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誕生日の贈り物

 ギード達一行は、ニュンペーが開いてくれた黒い淀みのような穴から出た。

そこは暗い土の、通路になっているような横に繋がる穴の中だった。

先に入っていたタミリアが魔法で光の玉を浮かべてくれていた。

「遺跡の迷宮の中みたいー」

そうかなあ。あそこは床も壁も天井も、何者かの手が入っていて整備されていた。

だが、ここはただの横穴だ。

まるで大きな蛇が地中を通った跡のような、丸い穴だ。しかも大人が三人並べるくらいの幅があり、結構広い。

それに湖の底に位置するため、所々壁や天井から水が染み出していて、全体的に湿っぽい。

しかし、この通路は一体どのあたりになるのか。

地図も無いし、傾斜も当てにならない。

「タミちゃん、どっちに向かう?」

ギードがタミリアの顔を見ると、決めていいの?、という顔をしていたので頷く。

「じゃ、こっち」

あっさり、何の迷いも無く指差す。

「あいよ」

ギードは子供達を籠に入れ、眷族達といっしょに歩き出す。

迷宮での第六感は脳筋の方が頼りになる、たぶん。


「リン、罠の気配はあるかな?」

床が平らではないため歩きにくい。

空中に浮いたまま、周りを警戒しながら先頭を行く風の精霊リンが振り向く。

「いえ、今のところありませんわ。魔物の気配も」

そうか、ニュンペーが教えてくれたのは罠ではなさそうだな。

ギードの小さな呟きに、最後尾を歩いていた土の精霊コンが、同じ妖精族であっても疑う、その慎重さに驚いている。

「エルフ同士でも足の引っ張り合いはあるんだしね」

知り合ったばかりの他種族を、全面的に信用出来ないのは仕方ないだろう。

 床のぬかるみに足を取られて、よろけるタミリアに手を貸す。

「どこかで休憩しよう。小さな水辺があるといいんだが」

探して来ます、とリンが少し先へ移動して行った。

「主様、この先に広い場所がありますわ」

とりあえず、そこまで行ってみる。

「こりゃあ……」

ギード達が通って来た穴から、広い場所へ顔を出す。

エルフや眷族は夜目があるので暗くても見えるが、タミリアは光の玉ひとつでは分かりづらいようだ。

「少し暗めの光にして、小さいのをたくさん出して周囲に撒いてごらん」

ギードの指示通りにタミリアが光の玉を出す。

「うへぃ」

そこはどう見てもドラゴンの通り道だ。左右に広がる穴は天井も高く、幅もドラゴンがゆうに二体は入れる大きさだ。

しかし、タミリアが思わずこぼした言葉がおっさんくさい。




 とりあえず、一旦落ち着こうということで、リンが休憩出来そうな場所を探してくれる。

広い通路に降り、壁に沿って歩くと、時々横穴がある。

自分達が通って来た穴のような大きさもあれば、小さな穴もある。

それだけ地中で生活している動物がいるということだろう。しかし今は雪の下なので、活動はしていないようだ。

「ここはいかがでしょう」

壁に亀裂があり、中からは水の音がしている。

入り口は大人ひとりがやっとだが、中は意外と広い。先へ進むと下り坂になり、降りて行くと小さな泉があった。

「うん、いいね。コン、ここに休憩所を頼む」

「承知いたしました」

泉から少し離れた壁に穴を開けるようにして、土の精霊コンが簡易な部屋を造る。

「エン、灯りをつけられる?」

「お任せを」

炎の精霊エンが炎の玉をいくつか出して周りの壁に配置すると、洞窟の中全体が明るくなる。

そのまま洞窟内を暖めている間に、ギードは泉の水質や流れを確認していた。

「コン、悪いけど排水はこちら向きで、炊事用とお手洗い用の部屋を造って欲しい」

泉から地下へと、小さな流れがある。そこを利用する。

「リン、空気の流れを見て欲しい」

自然に出来た洞窟のようなので、どこからか寒風が入ることはないか確認してもらう。

天井の、かなり高い位置に空気穴のように小さな生き物の穴がいくつかあるそうだ。

「あれくらいであれば、換気にちょうどよろしいかと」

「分かった。ありがとう」

ようやく子供達を籠から出す。


 いつものように食事を取り、子供達を寝かせる。

「さて、タミちゃん。子供達の誕生日がいよいよ近付いてまいりましたが」

何にする?、とギードに聞かれて、タミリアは首をこてんと横に倒す。

「んー、帰ってからでもいいんじゃない?」

うんうん、そうだねー、と妻の仕草にデレっとなるダメエルフ。

まあ、本格的なお祝いは帰ってからでいいだろう。でもやっぱり記念は欲しいかな。

 実は、知り合ったパーンからユイリが笛をもらってうれしそうにしていたのが印象に残っていた。

そういうモノをミキリアにも作ってやれないかと思ったのだ。

「タミちゃん、子供の頃って何か貰った物とか、欲しかった物ってある?」

