Henntai感傷に浸る
魔王クロスの襲撃から早くも1ヶ月ほどが経過した。
元々あまり綺麗な街では無かったが、1ヶ月前は数々の建物が燃えており、被害のない建物などむしろ珍程の状態だった。
ただ、自然に貯まっているマナが影響しているからか元々自然災害が多い為、住民たちは復旧作業に慣れておりかなりのスピードで作業は進められている。
ただ。
「作物は全滅か…………」
天使―――人形精霊達―――が破壊した所や隆起させた部分、クレーターを残した部分に関しては直していったたものの作物までは再生していかなかった。
作物全滅は残念だ、非常に悔しいが復旧には人形精霊達が金銭的な支援をしてくれるらしいので我慢しておくことにする。
だがそれでもせっかく作った作物を破壊されるのは気に食わない。
「よし。
…………このネタで揺すって金をふんだくってやる………!
クックククククク――――――」
「――――……………何物騒なこと言ってんだよ」
先の戦いでの損害とこれからやりたい事の先駆け金の計算を始めたのだが真後ろから話しかけられた。
俺に気がつかせないで忍び寄るやつは早々いない、それにこの声はビニシオだ。
「あるところから金を頂くだけだ、問題はないだろう?」
「だからと言って――――」
「―――ヘタレが」
「へっ?」
認めよう。
今回ビニシオは俺がカバーしきれなかった数百の雑魚共を狩り尽くた。
それに逃げ遅れた50人超の人々を避難させた事もよくやってくれた。
克つ飛んできた瓦礫の山を己のオドを燃やし後ろにいる人々を守りきった事には称賛の声しか上げられない、本来なら全て俺が止めておかねばならなかったのだから。
その上で今ではダルシアの復興のために昼夜を問わず働き続けている。
明らかにだ、今回の件に関しての一番の功労者、MVPはビニシオ・オールディスだ。
誰が文句を言おうがこれは変わることのない、れっきとした事実だ。
そうだな、もし誰かが文句を言おうものなら、その前に俺があらゆる手を使って黙らせてやる。
必ずだ。
だが。
「このっ!ヘタレがぁぁぁぁ!」
循環法を発動し、足に力を込め思いっきり地面を蹴り、天高く飛び上がる。
そして標的をビニシオに定めて蹴りを繰り出す。
「死ねぇ!」
「死なん!」
ビニシオの体から赤い炎のようなものが吹き出す、あれはビニシオお得意の身体強化魔法だ。
赤い炎を纏ったビニシオは俺の渾身の一撃を易々と受け流す。
メコッという鈍い籠ったような音が鳴る、地面に衝撃が加わった音だ。
蹴りが外れたのを確認したと同時にビニシオの腹に掌底を繰り出す。
「うっ………!」
「詰めが甘い、な!」
ビニシオに馬乗りになる。
腕に力を貯め顔、の真横を打抜き「checkmate」と言う、組手が終わった時の合図だ。
「………お前さぁ、何で先に言わなかったんだ?」
「魔王の事があったし、先に言われるとは思ってなかったんだよ」
「――――ヘタレめ」
「何でそれでヘタレになるんだよっ!」
何を先に言わなかったのか、何の話か多くの方は分かってくれる事だろう。
あの日はビニシオがフィルにプロポーズするからと言っていたので会わずに作物の様子だけ見て帰ろうと気を使ったのだ。
だがしかぁし!!!
ビニシオは自分からプロポーズする前にフィルにプロポーズされてしまったのだ!
しかも!!!
まだ返事をしていないと言う!!!!
「―――これをヘタレと言わず何と言う!!!!」
「状況が状況だったんだ仕方がないだろう!」
「さっさと返事しろって言ってんだよ!
やっぱり最近食物繊維の過剰摂取で消化不良おこしてるだろ?
