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エルフの旦那と愉快な家族  作者: さつき けい


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塔の町で

 エルフの商人であるギードが家族を連れて姿を消した。

王都では血眼で彼ら一家を捜すダークエルフの姿が見られ、彼らとの確執を噂されていた。が、どちらかというと、珍しいイケメン傭兵達が見られて女性達が喜んでいた、らしい。

 ギード一家は今、この国での最後のドラゴンといわれている雪のドラゴンの迷宮に来ている。

「何を書いてるの?」

もう寝たと思っていたギードが、隣でうつぶせのまま、ゆらゆらとした小さな火の灯りで何かをしている。

妻のタミリアは体を起こし、夫の背中から覗き込む。

「あー、ごめん、起こした?。デザイン所長に提出するドラゴンに関する書類を作ってた」

ふぅーんと気のない返事をするタミリアに、ギードは魔法の塔の町へ同行するかを訊ねる。

「ううん、ドラゴン様と修行するー」

そか。タミリアもどちらかというと人嫌いの傾向があるんじゃないかと思う。詳しいことは聞く気もないが。


 ここには雪のドラゴン「ズメイ」と妹である炎のドラゴン「ユラン」が棲んでいた。

ズメイは大人しいドラゴンであり、争いを好まず、人族や他の種族にも興味を示す。先の大戦で多くの仲間が他の土地へと移った時もこの場所にとどまった。

ユランはどちらかといえば攻撃的であるが、これは昔、親ドラゴンが人族に倒されたという因縁があるためであった。

「修行ですか?」

「はい、是非」

翌日、人族の姿に近いモノに変化へんげしたドラゴン兄妹に、タミリアの相手をお願いする。

もちろん子供達の応援付きである。

にっこり笑った炎のドラゴン・ユランとタミリアが見つめ合う。

不穏な空気にギードは、眷族のコンに強化結界でタミリアを守るようにお願いしておいた。

多少の怪我は仕方ないが、致命傷は避けられるだろう。




 ギードは町へ買い出しに出かける前に、ドラゴンの眷族である、クー・シー族という犬型の妖精のいる森へ向かう。

「いらっしゃいませ、ギード様!」

千切れんばかりに尾を振る黒い犬が出迎える。

「こんにちは、ロキッド。お父さん、いるかな?」

この森はドラゴンの領域の入り口に当たる谷底にあり、歴代の勇者の墓がある。

森の中の一軒家に住む暗緑色の毛並みを持つクー・シーは墓守りと呼ばれ、黒い毛並みの姿をしているロキッドは、つい最近、同族である彼の養子となった。

墓守りのクー・シーは客を迎える時は、初老の人族に擬態ぎたいしている。

「サンダナ様の墓所の進行具合はいかがですか?」

「まあ色々ありまして。どうぞ、こちらです」

石造りの小屋は、外観はこじんまりとして見えるが、中に入ると魔法領域のせいなのか、案外広い。

案内されるままに奥へと進む。

いくつか扉を通りぬけると、ここまでの内装とは全く違った白い扉が現れ、ふいに違和感を覚える。その扉がゆっくりと開かれた。

