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ナイト・チルドレン  作者: けふまろ
杏梨、中学へ旅立つ。
36/40

恋の三角関係勃発

 杏梨がダッシュで教室に滑り込むと、教室にいた全員が杏梨の方を向き、そして杏梨に連れられる東風谷を見て、目を丸くした。

「あ、杏梨っ!」

 香帆が杏梨に向かって駆け寄っていく。その周りではひそひそと「去年の冬、大暴動起こした東風谷先輩だ」や「杏梨と駆け落ちしたって噂の?」とこれまた新たな噂まで立てられていた。

「去年の冬の大暴動」とは海藤ひかりを怪我させた事件のことで、「杏梨と駆け落ち」はまさしく、東風谷と杏梨が同時に行方不明になったことなのだろうと理解し、杏梨は早々に突っ伏しそうになった。

「ど、どうしたの、東風谷先輩、貴方、中学校は……」

「休みにしています。それよりも、杏梨の身に起こった出来事が心配で」

(だーかーらー東風谷は私のことキュンキュンさせすぎなんだって)

 杏梨はこっそり東風谷を睨みつける。「杏梨と駆け落ち」は偶然だとして、「去年の冬の大暴動」は完全に東風谷の責任なのだ。杏梨はこのことをすっかり忘れていたので、無性に恥ずかしかった。

「とりあえず、朝の準備をしてくださいね」

 担任の先生は苦笑いしながら杏梨を促す。その顔には「誰だこいつ」という困惑の表情が貼りつけてあった。

(……先生……まさか、去年の卒業生知らないのか……。まあ去年三年担任だったから仕方ないか)

「すみません」と杏梨は苦笑する。ランドセルを机に置くと、何故か男子達が噴き出していた。

「……何で噴くのよ」

「だって、面白くて。駆け落ちした噂の男子と岡崎が一緒に登校してきたってんだから、誰だって驚くだろ」

 そんな男子達を横目に、杏梨は(東風谷以外の男子、全員ないわ)と悪態をつきながら教科書を取り出した。

 杏梨の横で東風谷も立っている。それが異様におかしかったのか、クラス中からくすくすと笑いが起こった。

 杏梨はそんな空間にいるのがこっ恥ずかしくて、ランドセルを棚に片付け、東風谷に後ろに立つように促した。

 完全に授業参観の体勢である。

 東風谷も授業参観のような格好で佇んでいる。それを見て男子やら女子やらが一斉に噴き出した。

「見ろよあれ。完璧、授業参観じゃねぇか」

「超やべぇ。マジ笑えるんだけど」

「東風谷の子供って感じがするね、杏梨ちゃん」

 女子からも男子からも笑われ、杏梨は思わず机をだんっと叩いた。

「死にたい……」


 授業が終わり、中休みになると、杏梨は東風谷の手を引いて教室を飛び出す。

 飛び出した先は、先生のいない保健室だった。

 保健室の扉を閉め、東風谷が口を真一文字に結ぶ中、杏梨は息を吸って叫んだ。

「ねぇ! 私、散々男子にも女子にもからかわれて、顔から火が出るかと思ったんですけど! どうしてくれんのよ!」

 杏梨がなおも顔を真っ赤にすると、東風谷は突然慌てだした。

「え……杏梨、そんな、慌てたの? っていうか、顔から火なんて出ないよ? 火山じゃないんだから。頭大丈夫?」

「違うから! たとえだから! 何、天然!?」

「天然じゃないから! っていうか、ここに呼びだして、何!?」

 東風谷がそう言って、杏梨は一瞬怯んだ。

 正直なところ、勢いで連れてきてしまったので、これから何を言おうか悩んでいたのだ。

「……え、あの」

「何?」

 東風谷は突然優しげな顔になり、微笑む。

「……その」

 杏梨は黙りこくり、しばらくの沈黙が続いた。


「東風谷っ!?」


 途端に、保健室のドアがガラガラと開き、友実が入ってきた。

「っぎゃ!?」

 杏梨は叫ぶ。東風谷も肩を揺らし、息を切らしている友実をマジマジと見つめた。

 息を整えた友実は「やっと……」とか細い声で呟いた。

「やっと、伝えることができる……」

 杏梨は息をのんだ。

(ついに友実ちゃんは、東風谷に想いを伝えるのかな)

 杏梨はどくどくと鳴る胸の鼓動を抑える。ついに友実が想いを伝えるのかもしれない。

「友実ちゃん……」

 杏梨は呟く。その呟きは東風谷に届いたようで、「え?」と首を捻る東風谷が見える。

「杏梨、知ってる?」

 友実がおもむろに口を開く。


「……私が、東風谷のことを好きだったってこと」


「……え」

「知ってたよ」

 驚きで目を見開く東風谷の横で、杏梨は落ち着いて頷く。

「へぇ。(にぶ)ちんの杏梨でも気付くのに、中学生の東風谷は気付かなかったんだ」

 友実は、目を見開いたままの東風谷のそばに歩いて行って、下から東風谷の顔を見た。

「……東風谷って、杏梨からの好意に、告白されてから気付くような人だもんね。だったら、私の想いが知られてなくて、当然だよね」

 友実の瞳は、笑っていない。暗い色の瞳に、東風谷がしっかり映っているが。

「嘘、友実、そうだったの?」

 たった今、友実から告白された東風谷は、口を押さえてその場に蹲った。友実はクスリと笑って、東風谷を見降ろした。


「だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「は?」

「…………」

 今度もまた東風谷は驚き、杏梨はただ黙っているだけだった。でも、心の中では驚いていたのだ。

(……友実ちゃんが、そんなこと、本当にしてたんだ)

 東風谷は顔を上げて反論する。

「……で、でも、最初は、友実じゃないかって疑っていたけど、でも、友実のスマホの電話番号じゃないし、何しろ、友実はそういうことする子じゃないって信じてたから……」

「私がスマホを三台持ってるってこと、忘れたの?」

「あっ」

 杏梨は思い出した。そういえば友実の家はお金持ちで、スマホを三台持っているのだ。(三台使ってポイント貯めるとか、卑怯なことしてそうだな)と疑っていたのを思い出す。

「そっか……」

 東風谷は力なく項垂れる。もう表情は見えなかった。

「他にもあるわよ……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 友実は全てを暴露した。


「杏梨なんて死ねばいいって、思ってたよ!」


 杏梨はただ、信じられない気持ちで友実を見ていた。

 保健室に置かれたぬいぐるみだけが、三人を優しく見守っている。

(今、私の目の前にいる友実ちゃんは誰? ……友実ちゃんじゃないみたい)

 友実の瞳に、ダイヤモンドのような光が現れる。それが何に対する光なのか、杏梨と東風谷には分からなかった。

 東風谷は「何で……? 友実……?」と力なく友実の名前を呼ぶだけだった。

(……本当に、本当に、友実ちゃんが、私を殺そうとしたの?)

 杏梨はどきどき鳴る鼓動を抑えようと必死だった。だけど、出来そうにもなかった。

「あれは忘れもしたことがなかったよ……。あの日、私が東風谷を好きになった日! 忘れることも出来なかったし、忘れようとも思わなかったよ……。杏梨がいなければ!」

 友実はカッと目を見開き、唇を震わせた。

「わ、私があの日、東風谷のことをどう思ったのか教えてあげるよ。そして、その話が終わった後に、また、今後のことを話そうよ」

 友実らしくない震える声だけが、保健室に響いた。

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