「そうねえ」

タミリアの実家は王都にある老舗の服飾の大きな商会である。

母親が魔術師の家系だったので、定番はローブやマントだったそうだ。服系は帰ってから実家に頼んだ方が良さそうだね。

「あー、でも子供用の小さな練習用の杖はうれしかったかもー」

なるほど。

「それは木でいいの?」

ギードは荷物から、薪用として色々な場所で採集した枝を取り出す。

二人で堅さや持ちやすさ、魔力の通り具合などを確認していく。

「やっぱコレかなあ」

「そうーねー」

ギードとタミリアが選んだ枝は、聖域で採集された古木の一部だった。




 暗い地下に居ても、体内時計が正確なのか、ギードはいつもの時間に目が覚める。

森の民であるエルフは成人するとほとんど睡眠を必要としない。短時間で、しかも場所も木の上など、どこであろうと構わない。

「よし、やるか」

同じく睡眠を必要としない眷族である精霊のエンに、灯り代わりに火の玉を点けてもらう。

そして昨日夫婦で選んだ枝を取り出す。

「長さ、ふむ、これくらい?」

相手は二歳の子供である。口に入れても大丈夫か、簡単に折れないか、そんなことを気にする。

実はそんな事を気にする前に、二歳児に必要かどうか考えないところがこの夫婦である。

作業が終わると朝食の準備にかかる。

 食事が終った後、夫婦は目配せし、ユイリとミキリアの前に簡単に紙に包まれたモノを出す。

「こぉぇ、ぁにー?」

ユイリは最近言葉がはっきりして来ている。

双子がかさかさと紙を破り始めるのを、親と眷族達はにこにこと眺めている。

「あー」

 ユイリには丈夫な皮紐。ミキリアには短い杖である。

うれしそうな声をあげているが、子供達にはソレが実際に何に使うのかは分かっていない。

ギードはユイリから一度皮紐を取り上げ、大切そうに抱いている笛に引っ掛けてやる。

これで落とす事はない。

ミキリアに渡した杖は、タミリアが持ち方を教えている。

魔力を通しやすい古木の精霊の枝を使っているので、過剰に魔力が流れないように制御魔法陣を刻み込むのが大変だった。

「あーん」

こらこら、口に入れるな。

バチッ。

「ぅぁああああん」

タミリアがわざと杖に魔力を流しため、ミキリアの口の中で小さな衝撃が起きたようだ。

ギードはハラハラしていたが、タミリアに任せるしかない。

ぐすぐすと半泣きになった娘の頭を撫でながら、母親は杖に手を添えて、壁に向かって魔力を通す。

ぼぉっ!

人の頭ほどの炎の玉が出現した。

(ひぇえええ)

見守っていた父親と眷族達は一瞬何が起こったか分からなかった。

そして、母娘がこっちを向いて誇らしげな顔をしているのを見て、頭を抱えたのである。

(主様、あれは幼子の魔力ではありえません)

(主よ、これはまずいかも知れませんぞ)

(わはははははは)

うん、分かってる。さすがはタミリアの娘、としか言いようがない。

(タミちゃんにはしっかり指導するように言うよ)

それしか方法はない。

ギードは、ユイリの笛と同じように、ミキリアにも杖を皮紐で首にかけられるようにしてあげた。

双子はお互いに見せ合い、きゃいきゃいと喜んでいた。




 その日は双子の誕生日ということで、一日移動しないで、その洞窟の中で過ごした。

ユイリの笛が洞窟に鳴り響き、タミリアはずっとミキリアに指導し続けていた。

洞窟の入り口をコンに土壁でふさいでもらったので、賑やかな声や笛の音は外には漏れていないはずである。

「お疲れ様」

子供達が寝静まると、ギードは妻にお酒の入った薬草茶を出してねぎらう。

「ふう、何とか調節したよー」

ミキリアは炎の特性が強く出たようだ。

杖の魔法陣を急いで刻み直し、魔力を絞っておいた。これで概ね薪に火を点けるくらいしか出来ないはずだ。

それでも火事の原因になると困るので、すぐに消えるように設定してある。

ぐびぐびとお茶を飲む妻に、ギードは取って置きを出す。

「えっと、これはタミちゃんの分」

それはギードが本当にたまにしか作らない豪華版の菓子である。

材料一式は旅に出る前から用意していた。

ギードはタミリアが欲しいものならだいたい分かる。というか、タミリアは分かりやすい。

「え」

タミリアの目は菓子に釘付けになっている。

「タミちゃんの母親二年目の記念日だよ、おめでとう」

よくがんばったね、と言うと、タミリアがにっこり笑ってギードを見る。

「ギドちゃんも、お父さん二年目だね。おめでとう」

タミリアがギードに口付けをする。

ちょっと恥ずかしそうに頬を染めた夫を、妻は涙を浮かべた瞳で見つめた。

三体の眷族達は見ない振りをして、影の中に姿を消した。




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