壁も天井も床も真っ白な、あまり広くはない部屋の真ん中に、ぽつんと透明な棺があった。

ギードは荷物の中から、薬草の一種として保管していた一本の小さな白い野花を取り出す。

「リーダー、ここは静かですね」

そう話しかけながら、ギードはその棺の上に花を置く。

「ここまで若くて活きの良い体はそうそうありませんから、周りが騒ぎましてね」

この森は普段から悪霊が歩きまわっている。それらは人族の器を欲し、攻撃的になることがある。

「ズメイ様が作ってくださったこの部屋には、さすがに入れませんが」

墓守りの言葉にギードは頷く。ドラゴンの迷宮の、あの清々しいほど清浄な空気に満ちている。

「しかし、いつまでもこのままにしてもおけません。出来ましたら体を火葬にさせていただきたいのです」

「そうですね。それがいいでしょう……」

通常なら体を棺に入れたまま地中に埋めるが、この体はあまりにも危険なのだ。悪霊が好む体があるから狙われる。

クー・シーひとりではいつまで持つか分からない。


 ガンコナーが実体としてサンダナの家にいる。今はこの体を返すことは出来ない。

ギードは、婚姻の儀が済んだら、改めてこれを持ち出しすつもりだった。ガンコナーには姿を消してもらい、この体が見つかったことにするのだ。

そして、王都にある一族の墓に入れてあげたかった。

そのために、雪のドラゴンであるズメイに協力してもらい、冷凍保存にしている。

「誰かの許可をもらわないとー」

誰の?。ギードはひとり、行き場の無い答えを探す。

「もう少し待ってもらえますか?」

ギードの沈痛な面持ちに、クー・シーは難しい顔のまま答える。

「出来るだけ早い方がよいでしょう。強い悪霊が現れないうちにー」

それは分かっている。

「10日ほどは何とか防ぎます」

ギードは黙って頷く。

玄関まで戻り、扉を開ける。

 以前通った時とは違い、今の森は、雪の季節であるにも関わらず、むっとした空気に包まれていた。

黒いもやが陽の光を遮る。

ギードは顔を上げ、目を閉じた。そして低く豊かな声の古代エルフ語の祈りの言葉を紡ぐ。

ほんの少しでもいい。この祈りが、この森の魂を癒してくれるようにと。

黒いクー・シーはその後ろで、じっと彼を見ていた。

「とーさま、僕はあの方のお役に立てますか?」

墓守りは自分の息子が賢い子で良かったと思った。

「今はまだ、無理だろうな」

このエルフは大人しく見えるが、その身の内には違うモノがあるのだろう。

「ロキッド。お前はまず、完全に人族に擬態できるようにならんとな」

「え?、それってかなり修行が必要ですよね?。僕、まだ生まれたばかりなんですがー」

完璧な擬態は、それぞれの固体の魔力が体になじんだ上で、精神が恐ろしいほど安定している状態が必要になる。

黒い子犬はこの先の修行がかなり大変だと気づいて、固まった。



 ギードは目を閉じる。

(うーん、どこにしようか。塔の町の中か、塔の施設内部か)

頭の中に魔法で飛べそうな場所を思い浮かべる。一度行ったことがある場所で、強く印象に残っている地点。人目につかず、危険がない。

(よし!)

