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ナイト・チルドレン  作者: けふまろ
杏梨、中学へ旅立つ。
34/40

本当は?

「とりあえず、切るよ。一回。いいかな、香帆」

『うぅん、別に大丈夫だよ。落ち着いてから、もう一度話してくれる?』

「うん」

 なんて優しい親友を持ったのだろうと、杏梨はひとたび自分の運の良さに感動しながら、電話を切った。

 そして、階下でキレまくっている海翔に尋ねようと、下に降りていく。

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたもねぇよ。最近、無言電話がすっげぇかかってきて。マジ、迷惑なんだよ」

 海翔は舌打ちをしながら、どうしたもんかねぇ、とイラつきながら言っている。

「しかも、俺のスマホにかかってくるんだよ。性質悪い。悪質ないたずらだな。これ、もし俺の友達がやっているんだったら、こらしめてやりたい」

 そしてふと杏梨の目を見ると、杏梨の頭を優しく撫でた。

「ごめんな。今杏梨はすっごく怖い目に遭っているのに、俺がちゃんとしてなくて、今、こうやって文句言っちゃって。わりぃな」

 突然のことにしばらくボーっとしていた杏梨は、その言葉にハッとし、「うぅん。大丈夫」と首を横に振った。

(こんなところで弱音を吐いちゃ、皆に心配かけちゃうよ)

 杏梨は自室で、スマホを手に取った。

 そして、LINEを開く。

 見るは、友実とのスマホ画面。


【ねぇ友実ちゃん】

【私が画鋲落ちているときに怯えているのを見て、笑ってたってホント?】


「……うわっ、うわっ。待って」

(送っちゃったけど、なな、なんてド直球な!)

 せめて頭の悪い杏梨でも、もう少し上手に話を聞くことが出来たはずだ。数秒前の自分がこんな風に人傷つけるような台詞を送ったことを、杏梨はとても後悔した。

 そして削除しようとその吹き出しを長押ししていると、無情にも既読がついた。

(遅かったか……)

 杏梨はがっくりと肩を起こし、ベッドにダイブした。


『笑ってなんかないよ』

『私がそんなサイコパスに見える?』

【見えない】

『そうだよねぇ。自分で言うのもなんだけど』


 その友実の返信で、杏梨は(やっぱり、違うんじゃん)と息をついた。

「だよねー」

「何がだよねーだ」

「わっ」

 気がつくと海翔がドアを開けて、部屋を覗いていた。

「ちょっと兄ちゃん、乙女の部屋勝手に開けるとか、デリカシーなさすぎない?」

「何言ってんだお前。ここが俺と共用ってこと忘れたのかよ」

 海翔は呆れながら、「それと、気をつけろよな」と頭を掻きながら言った。

「何が?」

「何がってお前。保健の先生から聞いてたけど、体育館のライトが杏梨めがけて落ちてきたんだろ? それ、偶然なわけねぇじゃん」

(偶然でしょ。どう見たって)

 杏梨は「何でよ?」とふてくされる。これ以上謎が増えていくのが、杏梨は好きではなかった。

(むしろ私の運が悪かった……ってだけでいいじゃん!)

「だって、知ってるだろ? 杏梨とか俺らが通ってた学校の体育館には、毎週工事の人がかかさず来てるんだよ。そしてネジを締めに行ってる。それなのにライトが落ちたなんて、そんなの絶対あり得ない」

「……そうなの?」

「そうなの! あほかお前は。六年間もあの小学校に通って、そんなことも分からなかったのかよ」

(そんな言い方ないじゃん)

 杏梨はむふーっと膨れると、「あほですよー」と言いながら足をばたばたさせる。

 その間にも、LINEは続いている。


『杏梨は、本当に運が悪かったね』

『東風谷といちゃいちゃしすぎじゃない?』

『だから痛い目にあったとか』


 LINEごしだから友実の表情は分からないが、もしかしたら舌打ちしながら打っているのかもしれない。

 友実が東風谷を好きってことは、恐らく確実である。

 だから東風谷に想いを伝えている杏梨をライバル視しているのだろう。

(……東風谷のこと、そんなに大切に想ってるんだね)

 私にゃ敵わんよ、と杏梨は笑っていると、頭にすぱぁんと何かが当たった。

「いったっ」

「だからお前、人が話してるときにLINEすんのやめろって。嫌われるぞ」

 それは海翔の丸めた参考書だったようだ。

(どうりで厚みと重みがあると思ったら)

「兄ちゃんに嫌われても、別にどうもしないっていうか」

 ぎりぎりと歯ぎしりしている海翔は、やがてとんでもないことを口にした。


「お前、そのうち本当に殺されるぞ」


 海翔の物静かな言い方に、杏梨は一瞬びくっとした。

(……本当に、殺される?)

「私、ずっと前から命の危機にたびたび晒されるんですけど、それに関してはどうですか?」

「それはただ単にお前が厄介事に突っ込んでいくだけだろ。それに病院から森に連れ去られたとか言う話、あれ母さんずっと泣きっぱなしだったんだからな」

 いきなり真面目に返され、杏梨は押し黙ってしまう。

(……私のこと、お母さん、そんなに心配してくれてたんだ)

 またまた感動し、杏梨はスマホをベッドの上に置いた。

「確かに、厄介事には首突っ込むけど、それでも命からがら逃げてきたし、何しろ私、恨み買われることしないっていうか。そもそも、もし嫉妬とかそういう感じだとしても、私、こんな顔だから、全然普通に、嫉妬されないって言うか」

「嫉妬とかそういう問題じゃなくて」

 海翔は杏梨を睨みつけた。そこで杏梨は、もうこれ以上ふざけることは出来ないと確信した。

「今、お前は確かに、嫉妬される状況じゃない。お前のことを好きな男子がいて、その男子を好きな女子がいても、お前はその女子に恨まれることは絶対ない。何たって顔が顔だから」

「失礼過ぎない?」

 恨まれることはないと聞いて安心したが、流石に今のは聞き捨てならないと杏梨は反論した。

「顔が普通だからさ。超絶美人だったら、狙われて殺されるかもしれないけどな。でもお前は、外見でそんな苦労とかしたことないだろ? 自分ブスだなーって思っても、整形したいなとは思わないだろ?」

 杏梨は頷く。

(確かに、整形したいなーとか女優さんみたいに美人になりたいなとか、思ったことは……あったかも)

 そして冷や汗を垂らす。

「お前はたいして顔も悪くないし、スタイルもそんな悪くないだろ? ごくごく普通の女の子だ。そんな杏梨を恨む女子はほぼいないだろう」

「……そう、なのかな……?」

「ただしっ」

 杏梨が頷きかけたところで、海翔がびしっと人差し指を突き立てた。


「それが恨みとかじゃない、もっと別の、どす黒い感情とか入り混じった最悪な事件の場合、話は別だ」


(え……?)

 杏梨は、いきなり飛び出てきた「最悪な事件」というワードに、目を見開いた。

(嫉妬とか、恨みじゃない、もっと別の……どす黒い感情? それこそ、明確な殺意とか?)

 杏梨が唸っていると、またLINEが鳴る。

 それは、友実からで、『お風呂入る』と、ただ一言だった。

 杏梨は【了解】と送り、スマホを閉じる。

「……で、兄ちゃん、最悪な事件って?」

「……それは、俺にも分からん」

 海翔は苦笑いしながら、椅子に座った。

「だけど、気をつけることに越したことはねぇからな。分かったか?」

「うん」

 杏梨は頷いて、スマホで防犯グッズの情報を調べた。

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