〜逃走と覚悟と〜
森の中は行けども行けども同じ風景ばかり、自分としては洞窟を背にして真っ直ぐに走り続けているつもりではあるが、方向感覚がおかしくなってくる。
腕の中のエルフの意識はあれから戻らず、グッタリとしている状態だ。
時より、後ろから木々が倒れる音が響いてくるので間違った方には進んでいないとは思う。
気を抜いて走ればさっきのジャイアントボアに追いつかれそうで怖くて堪らないが、幸い、女性1人抱き上げて走っても今のところ息を切らせずに走れている。
と、木々の隙間から煙が見えた、おそらくドワーフの言っていたキャンプだろう。
俺は深いため息と共に安堵していた、それが良くなかったのか、次の瞬間木々の根に足を取られ転びそうになった。
大怪我をしている女性を抱えて倒れる訳にはいかないと、たたらを踏んで耐えていると、首筋に寒気を感じた、嫌な予感振り払うように振り返る、そこには。
「ボォーー!!」
とジャイアントボアが今にも走り出さんと、力を溜めている姿が目に飛び込んできた。
慌てて走り出すが恐らく追いつかれてしまう、近くにあのドワーフの姿はない、やられてしまったか、もしくは振り切られたか。
ジャイアントボアが走り出すと同時に前の木々の隙間から人影が見えた。
今しがたのジャイアントボアの唸り声で様子を見に来たのだろう。
キャンプはすぐそこのようだ。
その姿を認めた瞬間、俺は覚悟を決めた。
「助けてくれ!彼女を頼んだ!!」
それだけ言うとエルフの女の子を地面に横たえ、ジャイアントボアに向かって走り出した。
このまま走っても2人共引かれる、間に合わないと踏んだからだ。
なにしろジャイアントボアはその巨体で木々をまるで発泡スチロールのように吹き飛ばしながら突っ込んでくる、木々を避けながら走っているこっちとでは速度が違い過ぎる。
エルフの女の子から充分距離が取ったところで立ち止まりジャイアントボアを迎え撃つ。
避ける訳にはいかない、後ろにはあの子がいる。
横に誘い出す事もできない、もし俺ではなく向こうにそのまま行ってしまったら目も当てられない。
あの巨体を受け止めるしかない。
あのドワーフがやって見せたのだ、出来ない事ではない。
決断する要因はある、自分のこの世界に来てからの異常体力に筋力。
それに、ドラゴンはこう言ったではないか。
『その為の力はくれてやった』と。
ならば信じてみるしかない、ドラゴンと自分を。
掴むは下顎から生えている2つの大きな牙。
プロレスラーの如く両腕を大上段に構えジャイアントボアを迎え撃つ。
気合を入れる為にあえて言った。
「さぁ、来い!!」
本当は来ないでほしいとか、帰れー!と言いそうになるマイナスな感情を無理矢理押さえ込んだ。
ジャイアントボアが見る見る大きくなっていく、今度はさっきのようにスローモーションにはならない。
大丈夫!俺は落ち着いてる、Beクールだ!
衝撃。
ドガッガガッと言う激しい音が自分の足元から聞こえてくる、だが、吹き飛ばされてはいない。
先のドワーフと同じように、否、あれ以上に激しい電車道を作りながら後退していく。
足が浮きそうになるのを必死で地面に繋ぎ留める、前傾姿勢を崩したら最後、潰されてしまう。
ヤバい!!
後退し過ぎている、このままじゃエルフの女の子の所まで行ってしまう。
後ろに一瞬目をやる、あと10メートルもない。
だが、今までで一番勢いを付けているジャイアントボアは止まらなかった。
ジャイアントボアに目線をもどす、意思の炎で心を焦がす。
彼女は俺に何と言った?
自分の事より俺を心配してくれた、あの状態でだ!
俺は彼女に何と言った?
絶対助けると!安心しろと!
そう言ったんだ!!
こんな…ちょっと大きいだけの、イノシシ如きに…やられて…たまるか!!
あと5メートル。
「ふ…ふ、ざ、け、る、なーーー!!」
あと2メートルと言う所で牙を持つ両腕が青い白い光を放った、ビキッと甲高い音と共に牙に亀裂が走る。
「おおおおーーーーおおー!!」
恐らく1〜2トンはくだらないと思われる巨大イノシシの足が宙に浮いた、そのまま側面から地面に叩きつける。
地震か、と言うくらいの振動が辺りに伝らり、草木や土は盛大な拍手のように辺りを舞っている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
息が一気に荒くなった、腕が熱くだるい。
膝をついて肩で息をする。
自分の世界で、400メートルを全速力で走った時のようだった。
ジャイアントボアはピクリとも動かない。
「はっ、エルフ」
後ろを振り返る、気を失っているが、変わらず息はしているようだった。
エルフの隣にはいつの間にか1人の少女が彼女を庇うように座り込んでいる。
ジャイアントボアの来た方から、あのドワーフがドッサドッサ走ってくるのが見えた。
反対側からはあの2人の仲間が何人か近づいてくる。
「もう、大丈夫…かな」
そう言う、安心と力を使った反動なのかわからないが気を失ってしまった。
目の前にいた少女に「この子をお願いします」と呟いてから。