いや、拾い食いしたか?」
「俺を何だと思ってるんだ!」
「アナタシア」
「…………は?」
「ミドリムシ………、らしいぜ?」
「せめて犬にしてほしかった………っ!」
ちなみにアナタシアがミドリムシだと言うことはアシュリーに言われて初めて知った。
あぁ、そう言えば、クロスが襲撃してきてから時間制限により聖域に帰ったとき、アシュリーの様子がおかしかった。
いや、性別不詳の謎だらけで全身モザイクがかかっていて表情が読めないから何となくの雰囲気だけだったのだが。
そうだな、例えるなら何時からいるかわからない全身タイツにパンストを被った喋らない動かないそんな感じの人物突然パンストを脱ぎ捨てて息切れしていたら苦しかったんだろうと思うくらいのものだ
――
「魔王が今?」
「見てなかったのか?」
天使達がクロスに止めを刺すために放った合せ技によりあれだけの大穴が空いたのに見てなかったのか?
「今?魔王が?…………そんな、おかしい、後500年は…………」
「アシュリー?」
「成る程………世界め。
私から白と黒を奪っておきながらまだ…………。
なりふりかまっていられないと言うことですか、貴方がその気ならば私も吝かではありませんよ」
――
会話は上の通り、いつもは無機質な話し方をするアシュリーだがあの時は芯のある力強い話し方をしていた。
あの後すぐにアシュリーはやることがあるといなくなってしまったが恐らく天使、もしくは魔王関連の事だろう。
「俺はミドリムシじゃない、俺はミドリムシじゃない、俺はミドリムシじゃない…………」
「あぁ、ミドリムシ、今からフィルの返事しに行ってこい、そしたら駄犬に改名してる」
「……………」
「行かないのか?」
「………行くよ」
さて、と。
絶対にビニシオはOKするだろう、ヤツはフィルにぞっこんだしな。
となればやることはただひとつ、結婚式の段取りだ、思いっきりやってやろうじゃないか。
え?
何だって?
異世界に結婚式はあるのか?
――――やっちまえばこっちのもんだ。
◇◆◇◆◇
――ビニシオ視点――
「オールディス殿!」
「……あぁ、ペレックス伯爵、どうされました?」
フィルに会うために『ペンドラコン協会』――と言っても建物は壊れた、いや俺が消却しているので仮設テントだが―――に向かっている最中に身長の高い初老の老人に声をかけられた。
ペレックス伯爵。
彼はダルシアの街を含めこの辺りの街を20程束ねている貴族だ。
自然災害の時にはあまり来ないが、今回は魔王軍の襲来と言うことで国王から直々にこの街の復旧に当たるようにと言われて王都からわざわざやって来た。
多分天使からの圧力があったんだろう。
この国は水の天使、シズクが守護精霊として建国当時から力を貸している。
なので彼女の影響力はかなりのもの、彼女が一声言えば貴族を動かすくらい造作もない。
……………うーん、ここまで思考が回るようになったのは喜ぶべきことなんだろうが……………。
クロノスの拷問に耐えた結果だしな………、釈然としない。
「いやはや、先の戦いオールディス殿が尽力してくれなければ多大な死人が出ていたことでしょう!
ですが、貴方のお陰で死人はおらず、復旧作業も抜かりない!
全く喜ばしきかな!」
考え事をしていて前半部分を聞き逃していたがまぁ問題はないだろう。
ただ、考え事をして話を聞かないのはクロノスと同じレベルと言うこと、やっぱり釈然としない。
「いえ、僕がやったのは単なる雑魚狩りです。
それに皆の協力が無かったら僕みたいな人間なんてできないことだらけですよ」
「お若いのに、中々しっかりとした考え方をお持ちのご様子!
益々気に入りましたぞ!」
「ありがとうございます」
この人は何かにつけて絡んでくるので少々鬱陶しいのだが雰囲気が庶民っぽくても貴族は貴族、失礼な物言いは避けるべき。
それに街復興のスポンサーでもあるし、指揮力はクロノスと遜色のないレベル。
気分を悪くされて居なくなられてしまうのはまずい。
一つ訂正させて頂きたいのは「お若いのに」という発言、俺はもう三十路のオッサン、単なる童顔なだけだ。
「所でオールディス殿、この後の予定はいかに?」
「ひとまず『ペンドラコン協会』に行こうかと、用事がありまして」
「成る程成る程、用事がすんだら私が停まっている宿に来てもらえるかな?」
「えぇ、わかりました」
「それじゃあ、頼んだよ」
ペレックス卿から食事の招待等は何回かあった、だが宿に呼ばれるのは初めてだな。
「う~ん?
