始まりのLINE
ほぼ一年前に削除した「ナイト・チルドレン」復活です。待ってる人いないと思います。
一年前に書いた物語とは、入り方とか物語が結構違います。
連載途中の恋愛物語とはまたちょっと違うので、見に来てください。
空は、藍色に染まっている。
悲しい。
岡崎杏梨は、空を見ながら、そう感じ取った。
藍色の空には、「悲しい」がぴったりなのではないか。
「杏梨、どうしたの?」
ふいに、隣で歩いていた兄の海翔が、そんなことを尋ねてきた。
「何でもない。……少し空を見ていただけ」
海翔は、「ふぅん」と不思議そうに頷いた。
杏梨は、ため息をつく。
「明日、この時間帯に、東雲公園に来て」と誘われたのだ。
十月九日。夜七時。
夜道を兄と散歩していた杏梨は、酷く気だるげなことを考えていた。
「後輩女子達から誘われた夜遊び」を、断るか、行くか。
もちろん、普通は行かない。行くとなったら、親に怒られるからだ。もしくは、兄に怒られる。
親が遊びに行く度に「絶対怪我しないようにね」と念を押すような過保護な親なのだ。夜遊びをしたいですなんて言ったらふっ飛ばされること決定。
(何で子供の無邪気な心を許してくれないかね~親は)
夜に遊びに行きたいです、なんて言ったら「暗いから駄目!」と叫ぶ。いや、そもそもそんなに車に轢かれないし、不審者になんか出会わないよ。流石に。こういう、何もかもの可能性を考えてしまう心配性の人って、本当に困る。
でも、行きたい。夜は大好きだし、夜遊びに行くのも楽しそうだ。
ピロリン
唐突に、スマホのLINE音が鳴る。杏梨のスマホからだ。
今年「六年生祝いだ」と買ってもらった水色のスマホ。杏梨は、このスマホをとても大切に使っている。今でも、買った時のケースに入れて、鞄の奥底に保管している。
「あっ、友実ちゃんからだ」
スマホを取り出して、画面を見ると、「友実ちゃん」と表示されていた。
飯倉友実は、後輩女子達の一人。中々のお金持ちで、自分専用のスマホを三台も持っているという。何か三台使ってポイント溜めるとか卑怯なことしてそうだな、と薄々思っている。
『杏梨、OK出たー?』
後輩女子は揃いも揃って杏梨を呼び捨てにする。
(いつも思うけど、友実ちゃん達、絶対に私を尊敬してないな)
尊敬するようなこともあまりないのだが。
【まだ出てません~。聞くのが怖い~】
『そっかぁ~、まぁ怖いもんね~聞くの。駄目に決まってんだろってはっ倒されそう』
【ホント、それはマジでそう】
杏梨は、スマホの操作に慣れていない。ボタンをタップする速度も、スマホを扱いこなせている人とは比べ物になれないほど。
『ちなみに東風谷も来るって』
【マジ? 考えてみるわ】
東風谷の名前が出た途端、杏梨は目を見開いて、すぐにその返事を送信した。
東風谷風真は、杏梨の一戸年上の男子で、友実達、後輩とも仲が良い、杏梨の好きな人だ。優しいが、いつもはぶっきらぼうな態度をしてくる男子。告白して、付き合ってはないのだが、よく会って遊ぶことが多い。周りの人に知れ渡り、今や学年の共通事実になっているのだが。
その人が来る、となると、杏梨の態度は一変する。一種の病気を患っているんじゃないかと言うほど。
とりあえず、杏梨は行くことにした。そもそも東風谷が来なくても、行きたいとは思っていたから、更に行きたいという気持ちが高まっただけだ。
【究極の情報ありがとう。何が何でも親にOKもらうわ】
『おけ。東風谷も喜ぶと思うわ~、あいつ「杏梨って良いね」って言ってるから』
(はぁ~? 東風谷が? んなわけないじゃん……きっとお世辞だよね)
杏梨は、ため息をついて、送った。
【そんなわけないとは思うけどね。行く行く。絶対行きたいです】
『おけ。東風谷に伝えとくわ~』
そこで友実はLINEを切ったらしい。何も来なくなった。
「よし、兄ちゃん、帰りましょ~」
「ちょっ、何だお前、急にノリノリになって」
「いいじゃん、さっ、帰るよ~」
杏梨は、海翔の腕にギュッとしがみついて、夜道を歩いた。
◆◇
杏梨は、まだこのときは、何も知らなかった。
所詮一日で終わると思っていたのだ。夜遊びが。
ただ、友実達、そして何よりも東風谷に会えることを楽しみにしていた杏梨は、まだ、何も知らない。
何も。
不定期に更新していこうと思うので、宜しくお願いします。