Henntaiの成長
「―――なぁ、そこでそうやって本を読んでるならこの岩をどかすのを手伝ってくれよ」
ビニシオが少しイラつきをまじえたような声で不服を申し立ててくる。
ビニシオは数時間前から畑の敷地内にある岩をどかそうと奮闘していた。
そんなビニシオの姿を酒のつまみに………、ゴッホン何でもござらん。
兎に角そんなビニシオをよそに本を読んでいるのにはちゃんとした理由がある。
その理由は簡単だ、現世でないと本が読めないのだ、つまりあの白い空間を仮に聖域と呼ぶとしたら聖域には現世で手にいれた物は持ち込み禁止なのだそう。
だからこうしてわざわざ現世にて読書に勤しまなければならない。
「―――羽根ペンより重いものを持ったことがないんでな」
「その本は明らかに羽根ペンより重いものだよな」
ふむ、ビニシオもやるようになった、いや、俺がビニシオをいじる気がないだけか?
まぁとにかく今は本当にビニシオの手伝いをする余裕がないんだ。
「見てわからないのか?俺は今本を読んでいる、生きるために必要な知識を集めているんだ、邪魔をするな」
「………あ、あぁ……?」
少々強引だったかもしれないがまあいいだろう。
さて本題に入ろうか、先程から読んでる本の題名は『魔導教本・入門編』だ。
その名の通りにこの世界に存在している魔法についての初歩的な事が記されている。
茶色い革の表紙、その中心には白い石がはめ込まれており中々俺の好きなデザインをしている。
さて、復習もかねて内容を読みながら進めていくか。
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≪第一章≫
―前書き―
この教本を手に取り、魔導の道を進まんとする者よ、僕は貴方達を歓迎しよう。
この教本の製作に関しては、僕一人の力では成し得ない部分もあった、どうにか完成できたのは僕の最愛の妻と子供たち、また友人たちの協力もあってこその物だと明言しておこうと思う。
―魔法とは―
まず始めに、魔法とは何なのか、それを記そうと思う。
魔法とは、この世界を創世した『造主』が使ったとさ
れている『真法』が起源である。
当然のごとく造主の力をその造られた物たちが使えるはずがない。
数々の古文書によると、初めて魔法が確認されたのは今から凡そ800年前、神代の時代である。
魔王がこの世に現れ、そのすべてを飲み込む闇の魔法で猛威をふるい。
そして魔王の出現に呼応するかのように召喚された勇者の魔王の闇を打ち消す光の魔法。
これがこの世界で最初に正式に確認された魔法である。
因みに魔法とは魔王が最初に使ったとされているので。魔王の法則、略して魔法と呼ばれている。
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まずは本として基本の前書き、そしてその後に内容。
それにしても随分と複雑な関係だな、まぁ、魔法とは真法の劣化したものと捉えておこう。
それにしてのも随分と早く勇者だとか魔王の存在がはっきりしたな……、ラノベだとかだともっと遅くに出てくるのが典型的なんだがな。
まぁ、魔王がいたと知らずにいるよりもいつか現れると考えていたほうが良いだろう。
話がそれるところだった、魔法の話をするんだった。
闇の魔法……、と光の魔法か、どこでも聞くような典型的な物だな、ラノベとかの話だが。
もっと他にもないのか?火だとか、水だとか、あぁ、もっと後の方に書かれているのかもしれないな。
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さて次だが、この本の表紙に白い石がはめ込まれているだろう。
この石は負の『魔水晶』である。
魔水晶とは自然界に存在しているマナを含んだ鉱石の総称だ。
本書に付属している魔水晶は人工的に作ったもので本来ならばマナを蓄えているのだが、この魔水晶は特別な技術を用いて反転させたものである、これ以上は機密保持のために伏せさせていただく。
この魔水晶に付いているカバーを取り外して触れてみてくれ、先ずはそれからだ。
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何やらよくわからないが取り合えずこのカバーを取り外して………触れる……――――。
「―――あ?」
先程まで純白とまではいかないものの結構な白さをせていたはずの魔水晶に灰色の斑紋が浮かび上がってくる。
そして1分もかからないうちに漆黒に染まり上がった。
そして体に奇妙な感覚が。
「何だ?この感覚………まさか……?」
触れた先から軽く電撃が走ったような感覚が全身を駆け巡る。
それと同時に全身から魔水晶に触れている部分に血液が集中するような感覚、指先からは熱を感じる。
恐らくこれがマナを消費すると言う感覚なのだろう、確認のために自分のステータスを確認してみる。
するとやはり数秒ほどに一回の割合でマナが消費されていく。
ここに滞在するための貴重なマナが消費されていく。
慌てて手を離した、が、やはり魔水晶は漆のような漆黒の輝きを放っている。
急いで教本のページをめくっていく。
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魔水晶に触れたときの感覚をしっかり覚えていてほしい、今のがマナを消費するという感覚だ、この感覚は魔法を使うときにも感じるものだ、慣れておくといい。
そして君は魔水晶の色がどのようになっただろうか?
