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ナイト・チルドレン  作者: けふまろ
杏梨達、銀座へ行く。
7/40

その視線の先には。

 星が、夜空を彩った。

 杏梨のそばにいるのは、東風谷風真。それに、友実や、咲希、里桜、東風谷の兄の祐真まで、そばにいて、東風谷を見据えている。

 杏梨も、気を抜いたらすぐに垂れ下がってしまいそうな、頬を引き締め、東風谷をじっと見つめた。

「築地川銀座公園」と灰色の看板が立てられている公園に入ったのは、つい先ほどのことだ。


 ◆◇


 事の発端は、数時間前に遡る。


 ◆◇


「来ましたでー、銀座!」

「歩行者天国、最高~! いえぇ~い!」

 友実と杏梨は、待ちに待った銀座を目の前に、駅前でぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

「はいはい」

 東風谷は冷めた目で杏梨達を見つめている。

「ちょっと、何よ、あんた銀座に来ることあるの?」

「いや、ないけど。やっぱ小学生だなぁって」

「あんただって数か月前まで小学生だったのに、現役小学生に向かってよくそんなこと言えるよね」

 杏梨と東風谷の会話に、友実が割り込んでくる。


「はいはい。喧嘩しない。今から歩行者天国で写真撮るから」

 そう言って三人の間に入ってきたのは、里桜だった。

「里桜、スマホ持ってきた~?」

「もちろん、バッチリ!」

 咲希の言葉に、里桜は頷いて、バッグから最新機種のスマホを取り出した。


 望月咲希(もちづきさき)葉桜里桜(はざくらりお)は、夏休みの絵画コンクールの賞の常連で、校内でも中々の有名人だった。

 里桜は無自覚の天然で、咲希は里桜を支えるしっかり者。保育園の頃からの幼馴染だ。

 学年の中でもリーダーシップをとる友実とは、接触する機会が多く、三人でよく一緒に遊ぶことが多い。

 杏梨とは縁のない年下の少女達だったが、クラブが同じだった咲希と里桜と話すことが多くなり、こうして銀座に一緒に行く仲となった。

(やっぱ、咲希ちゃんと里桜ちゃん可愛いなぁ。うん)

 そして、モテていた。カリスマ性がある、と、杏梨の年下男子の間で、根強い人気を誇っている。

 ちらっと杏梨が二人を見やると、二人はキャッキャッと笑い合っている。

 それを見つめている男子が、やはり数人いた。

 いつか彼女達の好きな人を聞いてみたい。杏梨はそう感じた。


「やっほーい! 夢だった歩道往復が叶ったぜー!」

 兄ちゃん写真写真、と手をひらひら振る杏梨に、海翔は焦りながら、杏梨のスマホで写真を撮った。

「よしっ、兄ちゃん撮った~?」

「おぅ、バッチリ撮りました~」

 ニッ、と白い歯を見せて笑う海翔を横目に、杏梨はスマホを奪い取り、写真を見た。

 自分が、ピースをして画面に笑いかけている。

「おーい杏梨! 写真撮るよ~」

 友実が、杏梨に向かって、手をブンブン振り回した。

「はーい、分かりました~」

 少しだけ笑いながら、杏梨は友実達の方へ駆け寄った。

 友実のスマホをが三脚に置かれている。杏梨は、東風谷の頭の上にピースを作り、思いっきり笑みを作った。

 カシャッ、という音がした後、全員が一気に解散した。

 友実、咲希、里桜はすぐさまスマホに飛びついた。

「わ~! 友実ちゃんメチャクチャ可愛いじゃん!」

「杏梨も意外と写真映りが良くない?」

「皆笑顔が良いもんね、綺麗に映るのは当たり前だよ」

 友実以外のコメントに、その場にいた全員が、笑顔になった。


 杏梨達は、近くのデパートで少し早めの夕ご飯を食べ、街へ出た。

「さて、皆、もう行きたい所、ない?」

 友実の言葉で、皆が一斉に時計を見た。

 時計はもう午後五時十五分を指している。この時間は既に、歩行者天国は終わっている。

「……ないな~」

 咲希がポツリと呟いた。

「確かにね~」

 里桜も乗っかるように呟いた。

「じゃあ、少しだけぶらぶらして帰りますか」

 友実に全て言いくるめられている気がする。

 そんなことは誰もが思ったが、口には出さず、頷いた。

「さて、じゃあこのデパート回って行きま……」

 年下に仕切られているのが悔しかったのだろうか、杏梨はすかさず前に出た。

 だが、ただ一人、東風谷が一つの方向を凝視していた。

 好きな人の見つめているところが気になり、杏梨もつられて視線を向ける。

 友実達は仕切ろうとする杏梨を無視して、どんどん歩いて行ってしまっている。「六時になったらここ集合ね」なんて言って。

 杏梨は、勝手にひっくるめられているのが癪に障ったが、東風谷の視線の先を見つめていた。

 

