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Henntaiは知る

 ――ビニシオ視点――


 魔王軍がダルシアの町に攻めてきた。

 あのクロノスが鬼気迫るような雰囲気で一方的に話を飛ばしてきた。

 まぁ、人の話を聞かないのはいつものことなんだが今回はふざけたような感じではなく、また話に余計なことが含まれていなかった為本気だったと解釈、推測できる。


 詰まり、だ。

 今この状況において俺が出来るのは、いや、やらなくてはならない役目は先程のクロノスとの短い会話の中から最大限の情報を引き出すこと。

 そしてこのダルシアの住民を安全な所まで避難させること。


 クロノスが時間を稼ぐといっていたが、相手は魔王軍だ、クロノスが“出来る”と言ったんだから恐らくそれなりの時間を稼いでくれるのだろうが長くは持つまい。

 いや、だがあのクロノスだ、魔王とそれに近しい魔人は止めてくれるはず。

 長くは持たないと言ったのは魔王軍全てを足止めすることだろう。

 彼は自分のことを過小評価するけらいがあるからな。


「クロノスは魔王“軍”と言っていたのだからそれなりの数がいるはず………、だが此方には影も形もない、ならばやはりクロノスがすべて止めているのか………?となると――――」

「ビニシオ?」

「急いだ方がいいな」

「は?」


 せっかくのデート、しかもプロポーズしようとしていた日に魔王軍が来るなんてなんというか、その、大分イラッと来るな。

 まあこれを乗り越えた先でプロポーズする方が燃えるシチュエーションだとか思っている俺もいるのだが。


「ビニシオ?さっきからぶつぶつ言ってどうしたんだ?」

「………、クロノスから連絡が入った、魔王軍が、この街に向かってきているみたいだ」

「なぁっ!?………い、いや、いつものおふざけではないのか?」

「珍しく、本気、だった」

「……………そうか」


 さて、こんな状況でも焦らずに客観的に物事を捉えられるのはクロノスの日頃のあの横暴な態度に鍛えられたのが原因だったら皮肉なものだ。


 とりあえず、今この場にフィルが居てくれたことには感謝するしかないだろう。

 この街の『ペンドラゴン協会』所長(マスター)である彼女がこの場にいるのは迅速な指示を出してもらうのにかなりのプラスになる。

 いきなり専門業者のトップに話がつけられるのだからこれ以上頼もしい人物はいない。


「クロノスが時間を稼ぐと言っていた」

「成る程、だが―――」

「あぁ、恐らく魔王と魔人は止めておいてくれるだろう、だが細かい魔物だとかはクロノスでもカバーし切れないと思う」

「なら、私の仕事は住民の避難とクロノスから逃れてきた魔物を街に入れさせないように、組員で防御網を張ることだな?」

「あぁ、出来れば国や他の街にも情報を跳ばして援軍を回して貰えるように交渉してくれ」

「わかった、お前はどうするんだ?」

「避難経路の確保と逃げ遅れた人が居ないか確認したあとで防御網に加わる」

「分かった」


 逃げ遅れるような人は老人や体の自由が効かないような人だ、この街にも何人か住んでいる、直接その場所に行けば時間は大分短くて済むだろう。


「ビニシオ」

「ん?」

「死ぬなよ?」

「魔物程度じゃ死なないさ、それに一応、セカンドランカー取れるだけの実力はあるしな」


 1年半の間にクロノスによる魔法の使い方や、剣術、格闘術など戦闘における訓練なども受けてきた。

 まぁ、あれは訓練と言うより人をいじめて喜ぶクロノスの趣味が全面的に押し出されていた地獄だったが。

 それでもあれのお陰で協会内で2番目に権限の強いセカンドランカーになれた。


「もし、私とお前、どちらも死ななかったら………」

「あ」

「結婚、しよう」


 しまった!

 先に言う筈が、フィルに先を越されてしまった!


「先に言うつも――――」

「で、では!私にはやることがあったりするのでな!行くぞ!いいな!?」

「あぁ、頑張って」

「あぁ!」


 言うだけ言って後で恥ずかしくなったのか顔を赤らめて足早に遠ざかって行ってしまった。

 まぁ、ここで結婚するしないで時間は取っていられない、勿論するのは確実で確定なのだが。


「―――キャアアァァァァァァ!!!」

「ま、魔物だ!」

「沢山いる!飛行型もだ!」


 早速お出ましのようだ、意外と早かったな、とりあえずあれが第一陣のようだ。

 対処するつもりだが武器がない、剣があれば最善だったのだが今は持ち合わせていない。

 無いものは無いで仕方がない、無い物ねだりしても出てこない。


 ―――――ならば作り出せばいい。


火魔剣(ファイア・アーツ)


 そう、魔法である。

 状況的には放出系の………例えば、そう、火球(ファイアボール)等が妥当。

 だがしかし何故か俺は放出系の魔法が苦手だ、飛距離は10メートルも飛んでくれないのでマナと集中力の無駄。

 逆に形態変化や身体強化系は得意だ、詰り取れる戦法は限られてくる。


「一撃で済ませたい場合は脊椎を、断つ!」


 ――――元々、魔物はどこにでもいるような普通の動物だった。

 動物が魔物に変化する理由は今のところ不明だが、クロノスが言うには特定の場所に貯まるマナがその場で繁殖している動物に世代ごとに影響を与えて動物を魔物に変化させる、だとか。

