〜旅立ちと旅立ちと〜
王都上空の空は雲ひとつない快晴で染められていた。
頬に当たる風が気持ちよく通りすぎる。
黒いジャケットをはためかせながら、俺は竜の翼を羽ばたかせて飛んでいた。
「気持ちいぃぃなぁ、ははっ!」
別に遊びで飛んでいる訳じゃないのだけれど、楽しくてしょうがないのだ。
青白い翼を軽く羽ばたかせるだけで、夏の乾いた風が音を立てて抜けていく。この世界の夏は、俺の元の国と違いカラっとしていて大変気持ちがいい。
俺は当初の目的を忘れ、しばし風と共に踊ってしまう。
ある程度自分の欲求が満たされると「ふっ」と息を吐いて空中に留まる。
俺は当初の目的、王城の一角にある王女の部屋を見下ろす。
遥か下の王城、まるでカリオストロの城の様に、1つの塔が王城から隠れる様に佇んでいた。
そこにマリアがいる。
1つしかない出口に鍵をかけてーー自分では出られない様にしてーーあるとの事。
こうでもしないと勝手に出ていってしまうかららしい。
俺は青白き竜の翼を風に乗せ、塔の最上にあるたった1つの窓に身を寄せていく。
俺がアリサに告げた答えは2つ。
1つは団長達の手助けをする事。
もう1つはマリアに会いに行く事。
その為に今俺は王都上空を旋回していたのだが、少し遊びが過ぎたかもしれないな、と反省している。
この世界の住人で空を飛べるのは何も俺だけではないのだ。
竜はもちろんの事、卓越した魔法使いならば当然空を飛べるし、魔物の中にもダンジョンであったハーピーなど、翼を持つ者もいる。
さらにドラゴンと違い、犬程度の知能を持った竜種、ワイバーンなどは国によっては戦力にしているらしく、竜師団なるものが存在する、と先程アリサが教えてくれた。
窓に手が届く所まで近づくと、バンッとその窓が向こう側から開く。
「どお?ビックリした?」
「うん、ビックリしたよ…うっかり【竜翼】が消えかけたくらいに」
俺は驚きで丸くした目を、笑顔に変えながら話す。
どうやら空を飛び回っているところを見られていた様で、マリアは「羨ましい」と言ってくる。
ただ、笑いながらなので冗談半分なのだろう。
そうとわかっていたが、手を差し伸ばして俺は聞いていた。
「なら、おいで!」
マリアは少し迷う様な仕草を見せると、自らが纏う純白のドレスの裾を持ち上げ聞いてくる。
「コレでも大丈夫?」
「…ふふっ、問題ないよ」
「笑う事ないでしょぉ〜」
少し頬を膨らますマリアの手をとると、俺は彼女を抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこだ。
背中の翼を羽ばたかせ、俺とマリアは天空へと舞い上がる。
両腕に抱くマリアが緊張する様に身を縮こませるのがわかった。
凄まじい速度で飛んでいるのだが、風はそこまで強く感じない。
【竜翼】が風を操り、前方の風を和らげているのだ。
「ほら、目を開けてごらん?」
いつの間に目を閉じていたマリアに、大丈夫だと声をかけると、彼女はゆっくりとその白い瞼を開いていく。
「綺麗……」
マリアが思わずそう呟く。
眼下に広がるは、まるでミニチュアサイズになった城下町。
遠方に広がるは、折り重なる岩肌の山々。
その連なる山々の頂上には白い雪が、今は夏だと言うのに未だ溶けずに残っていた。
「あれ!あれは海?」
マリアが指差す方に目をやると、どこまでも豊かに広がる緑地の向こう側に、青い輝きを放つ水面が見てとれる。
「そうだね、行きたい?」
俺は簡単に聞く、実際あっと言う間に着けると思う、ドラゴンの翼は優秀なのだ。
「ううん。今はいい。だって、諦めきれなくなっちゃうから」
彼女は少し寂しそうに言う。
「何を?」
俺は聞く。
「冒険…」
俺はその言葉で悟ってしまった。
マリアのその瞳を見てわかってしまったのだ。
彼女がこれからどうすると決めたのかを。
「そうか……いい女王になれるさ、きっと」
「そうかな…でもまだなれるって決まってる訳じゃないし」
「そうなのか?」
「そうなの!一応第1王女だけどね、弟も妹もいるし…それに」
マリアはそこで1度言葉を切り、息を吐いてから告げる。
「髪の毛、真っ白だしね」
マリアは自分の境遇を気に病んでいるのだろう、だがそんな事はどうでもいい事だ。
だって。
「マリア、君の髪は、君の力はこの国を守ったんだ。それはみんな知ってる、俺も知ってる。君がいなければこの国はいつか悪魔にやられてた。絶対だ!それに…」
だって。
「とっても綺麗だから、君の、その白い髪」
だから大丈夫と、この国の為に命を懸けて戦った君なら、いい女王になれる、と。
それを聞いたマリアは、俺の胸に顔を寄せる。
俺からは見えなかったが、彼女顔は赤く染まり、その目からは沢山の涙が溢れていたのだった。
この次から新しい展開を迎える予定です!
よろしくです!




