企て。そしてテスト
改稿にて話数が減ってしまい、皆さまにご迷惑をお掛けしていまい、申し訳ありませんでした。
これからはちゃんとプロット作ってから書きたいと思います!
「け、結構きついっすね……」
練習メニューの八割程をこなした時、佐々木はポツリとこぼした。
「ああ。もともと、今井監督が考案した練習メニューはかなり効率のいいメニューだったんだが、チーム状況から量を少なくせざるを得なくてな。神野監督が練習量を増やしたのは間違ってないよ」
それを狙ってやったのかはわからないけど、と付け加える。
「にしても浅村と高槻。君らは大分余裕そうだね」
「新垣さんもですけど」
「……このくらい余裕だろ」
「荒羽シニアの面々もちゃんと着いてきてるし、やっぱりレギュラーは1年がほとんどになりそうだね」
言葉の割に、新垣はやや険しい表情で呟き、サーキットトレーニングをこなす。
「それってダメなことなんですか?」
「ダメって訳じゃないけど、やっぱり3年と1年では違うからね」
「最後の夏……」
「そう。まだ先がある1年と、もう後がない3年。気持ちの入りかたが違う。無意識の内に来年がある、再来年があると思ってしまうんだ」
「確かに、実際そうですからね」
「そう。だから、オレはあの3年を主軸に君たちを加えたオーダーを組みたい。そのためにも、協力してくれ」
「「「はい!」」」
「……うす」
佐々木と室井、小峠と高槻が返事を返すが、瑞穂は見向きもせずに腕立てを行っていた。
「浅村?」
「……俺も協力しろっていうなら……無理です。3年にとって俺は、なんの刺激にもなりませんから」
「おいおい、謙虚になるのはいいことだが、時には自信も必要なんだよ?」
「……無理です」
陰のある瑞穂の表情を見て、何かを察した新垣。
「……なるほど……君も、訳ありか」
「あなたもでしょう」
「……お互い、頑張ろう」
「……できる限りは」
新垣と瑞穂の会話は、そこで終わった。
翌日。
「浅村、これからテストやるみたいだぞ」
「……野球のだろうな」
「当たり前だろ」
室井が放った単語に過剰に反応する瑞穂。頭の良くない瑞穂にとって、テストという単語は恐怖だった。
「どうやら今年から始めたらしいだが、月イチで体力テストのようなものをやるらしい」
「……野球部がやるようなものだから、種目は50メートル走、遠投、ロングティーってところか」
「ああ、ドンピシャだ。そんなところらしい」
アップが終わると、すぐに50メートル走計測が始まった。特に順番はないらしく、最初は小峠だった。
シニア時代、韋駄天とまで言われた足を生かし、6.1秒を記録した。
「よっしゃ! 絶好調!」
ちなみに結果としては、佐々木は6.9秒、高槻は6.8秒、瑞穂は7.0秒だ。室井は7.8秒だった。
「お前、足遅くね?」
「うるさい」
瑞穂に指摘され、かなり傷ついた様子の室井。8秒というと小学生レベルなので仕方ないが。
「この屈辱は遠投で返す」
「高槻もいるがな」
「……くっ」
続いて遠投。
ついに、その高槻の番がきた。
やはり中学No.1投手なのか。3年も2年もざわつき始める。
「ふっ!」
柔軟かつ繊細なフォームから放たれたボールは50度ほどの角度で上がり、フェンスに直撃した。
このグラウンドのホームベースからレフトフェンスまでの距離は100メートル。計らずとも、距離は明らかだ。
「さすが、荒羽のエースだわ」
「くっ……俺90だったのに」
「……不満だ」
だが、本人はあまり納得いっていない様子だ。
「……?」
そんな高槻の視界に、白い軌跡が映った。それは重力に逆らうように真っ直ぐ進み、レフトフェンスなど優に越えて、20メートル先の校舎の柱に直撃。跳ね返ってフェンスに当たった。
「な……!」
あわてて振り返ると、揃ってポカン口を開けてフェンスの向こう側を見る上級生と、投げ終わった体勢の瑞穂が居た。
「…………」
その光景を見た高槻は、驚くでもなく、悔しがるでもなく……
「…………ふっ」
笑った。