赤になった者は11ページに。
青になった者は22ページに。
黄になった者は33ページに。
緑になった者は44ページに。
漆黒になった者は55ページに。
純白になった者は77ページに。
それぞれの属性の説明が載せられているので先にそちらを読んでくれ。
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ほう、個別に解説のついてくるものだったか、この本の作者は中々やるな、存命しているのならば是非一度話をしてみたい。
だが、俺が転生するのは500年後、今生きていてもどうせ死んでいるのだから諦めるしかない、オールディスを放って作者探しをするような余裕はないしな。
まあ、仕方のないことをいつまでも話していても時間の無駄なだけだ、さっさと55ページに目をやるとしよう。
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魔水晶が漆黒の輝きを放った者よ。
君には『闇の魔法』を行使する強い才能がある。
闇の魔法とは、造主の造ったものすべてを飲み込み反転させることのできる非常に強力な属性だ。
始めに言っておこうこの属性は魔法の使用者の人格を飲み込む場合がある。
闇の魔法は使用者のマイナスの心に比例して強力になっていく、強力になっていく行くほど使用者の人格を飲み込もうとするので闇の魔法を極めようとするならば先ずは精神力を鍛えなければならない。
次はこの横についている黒い魔水晶に触れてみてくれ、簡単なテストをするだけだ怖がるようなことはない。
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本に書かれているように横の欄外に付属されている黒い魔水晶に触れてみる。
「…………んっ!?」
触れた瞬間にまたもや電撃が走ったような感覚が、そしてマナが魔水晶に吸収されていく。
そしてその魔水晶からその色と同じような漆黒の煙が取り囲むようにして俺をっていく。
「ク、クロノス……!」
「………気にするな単なる煙だ」
ビニシオが慌てて駆け寄って来たのでそれを制する。
が、俺を覆った黒煙は何の害も無かったらしい、それに俺は別にたいした問題ではないのだがビニシオに何かあったら後悔では済まなくなるだろう。
体を動かして確認するがやはりなんともない。
「何なんだ……?」
教本にはテストだと書いてあった。
ならば先ほどのアレは教本にかかれているテストの可能性が高い、というかもう完全にテストだっただろ。
いや、もう余計なことを考えるなはよそう、早く続きを読まなければ。
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さて、どうだっただろうか。
君には何が見えた、何を感じた?
もしも何も目えなかったのなら君は闇の魔法をまだ使うに至っていないということだ。
多くの者が何も見えなかった筈だ。
先ほどのテストは自信の記憶にある本当の恐怖を見せるものだ。
闇の魔法は使用者のマイナスの心に比例して強力になっていく、だがその過程で恐怖に人格を飲み込まれてしまう。
闇の魔法を使うにあったて必須なものは本当の恐怖を知り、それを乗り越えられる強靭な精神力だ。
今回本当の恐怖を見てなお精神が揺らがなかった者にだけこの先に進むことを許そう。
恐怖が見えなかったもの、もしくは恐怖に打ち勝てなかったものは今回は諦めてくれ、暴走の可能性があるものには闇の魔法に触れてほしくない。
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………………は?
何なんだ、教本として売りに出しているんだから、金をとっているのだから、その分の対価は支払われるのは当たり前だ。
止められようが何をしようが俺はこの続きを読む!
と、次のページを開こうとしたのだが開かない、まるで接着剤で固く張り付いているかのようだ。
「こんなもの………っ」
思いっきり力を込めてページを開こうと画策する。
だがやはり教本のページは開かない、これは俺の力じゃ開かないような気が………いや、筋力の問題じゃないのか。
おそらく魔法的な何かで開かないようになっているんだろう………、つまらん。
「無駄な時間を過ごしたか………」
本気で後悔して教本にもう一度だけ目をやるとまだ文章に続きがあった。
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それでもなお力がほしい、緊急の状態だと言うものには闇の魔法ではないマナを使ったある技術の紹介をしたいと思う。
その技術の名は『活性化』や『循環法』、『気功術』など地域などで呼び方は違うがマナを意図的に体内で回転させて自身の身体能力を強化させる技術だ。
方法は簡単、先ほどの感覚を思い出しながらそれを動かしていけばいい。
この方法は個人の感覚でしか言い表せないので具体的な方法の記述は逆に妨げになる可能性があるので避けることにする。
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闇の魔法が使えないのは少々……、いや大分イラつくが我慢しよう。
だがこんなものがあるならさっさと教えてほしかったな、少しばかりだがイラついてしまったじゃないか!
ほら見てみろ、俺の怒気に当てられたのかビニシオが何やらぶつぶつ言っている。
「………や…さっき……?………病院に……………効かない……」
何故か俺の頭が予測変換したのがこれだ「………やっぱりさっきの煙が?……病院に…精霊に人間の治療は効かないんじゃ?」と、
だがまぁ、あくまでも俺の予測変換だからな………本当は違うことを言ってた可能性が大きいじゃないか!
「なあ、クロノス………病院に行かな……ヘプンっ!?」
嗚呼、分かっていた、解っていた、判っていた、なぜなら俺は読唇術ができるからだ!
だが、面と向かって言われるのはなかなか精神的に厳しいものなどは一切無かったが、ムカついたので殴り飛ばした。
「おい」
「…………」
「あ?気絶してんのか?」
話しかけても反応がない、少しやり過ぎたようだ。
ビニシオはもう少し頑丈に鍛えたつもりだったんだがな、ククク腕がなる、また1から鍛え直しだ。
が、その前に俺の循環法の完成だ。
よし、循環法、完成してやろうじゃないか!!!