Henntaiは学ぶ
情報収集から戻り再び人魂に眼鏡と言う不思議な状態に戻った俺。
体は限界まで使ってしまうと再構築に暫く時間が必要なので魂だけになるらしい。
「仕込みは上々、掴みはいいし気力のアップも芳しい」
「良かったですね」
「あぁ、思い付く限りの罵詈雑言を浴びせるのは中々楽し………いや、心苦しかったがね!」
「本音が漏れましたね」
「空耳だ」
「おやまあ」
俺が人を貶し、罵り、諭して悦ぶ人間に見えるか?
まぁ確かに少しばかり今まで感じたことのない背徳感があって中々楽しめたような気もしないではないが。
「わかります」
「ふっ、お互い通だな」
「の様で」
まぁ、アシュリーと戯れるのはこれくらいにしておこう。
ビニシオの方は言った通りに水路を直し始めているのか?
「ふむ、言われた通りにしている様ですね」
「の、様だな」
しっかりせっせと水路に貯まっている石を放り投げ、土を掘り出して形を整えている。
ふむ、確か土が崩れないように溝の両脇に木材を打ち付けて置くのが昔は一般的だったような気がする。
一応ビニシオに伝えておくか。
「ひとつ、宜しいですか?」
「何だ?」
「何故北の森に行くように指示したのですか?」
「あぁ、それはな……」
簡単な話である、まぁ詳しい説明は順を追ってしよう。
まずビニシオの家に行ったのは現世に滞在できる24時間のタイムリミットの内、既に18時間が過ぎた辺りだった。
別に6時間もあればこちらの言い分をビニシオに伝えるのには十分すぎる時間だ。
実際、ビニシオに会いに行ったのは事実現世に出てきて18時間が過ぎた昼の12時くらい。
つまり俺はビニシオに会う前日の午後6時ほどには既に現世にいたわけだ。
「そうだったのですか」
「………見てなかったのか?」
「貴方ばかり見ているわけが無いでしょう、他にもやることがあるんです」
ふむ確かに。
俺の行動を逐一観察し続けていたならば、それはもう変態ですよ。
「まぁ。そんなわけで俺はビニシオの家から1番近い町に行ってきたんだ、そこで少しな」
「ほぅ………?」
―
――
―――
――――
さて、現世にきた。
先ずは何をするか。
ズバリ情報収集だ。
俺は現世に居ないときはビニシオの周囲の事くらいまでしかわからない。
だが現世に居るときには色々と動き回ることができる、ならば1日中ビニシオの近くにいる必要はない。
俺はこの世界の知識は殆ど無い。
最初、アシュリーに出した条件しか頭に入っていない、だが人に聞くより自分で歩いて理解する方が俺には合っている。
「さてさて、ビニシオの家から一番近いのはこの街だよな?」
グルニシア大陸、フィスラル国の南部に位置するダルシアの街、周りは森に囲まれており、白と青の外壁と高くそびえる門が特徴的な街だ。
中に入ると先ず住宅地が見えてくる。
地面に色々とイラストか描かれている、例えば武器を持った軍人風のカラスに、白いフクロウが赤いローブを羽織っている、その他には………、あぁ、ペンを持った赤いドラゴンもいる、何なんだこれは。
「あぁ、そこのお嬢さん」
「はい?」
「この絵は何ですか?」
「…………は?」
(――ちっ、まずったか?)