魔力を開放し、一瞬で飛ぶ。目を開いて周りを確認する。ギードは、魔法の塔の町の移転魔法陣がある建物の外にいた。

この町は雪の多い期間が長いため、地下に通路があり、店舗や施設も必ず地下に入り口がある。

しかし移転魔法陣のある建物だけは、防衛上、独立しており、他とつながっていない。

ここならば観光で来る者なら必ず通る場所なので怪しまれないだろう。

ギードは急いで正装を脱ぎ、荷物に入れる。

町の外はかなり雪が深くなっており、北の門も今は閉じたままになっている。しかし、町の中は魔術師のおかげで除雪が行き届いていた。

 この町に住むエルフ族の数は「始まりの町」より少ないが「王都」よりは目立つ。

ここは魔法研究者の町でもある。魔力の高いエルフ族が生活出来る数少ない町のひとつだ。

そんなエルフ達に紛れ、いつもの、少し頼りない風貌の商人の姿になる。

「さて、何からいこうかな」

前夜に作成した覚書を手に、店舗を回っていく。

今日は眷族達が同行していない。

コンはタミリアの修行の補佐、エンとリンは子供達のお守りである。

しかしその場には、あのドラゴンの兄妹がいるのだ。気は抜けない。

「大丈夫ですよ。ズメイ様は本当におやさしい方ですから」

雪のドラゴンの眷族であるクー・シーはそう言っていた。

「ユラン様は?」と聞くとそっと顔を背けていたが。まあいいだろう。

今ではエルフの姿も実体化している眷族達を信用している。何かあれば呼んでくれるだろう。

大量の荷物をどうしようと聞いたら、影の中に放り込んでくれれば眷族達が受け取ると言うので、お言葉に甘える。

そして大量に保管していた今までの魔物や獣の素材を売ったり、交換してもらったりして買い物をしていく。


 がしっ!、と腕を掴まれる。

寝具を調達していたらエグザスに見つかったようだ。買い物なので気配が消せないのが難点である。

荷物を影に収め、仕方なく、町の管理塔へエグザスに引きずられていく。

「やっと来たか、変態エルフ」

「なんですか、その呼び名。そんな者いませんよ」

ギードは心底嫌そうな顔で、この町の管理塔所長のデザインの前に座る。

老獪な脳筋騎士は、「がははは」と笑いながら部下にお茶を出すように指示する。

「さて、色々聞かなきゃならんことがあるんだが」

そう言い出す所長の目の前で、ギードはテーブルにばさりと紙束を出す。

「ドラゴンの資料です」

まあ、今のところ分かっている分だけですけど。というが、びっしりと書き込まれた量は少なくない。

お茶を出そうとしていた秘書の女性が固まっている。

「あ、あー、助かる」

クー・シーに書いてもらった地図や、ドラゴンを直接見た感想。

そして、勇者一行との戦闘の様子まで、仔細が書き込まれている。もちろん、勇者一族の私兵が知る以上の事は書かれていない。

あくまでも、イヴォン達一行と共闘し、炎のドラゴンに一太刀浴びせた、というところまでだ。

その後はドラゴンが消えてしまったので、倒したかどうかは不明であるとした。

お茶を飲みながらそれに目を通しているデザインの横で、エグザスも気になるのか、必死に自分達の名前がある場所を探している。




「それを読んでいただければ分かりますが、自分はドラゴンの研究者の立場に立って、ドラゴンを援護しました」

私兵達にしたら敵だろう。でもドラゴンの調査を依頼したデザインにすれば、これは当たり前の行動だ。

この国や教会にとってドラゴンは神聖なものだ。

昔はドラゴンの数も多く、町や農地が被害に遭ったため、討伐という狩りも行われていたが、今は被害が無いのだから討伐する意味はない。ただの脳筋達の腕試しでしかないのだ。

そして近年、一度も討伐は成功しておらず、帰って来た者がいないのである。

「いや、充分だ。よくやってくれた。礼を言う」

いえいえ、とギードはにやりと笑ってお茶を飲んでいる。

その横顔にエグザスは緊張を高める。

「実はひとつお願いがあるのです」

ギードの言葉に、そらきた、とため息を吐く。

「なんだ?、変態呼びを止めることぐらいならしてやるぞ」

その冗談は面白くないですよ、と所長に言った後、ギードは蝋封された手紙を取り出す。

「サンダナ様のご実家へこれを届けて欲しいのです」

出来れば早急に返事が欲しい。

デザインは黙り込む。実をいうと王家と勇者の一族はあまり仲が良くない。王太子が勇者の一族の動向に気を配っていたのもそのせいだ。

「少し待ってくれ。夕食に招待しよう。こちらの返事はその時にする」

「分かりました。夜にまた伺います」

そういうとギードは再び町へ買い物に出た。


「ギード様!」

やはりエグザスに掴まった時点でバレていたのだろう。

塔の職員のエルフ達に囲まれてしまった。

買い物中だと言うと、「こちらでご用意いたします」と覚書を奪われた。

そして管理塔の中にある職員達の休憩室でのお茶会。

『ギードの土産物店で買った飴がひとりの女性を救った話』を聞かされる。

あー、あのべっぴんさんかー。

心当たりがあったので、頷きながら話を聞く。

「分かりました。この町にも店をださせてもらえるよう交渉しましょう」

おー、とか、きゃー、とか歓声が上がる。皆、うれしそうだ。

この町にはエルフも多いので商売にはなるだろう。塔の中に売店くらいなら、デザイン所長の許可も簡単に下りそうだ。

「あと、一人でいいので、こちらの町の担当者を誰かお願いします」

と言うと、全員一致でひとりの魔術師が推薦され、前に出て来た。

この塔でギードの事を崇拝している者として有名な男性だそうだ。

「ん?。ああ、あの移転魔法陣の時にお世話になったー」

「はい!」

高位の魔術師だったはずだが、何故か子供のように顔を赤らめ、うれしそうにしている。

「ではよろしくお願いします」

ギードが握手を求めて手を差し出すと、かばっとその手にしがみ付いてきた。

「あ、ありがとおおございますぅぅう」

人選間違えたか?。

興奮のあまり、鼻血を出して倒れた魔術師を全員で呆れて見ていた。




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