次々起こる災難
書き忘れていましたが、多分この章が最終章です。
東風谷祐真が何故か小学校に訪ねてきた。
考えてみれば、高校生の祐真が小学校を訪ねてくるなど、常識的なことではない。
授業がどうだとか、身長的に不審がられないのか不思議なところだが、杏梨はそれを顔に出さずに、祐真に尋ねた。
「どうしたんですか? 祐真さん」
「ああ、杏梨ちゃん、今大丈夫?」
「大丈夫ですけど」
おいちょっと待てどこが大丈夫だ、給食直前だぞ、と、傍にいた男子がツッコむ。
(私に尋ねてくるってことは、すなわち東風谷関連のこと?)
祐真と杏梨は基本的に接点はない。祐真が杏梨に何かを尋ねてきたときと言えば、全てが東風谷に関連する出来事なのだ。
「何か用ですか?」
「うん、っていうか高校生の俺が小学校にいる時点で用があるって気付いてね?」
祐真はさりげなくツッコミをしながら言う。
「気付いてましたよ」
杏梨は頷く。「気付いていないだろうなぁ」と祐真は頭を掻く。
「うん。まぁ、いいや。それよりもさ、風真の話だけどさ」
「あぁ。はい」
(東風谷の話か。それだったら私、いくらでも聞けるよ)
一気に身を乗り出した杏梨を、祐真は気の毒そうに見やる。その気の毒そうな表情に気付かなかった杏梨は、目をキラキラさせて祐真を見ている。
祐真は目を伏せて、か細い声で言った。
「風真が最近、何かに怯えるようになった」
「っへぇ?」
あまりにも素っ頓狂な声を上げてしまい、杏梨は逆に恥ずかしくなる。それよりも東風谷の身に起きた事件の方に驚いていたが。
「東風谷が、何かに怯えてる……って。……え? どういうことですか?」
(東風谷が私に怯えるなら、まだ分かるよ? だって殺そうとしたし。でもそしたら、「何か」じゃなくて「杏梨ちゃん」って言うよね……)
頭の中でもんもんと考えていると、祐真が話し出した。
「最近、東風谷家宛てに無言電話とか来るし、風真は学校から帰る途中、誰かにストーカーされてたって泣いてた」
(嘘、酷い! ……ん?)
杏梨は口を思いっきり押さえたが、その後すぐ、一つの考えが思い浮かんだ。
「……もしかしてその非常識なストーカー野郎のこと、私だって思ってます?」
「全然! っていうか、風真も言ってるよ。杏梨はそんなことするような奴じゃない、むしろ見かけたらすっ飛んでいくような奴だって」
(確かにそうだけど……その言い方はないよね?)
ひくひく動く眉を押さえながら杏梨は黙りながら聞いていた。
「……風真は、杏梨ちゃんに聞きたいことがあるんだって」
「何ですか?」
(東風谷が私に聞きたいこと? ……何だろ。すっごい気になる!)