うかつに話しかけるんじゃなかった。
反応から考えられる事はいくつかあるが、恐らくこれだろう。
あの地面に描かれているイラストはこの世界では常識的な物で世界に広く浸透しており、知らない者はいないはず。
恐らくそんなところだろう。
よし、なら。
「………すみません、何分山奥で育ったものですから都会は始めてで………」
「あぁ、そうだったのですからあれは組合の絵です」
「組合?」
「えぇ―――」
街娘さんの話によるとあのイラストは店のある場所を指していると言う。
軍人風のカラスは『カラス武具店』と言って主に武器や防具を販売または制作している、この大陸では有名なチェーン店らしい。
続いて白いフクロウが赤いローブを羽織っているイラストだが、これは『フクロウ』と言う店のものらしい、主に日用生活品や洋服等を売っているこれまたこの大陸では有名なチェーン店らしい。
そしてペンを持った赤いドラゴンだが、これは『ペンドラゴン協会』のイラストらしい、ペンドラゴン協会とはいろいろな依頼を受けてそれを協会の組員の人に分配して依頼を達成する言わばファンタジー小説で良くでてくるギルド的なやつらしい。
「ありがとう」
「えぇ」
ふむ、いい人だった。
地球だったらハゲ散らかした50位の太った加齢臭のするおじさんがJKに話しかけてみろ、その場はいいが後々そのJK達が「マジキモィ~」とか平気で言うような所だ。
まぁ、妄想にふけるのも大概にしておこう、後23時間42分しかない、急がねばな。
「さぁてさてさて、先ずはどこに行こうか」
俺が先ずやらねばならないのは、ビニシオをやる気にさせて生きさせること、先ずは生きてもらわねば話にならない。
そして次に結婚して子供をつくってもらわねば俺は異世界無双とかの話の前に生まれてもこない。
まずビニシオをやる気にさせるには?
金?酒?いいや違う、女だ。
いや、言い方がよくないな、心を許せて隣に居ると安心するような女性、つまりは奥さんだ。
生涯をかけて、支えまた支えてくれる人、そんな人を見つける手伝いをしてやろうと思う。
性格はのび太くんの様だがルックスは悪くない、頑張れば行けるだろう。
「あぁ、違う、今はその話じゃない」
そうだ、この世界の情報収集だった。
そうだな………さっき娘さんから聞いた3つの店に行ってみよう。
――
まずカラス武具店にきた。
カラス武具店は外装がカラスの頭の様な作りになっているくちばしの部分が入口だ。
続いて内装、床は木材でフローリングされていて入ったらすぐ両脇に金色のいかにもお高そうな鎧がいくつか並んでいる。
まっすぐ行くと次は剣などの武器が置いてあった、どれも造りはシンプルだが中々業物っぽい、素人目線だが。
これなんか物凄く良く伐れそうだな。
暫く見続けているとあるものが出てきた。
いや、詳しい説明は無いのか、と思ったら表示されたと言った方が正しいかな。
――
鉄の剣
耐久力92/92
鍛造日752/3/17
価格3250
――
そう、ステータスだ。
『鑑定眼鏡』は人以外でも使うことができるらしい。
ふむふむ、なるほど、ならば道端の植物はどうなんだろうか?
――
雑草
耐久力7/12
発芽日752/2/28
価格0
――
ふむ、中々便利なものだな。
商品の品質などを見分けるときに使えそうだ。
そう考えると商売のやり方に色々と修正をしなければいけないところが出てきた。
例えば――――
「兄ちゃん、さては只者じゃないな!?」
「……」
ふむ、俺の思慮を遮ったのは軍服を着込んだ背の小さく、また身長とは相対的に長い髭が特徴的な男。
只者じゃない?何だこいつは、もしかしてアシュリーの関係者なのか?
「そいつはなぁ、今期最高に良くできた逸品なんだよ!」
「……ふむ、確かに」
周りの剣と比べると耐久力が10ほど高くまた値段もかなり高めだ。
因みに俺の勝手な考察だが、耐久力はそのものが持っている人間で言えばOPだと思う。
植物は耐久力が7/12になっていた、恐らく枯れ始めたか人に踏まれたかどちらかだろう。
恐らく他もそうだが鉄の剣等は耐久力が0になったら壊れてしまうか使えなくなってしまうのだろう。
そして鍛造日と発芽日は文字通り鍛造された日と発芽した日だ。
その次の752うんたらかんたらは多分暦なんだろうけど詳しくわからないから今ここでの明言は避けておくとしよう。
「分かるか!」
「あぁ、でもあの剣は?」
ふむ、お嬢さんの時は敬語は別にいいかと思ったがやはりこのオッサンは敬語じゃない方が話しやすい。
ステータスから見るとここの店長らしい。
「………あれは売りもんじゃねぇよ」