 だがそこにいたのは、若いカップルだった。

「……ちょ、ちょっとぉ、何見てたのかって思えば、リア充爆発しろと?」

 まさかと思い、杏梨はツッコミを入れてみた。

 だが、東風谷の口から出たのは、想像を遥かに超える言葉だった。


「お母さん……」


「え……?」

(今、何て……?)

「っ……」

 次の瞬間、東風谷は走り出していた。

 たっ、たっ、たっ、と、フロアに軽快な音が響き渡る。

 友実達も、一瞬で振り返った。

 カップルは、それを見ようともせず、東風谷とは反対方向へ向かっていく。

(何、お母さんって、まさか……)

 あの女の人が、東風谷の本当の母親だと言うのだろうか。

「ちょっと、風真、どこ行くわけ!?」

 友実の言葉に、女の人は勢いをつけて振り向いた。

 その迫力に、杏梨は戸惑いを隠せず、「うわっ」と叫んでしまう。

 ふっと東風谷の方に視線を戻すと、東風谷は、二メートル先の、偶然誰もいなかったエレベーターに飛び込もうとしていた。

「っ!」


 人の波を突っ切るかのように、杏梨は、東風谷へ一歩足を踏み出した。

 だが、東風谷を乗せたエレベーターの扉は、東風谷が必死で「閉」ボタンを連打しているからだろうか、閉まろうとしていた。

「させるかっ!」


 誰かに聞かせるわけでもなく、杏梨は呟いた。

 そして素早く、閉まろうとするエレベーターに滑り込んだ。

 杏梨がダッシュした衝動で、思わず尻もちをついた頃には、扉はがしゃん、と閉まっていた。

「危ねぇ~」

 ボソッと漏らした声は、空気中に消えていく。

 杏梨は、座った状態のまま、リュックからスマホを取り出した。

 そして立ち上がると、左手で素早く東風谷の腕を掴むと、LINEを起動し、文面を打った。

 東風谷の表情を見もせずに。


【友実ちゃん、心配さしてごめん!】

【今乗った】

【つく場所は】


 そこまで打ったところで、杏梨はボタンを見やる。

「一階」の文字が、光っている。


【一階です】

【一階のエレベーター前にいて】

【お願い】


 そこまで打つと、杏梨はスマホケースに入れるのが面倒くさくなり、リュックを下ろしてその中にスマホを滑り込ませた。

 するとエレベーターは二階で止まり、家族連れが乗り込んできた。

 時間稼ぎは、友実達とタイミングを合わせることが出来るので、むしろ嬉しい。杏梨は家族連れに感謝しながら、二階から一階へ変わるのをじっと待っていた。


 がしゃん、と音がして、一階に着くと、ちょうど友実達がエレベーター前に向かっていたところだった。

「あっ、いた!」

 杏梨が叫ぶと、友実が気付いたようで、「おーい」と手を振った。

 数分振りの再会を惜しむ暇もなく、東風谷は「手、離せよ!」と杏梨に向かって声を荒らげた。

「離せっ、俺が何したって言うんだよ! 俺、もう帰るから!」

「銀座から自分の家までの路線分かる? 駅までの道のり分かる?」

「…………」

「分かんないでしょ? 銀座来たこともないし、今まで地図も見たことないでしょ? 銀座の」

「…………」

 杏梨の完全論破に、里桜が噴き出した。つられて何人かが笑いだす。

「分かったら、早速、話を聞くから。……ねぇ、友実ちゃん。ここらへんに良い公園ってありますか?」

「待ってね~。…………「銀座 公園」……はい」

 音声で判断するソフトを起動させ、友実は音声を入力した後、杏梨にスマホを手渡した。


 その検索結果に、「築地川銀座公園」があった。

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