…………………………ハッ!ま、まさか――――――」
――――――――もし、だ、仮の話、仮の話だぞ?
もしペレックス卿に男色の気があるのだとしたら……………。
今は夕刻既に日は沈みかけている、用事を済ませたら日が落ちてしまうのは確実だ。
ペレックス卿に男色の気があるという噂は今まで一切聞いたことがない。
噂の抹消や、口外しないように口止めをしているのか?
だとすればその方法は?
口止め金を払うか、もしくは―――殺すか。
どちらかだろう、噂を兵士達が消しに来たならば逆に事実なのではないかと人々は思うはずだ。
ふむ、やはり警戒した方がいいだろう、短剣でも持ち込むか?
おっと、思考に耽っていたら『ペンドラコン協会』の仮設所に付いてしまった。
本部の方は俺が焼却してしまったからな、本部があった場所にテントが張られておりそこが仮の本部になっている。
「フィル!」
「っビニシ………あふ!」
声をかけたら此方に気が付いてくれたが、持っていた大量の本ごと前のめりに倒れてしまった。
フィルはたまにだが抜けているところがある。
「フィルさん!」
「マスター!?」
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
あたふたと周りにいた職員の人達がフィルに駆け寄っている。
普段しっかりしている彼女がああいうミスをすると心配になる、俺だってそうだ。
「大丈夫か?」
「すまんビニシオ、少し焦ってしまったりなんかしたけどな!」
「…………本当に大丈夫か?」
「大丈夫じゃなかったりなんかしないことなんてないからな!!」
何を言っているか解読不能だ、フィル本人もかなり焦っている様子。
自分でも何を言っているか理解してないんじゃないか?
手を差し伸べたが見えていないのか机に手を掛けて自力で起き上がろうとしたがその手を滑らせてまた転びそうになった。
まぁ、俺が片手を掴んだから転ばせないが。
「うっじゃす!」
「ははっ!もはやそれ言葉じゃないな。
すまないけど、不調みたいだ、一端帰らせていいかな?」
「えぇ、マスターの仕事はとっくに終わってますしね」
「ありがとう」
「じゃあ、また明日ビニシオさん」
「あぁ」
顔を真っ赤にしてやはり状況が把握できていない様子のフィルを家まで送ることにした。
因にだがあの時、フィルから『生き残ったら結婚しよう』と言われてから早1ヶ月まともに口を利いていない。
普段フィルは協会のマスターとして働いていて既に忙しいのに街の復旧という仕事まで抱えている。
かくいう俺もペレックス伯爵の補佐らしきポジションに付いているためお互いにまともに話す時間がなかったと言えば無かった。
ただ顔を合わせるときはあったが避けられているような感じがした、恐らく意図的に顔を合わせても話さないようにしていたんだろう。
――
街の中心部から歩いて凡そ10分ほど、街の西側にフィルの家がある。
街の西側は殆ど被害がなかったためにフィルの家も被害がなかった。
合鍵を使って家の中に入り、客間にフィルを運び込みソファに寝かせる。
「フィル、ほらついたよ」
「……あぁ」
「……どれくらい寝てないんだ?」
フィルの顔をよく見てみる、化粧でごまかしており隈が見えないがかなり窶れている。
結構な日数を徹夜しているか、短い睡眠時かんで働き続けているに違いない。
フィルは仕事バカな所があるしな。
「少し疲れているだけだ、気にするな」
「さっきのあれは徹夜明けのテンションだったぞ?」
それに忙しかったのは忙しかったのだろうが、恐らく結婚の話で思うところがあったんだろう。
「フィル、結婚の話だが―――」
「―――分かっている」
ソファに寝たままフィルは顔を隠すように腕で顔を覆う。
月は既に高く上っており銀色の光が窓からさし込み部屋を照らしている。
その銀色の月の光で分かってしまった、フィルの頬の辺りで月明かりが何かに反射し、光っている、その何かとは―――。
――――フィルの涙だった。
「………分かって、いるんだ」
「な、何で―――」
「お前はエルザ嬢と結婚するんだろう?」
「はぃ?」
エルザ、エルザ・ペレックス。
ペレックスと言う名字でピンと来る人も多いだろう。
エルザ嬢はペレックス伯爵の娘だ、伯爵がこの街に呼ばれたため一緒にこのダルシアの街に来ている。
「大丈夫、私なら大丈夫だ、もともと貰い手なんか無かった女だからな」
「いい申し出じゃないか、ビニシオなら貴族としてもやっていけるさ」
「早くペレックス卿の所に行った方がいいんじゃないか?」
ポロポロと涙を流し、声を震わせながら矢継ぎ早に言葉を繰り出してくる。
いや、待て待て何で俺がペレックス伯爵に呼ばれていると知ってるんだ?