「そうなのか」
「ワリィな」
ふむ。
1本だけ耐久力が1000を越えているやつがあったゎだが残念ながら売り物ではないらしい。
そして一通り店内を物色し、『カラス武具店』を後にした。
――
次に『フクロウ』に来た。
そしてまたもや発覚した『鑑定眼鏡』の便利な能力。
この世界の文字が漢字として読むことができる。
看板に書かれているフクロウ、が『服ロウ』と見える。
なぜか『フクロウ』の名前の由来が『服を作ろう』だからだそう、説明の表示が出てきた。
「さてさてさぁて?」
『フクロウ』の外装は白いフクロウの頭、ドーム状の建物だ。
2階建てらしい、黄色いガラスの窓が目と思われる部分に配置されている。
『カラス武具店』と同様に黄色いくちばしの部分が入口になっている。
中は意外と明るかった、このような店は俺の中のイメージでは暗い感じがしたんだが、なかなか洒落た感じで地球でオープンすれば行けそうな感じがする。
「おや、何か探してるんかい?」
「いや――――――」
話しかけてきた老婆。
赤いローブを羽織って下にはモンペのようなものをはいている。
白髪に丸眼鏡と言う組み合わせがしっくり来すぎて微妙にだが不気味だ。
まぁ、とにかく話しかけてきた、探し物は特に無い。
と、思ったが顔が隠せるようなものを買っていこう。
「そうだな、少し大き目の全身が隠せるようなローブはあるか?」
「確か奥に白いのがあったような………、ちぃっと待ってくれるかい?」
「了解」
この世界の金銭ならアシュリーに幾らか貰った。
完全にヒモみたいだが今回に限って特別措置らしい。
さてと、ローブを買う理由だが顔を隠そうと思ったからだ。
俺は現世に居るとき今のようにいつもオールディスの近くにいるわけじゃない。
もし、先程会った娘さんに50年後、再び出合ったとしよう、俺の姿は変わっていない。
この体は年を取るような作りではないからだ。
そしてもし、娘さんが俺のことを覚えていたとしよう、姿が変わっていないのだ、何かと問題になるかもしれない。
自意識過剰気味みたいだが念には念を、予め準備しておいて悪いことはないだろう。
「ん、この仮面も貰っていくかな?」
仮面舞踏会で使いそうな仮面、何故か服屋なのに置いてある。
まぁ、置いていて都合がいいので特に文句はないのだが。
「い、いや、何でこんなに真面目な考えをしてるんだ!?俺は元々こんな性格じゃなかった!
も、もしやこれが俗に言うマインドコントロール!?
ならば一体だれが…………!!!」
「……………兄ちゃん、仮面付けてお芝居の練習かい?
良かったらその仮面、サービスするよ?」
「ありがとうございます!お姉さま!」
「お姉さまだなんてお世辞がうまいのぇ」
「いいえ、事実です!」
「ウフフフフ」
「アハハハハ」
「「アハハハハハハハハハハ!」」
――
ふむ、中々気さくな人だった。
仮面はサービスしてくれたし、ローブも古いものだからと値引きしてくれた。
さて、余った金で何を買おうか、ビニシオに米の種でも買っていくか。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「…………何だ?」
次は『ペンドラゴン協会』に行くか、と思ったその時、奇声が上げられた。
調度住宅地の真ん中にある広場に人溜まりができている。
行ってみるか。
「お、おいマジかよ!」
「すぐにペンドラゴン協会の所に!」
「い、いや王都に連絡を……」
「王都からここまでは馬車で1週間はかかるんだぞ!?」
何やらもめているようだ。
ふむ、人溜まりの中心には人が倒れている。
「ん?くたばってんのか?」
「………見ての通りだよ」
既に亡くなっているような感じだったので尋ねてみたのだが隣にいたオッサンはしかめっ面で返答してきた。
何かおかしなことを言ったのだろうか?
「う~ん?」
死体(暫定)を見てみると鎧を着ているが胴体部分に3つの深い切り傷がある。
あの手の等間隔の切り傷は縫合ができないから面倒だ。
更には鎧が無くなっている足の部分の肌が紫色に変色している。
「毒………か?」
内出血かと思ったが鎧を脱がせてみると太ももから下が全体的に紫色で、蚊のような昆虫に刺されたような巨大な痕跡。
更には紫色の肌になっている部分には湿疹ができている。
その事から総合的に考える。
「昆虫型の強力な毒を持った何か…………、オッサン、こいつはどこから来たんだ?」
「さぁ、この街の人間だが………、ペンドラゴン協会の依頼を受けたんじゃないか?」
「そうか」
ふむ、『ペンドラゴン協会』に行くか。