよねー」
「あ、あの」
「いっそ最終ラインを中央近くまで上げてオフサイド誘うってのはどうですか?」
「後頭部が禿げ上がるよ!」
サッカー好きは床屋に向いていない。誰にどう反論されようと、洋介はこの持論を曲げないだろう。