「何で………」
「さっきな、会いに行こうと思って行ったら聞いてしまったんだよ」
「でも、来いとしか言われてないぞ?」
「ペレックス伯爵もエルザ嬢もお前のことを気に入っている」
肩を震わせながら泣くのを我慢しているようにも見て取れる。
確かにエルザ嬢とは気が合うしよく話す、だが結婚などは考えたことはない、エルザ嬢もそうだろう。
「フィル」
「………」
「この間は先に言われたからな、今回はしっかり俺の口から言わせてくれ」
「………」
色々と考えてきたし、何を言うかも事細かに決めてきた筈なのだが、焦りすぎてか言葉が出てこない。
シンプルにいこう、自分の意思をフィルに伝えれば良いだけだ。
よし。
「俺と結婚してくれ」
「………へっ?」
「エルザ嬢とはそんな関係じゃない」
「…………」
「フィルの勘違いだ、もしそんな話が出ても俺もエルザ嬢も乗るようなことは無い」
「…………」
フィルが固まって一言も話さなくなってしまった。
「………返事は?」
少しだけ不安になってきてしまった。
どうしよう、言うだけ言ったがもし、フィルにその気が無かったら………。
もしかしたらエルザ嬢の話を出して俺との結婚の話を無しにしようとしていたら。
くそっ。
こんなに嫌な事が頭をよぎるようにしたのは誰だ?
―――クロノスだ、おのれよくも、以前の俺だったらフィルを一切疑わずにプロポーズできたはずだ。
「はいっ!」
「ぅおっ」
一瞬にして視界が塞がれ、鼻孔をくすぐるいい香りがする、フィルが抱きついてきたのだ。
抱きついてきた衝撃で俺は床に打ち付けられたがフィルは一切お構い無しだ。
「ビニシオ、ビニシオ!」
「ちょっ、きついからっ」
反射的なのか意図的なのか、首に関節が決まっていて息が苦しい。
「これから、宜しくお願いします、あなたっ」
◇◆◇◆◇
――クロノス視点――
「げっ」
「げっ、とは何だ」
ビニシオがフィルの家から出てきた所を待ち伏せし、早10時間ほど。
夜更けに家に入って朝明け方に家から出てきたことからプロポーズは成功しただろうし、多少いちゃいちゃにゃんにゃんしてきたんだろう。
「見て、たのか?」
「………あぁ、中々ねっとりした攻め方だったなぁビニシオ君?」
「そんなっ!気配は無かったのに!」
「気配を消すどころか肉体を消すことすら可能だ」
「んな馬鹿…………、お前だったらできそうだな」
まぁ、この肉体は元々俺のじゃないしな、消せる、と言うか消えると言うか、まぁ、どちらでもいいか。
「安心しろ、見てない」
「信用できん」
「ならするな」
「わかった」
どちらにしろ、フィルとビニシオが結ばれ、子を成すだろうと言うことは確定だ。
あれから一年半、俺の転生まで後498年5ヶ月と2日、周にすると25988.8571429。
漸く第一歩を踏み出せたといった所か。
長かったようで短いような、そんな感じがする。
「なあ、ビニシオ」
「何だよ」
「おめでとう」
「……………お前からそんな言葉が出るなんてな」
「―――――確かに、柄じゃないな」
朝日が昇ってきた、後498年間同じ朝日を見るんだろう。
―――――――後498年、頑張るか。