ひとたび杏梨は目をキラキラ輝かせて、祐真を見上げた。祐真はその視線に気付き、「あんまり、大声で言えることじゃないけど」と苦笑いしながら言った。
「友実ちゃん……飯倉友実ちゃんに、最近おかしなことはないかって」
「おかしなこと……?」
(友実ちゃんは明るくて可愛くて。そんな友実ちゃんは、おかしくなる暇なんてないと思うけどな……)
「ストーカーしてきた奴が友実ぽかったって、風真が」
「友実ちゃんが? そんなこと、するわけないじゃないですか」
杏梨は祐真に反論する。あの明るくて可愛い後輩と、好きな人を怯えさせるストーカーが、どうしても一致しないのだ。
(確かに、友実ちゃんは東風谷のことが好きそうだけどさ……)
それも一つの可能性なのだと杏梨は心のどこかで思っていたが、そんな可能性、あってはならないとすぐ打ち消した。
「大体、背が平均的でポニーテールの女の子なんて、どこにでもいますよ。ごくごく普通ですよ。何なら私だって、ポニーテールにしたことがありましたよ。それに……」
友実ちゃんはそんなことをする人じゃない。そう言いたかったが、杏梨には言えなかった。
廊下の天井からいきなり、杏梨めがけてばらばらと画鋲が落ちてきたからだ。
「ひゃっ」
杏梨は思わずしゃがみこんで、頭の上に手を置く。落ちてきた画鋲が一瞬刺さって、杏梨は泣きそうになった。
ばらばら……という音に、教室の中にいた人達が、外に出てきた。
そして口々に、「うわー、マジ?」「杏梨、二次災害!」と叫んでいく。
「杏梨ちゃん、大丈夫?」と祐真が呼びかけてくれるが、杏梨は大量に落ちてくる画鋲による空襲が収まるまで、一歩も動けないままだった。
『杏梨、本当に、今日は災難だったね』
「……うん」
杏梨は頷き、そしてため息をついた。
結局二度も災難に見舞われた杏梨は、給食と一緒に保健室に運びこまれ、軽い応急処置をされた後、学校を早退してまで来てくれた兄と一緒に、家に帰った。
家に帰って一時間ぐらいした後に、杏梨のスマホが鳴る。着信元は香帆からだ。
『というか、何で杏梨にそんな災害が起こるの? 杏梨は特に、恨まれることは何もしてないんでしょ?』
「私の友達とかを殺そうとした人には、恨まれてそうだけど」
そう言ってまたため息をつく。たった一日なのに、疲労でいっぱいだ。
『そう言う人に恨まれるのは、その人達のお門違いでしょ? 悪いのはその人達なのに、何で杏梨がそんな目に遭わなくちゃいけないのよ』
口調は落ち着いていたが、どうやら香帆は電話越しで怒っているようだ。自分のことで怒ってくれてるんだと杏梨は地味に感動していた。
「……うん、ありがとう」
『何がありがとうよ! いい? 今からよく、あたしの話を聞いてね?』
「え?」
一体何が始まるのだろう。杏梨はひとたび、不安と興味がわいてきた。
『何か、画鋲が大量に落ちてきた事件、五年生も集まってきたのよ。ほら、杏梨にまた災難がっ! って、男子が騒ぎまくってたから、自然に来ちゃったんだろうね』
「ほぉ」
それがどうしたと言うのだろう。まさか、友実達が杏梨のことを心配してくれたのだろうか。
友実ちゃん達、やっぱりいい人だね、と言う準備をしている杏梨に、どうやら神様は微笑んでくれないらしい。
『そのとき、人混みの中で、友実ちゃんらしき人が、笑ってたらしいんだよ。クスクスって』
「え……?」
今日二度目の、怪しい友実関連の事件。
「……友実ちゃん? それって本当に友実ちゃんなの?」
『それが、男子が言ってただけだから、分かんないんだよ。ポニーテールでパーカーの女の子がクスクス笑ってたって。ポニーテールでパーカーって、今日の友実ちゃんのファッションそっくりなんだけど、でももしかしたら違う人かもしれないなって』
呆然とし過ぎて、最後の方を聞くのを怠っていた。
(友実ちゃんが、そんなことをしていたの? ……東風谷のストーカー事件といい、画鋲事件といい、ホント、何なのよ!)
「くっそが!」
突然、階下で海翔の叫び声が聞こえた。
「え……?」
『とりあえず、また情報が入ったら電話するね……って、聞いてる? 聞いてる? おーい、杏梨!?』
香帆が呼ぶが、杏梨は海翔の叫び声に困惑していた。
「何なんだよ! 昨日今日と続けて何十回も! 何の嫌がらせだ! 聞いてんだよ! おい! ……あっ。……ッチッ、何なんだよマジ」
海翔は激怒している。何が起きたのかさっぱり分からない。杏梨は困惑しながら、ベッドにダイブした。
香帆からは呼ばれ、兄は階下で大激怒していて。杏梨はもう何が何だか分からずに、思考をシャットアウトした。