 もしくは上位生物に作り替えられるだとか、異常な濃度の場所にいた動物が突然変異しただとか、まぁ推測に過ぎないとも言っていた。


 あ、いや、話の論点がズレたな。

 何が言いたいかと言うと魔物も弱点は動物と同じ、少しずつダメージを与えていき、止めを指すか、心臓、または脊椎を断ち一撃で沈める。

 詰り、身体強化で運動能力を上げて、火魔剣で脊椎または心臓を焼ききるのが現状ではベスト。



「北に向かえ!精霊の丘だ!彼処は魔物が入ってこられない!」

「わ、分かった、ありがとう!」


 何故かは知らないが精霊の丘は魔物が侵入できないようになっている、クロノスでも原因はわからないそう。

 飛ばす指示を出すだけ出して返事を聞かずに次の標的に目を向ける、残るは後4体。


「ふっ!」


 赤い鶏のような魔物の首を焼き飛ばす。

 次いで空中を飛行している緑色の鷲を壁を蹴り上がり叩きおとして心臓を一突き。

 此方に向かってきた巨大な蟻をギリギリまで引きつけ、火球で焼き払う。

 動く植物が2体、もう1つ魔剣を作り出し、切りつける。

 植物系統は少し切りつけるだけで勝手に燃えてくれるので楽だ。


「う、おっとぉ!」


 後ろからブゥーンという羽音のような音が聞こえたのでとりあえずよけた。

 するとその音を発していたのは巨大なカブトムシだった、角を掴み、地面に叩きつけ、2本の魔剣で地面に縫いつける。


「ふぅ」


 とりあえず黙視できた魔物は全て狩り終えた。

 ここらで体の自由が効かない人は………、何人かいるな。

 よし、途中で『カラス武具店』がある、そこでいくつか武器を拝借しよう、緊急事態だ、嘉祢は後払いだな。



 ◇◆◇◆◇




 ――クロノス視点――



「く、っそ!」


 とんでもないやつが出てきた。

 見た目は中二病にかかった金髪の少年だが、循環法をフル回転させているにも関わらず片腕で俺の突進(チャージ)を受け止めて涼しい顔をしてる。


「あれれぇ?もしかして限界?」

「ふざけんなっ!」


 一旦距離を置き、再度攻撃を仕掛けるために更に回転を加速させていく。

 恐らく生身だったらとっくに死んでいてもおかしくはないだろうという程の熱気が俺を取り巻いている。


「ぉお、らぁ!」

「ワァ、凄い!まだ早くなるんだね!」


 楽しそうに笑う、ステータスを見るような余裕はない、循環法で手一杯、実は先程から突進しかしていないのは突進が現状では唯一出来る攻撃だからだ。


 だが先程から何度も循環法の限界ギリギリまで回転数を引き上げているのだが暫くすると限界値が引き上がって回転数がどんどん上がってきている。

 が、恐らく足りない、今のペースで3日も戦えば魔王(クロス)にも手賀届くだろう。

 だがそれは時間が無限にあったのならの話だ、恐らく後二時間程度で回復薬は尽き果て、俺はこの場から四散するだろう。


 だがそれではダメだ、クロス(やつ)の目的は知らないが、これだけの軍勢を引き連れてやって来ているのだ。

 今言えることは少ないが友好的な目的ではないのは確かであろう。


 ならばここでできるだけ足止めをする、あわよくば魔王軍(やつら)の戦力をそぎおとす。


「戦ってるときに考え事ぉ?余裕だねぇ!」

「お前如きに割く思考は全体の2割で十分なんだよっ!」

「いっ!」


 漸く少しだがまともに動けるようになった。

 ということは技が使える、仕掛けたのは飛び付き前三角絞めからの腕十字固め、詰まりは柔道の技だ。

 人形ということは骨格の構造も人間と似ている筈だ、間接技も当然決まるはず。

 少しだけでいい、力をためる時間と隙があればこいつに風穴を開けることができる。


「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!!!」

「いっぺん死んどけっ!」


 力が十分溜まったので地面をのたうち回る金髪の中二病野郎に叩き込む、いや、込んだ筈だった。

 が、打ち込んだ拳が捉えたのは地面だった、地面にクレーターを残した瞬間に金髪中二病はヤツの所へと移動したのが俺の目にはハッキリと写った。


「さっきのやつは庇わなくて良かったのか?」

「こいつは特別だ、息子だからな」

「成る程」


 今落ちついてステータスを見てみる。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 アレン・ガナンアービー(18)


 レベル86


 OP5100/5890


 MP1869/1869


 戦闘力3555(攻2500 防1000 立55)


 気力73



 ――――――――――――――――――――――――――――


 成る程、確かに名字がガノンアービーとなっている。

 が、クロスに比べれば赤子も同然のカスだ、今少しのやり取りで既に気絶しているらしく、クロスの座っている玉座にの下に転がっている。

 クロスは観察するような目付きでこちらを見ている、今のところ戦う意思はないようだ。

 なら循環法を解くべきか?

 無駄にマナを消費するのは得策ではないだろう、いや、だがもし解いた瞬間に回りのやつらが来た場合を考えると――――


「少しだが、話さないか?

 大分マナを消費しているな、回復するといい」

「な………」

「回りのやつらには手を出させない」


 嘘かもしれない、いやこの状況だ罠だと考えるのが妥当だ。

 だが、このままフル回転でにらみ合いをするのはリスクがありすぎるし、マナも持たない。

 仕方がない、循環法を解く、今まで感じていた体の熱が引いていき、髪も元の状態に戻った。


「死っ―――」


 魔物の1体が循環法を解いた瞬間に死ね、と叫びながら攻撃しようとして来たが――――潰れた。

 俺が対処しようとする前に潰れた、いや、空間ごと削り取られたような感じだった。


「ま、魔王様」

「仲間を………」

「なんてことを………」


 周りに参列している魔物から非難の声が上がってくる。

 が、クロスがそれを一蹴する。


「黙れ、俺は手を出すな、と言った筈だ」



 その一言のみで魔物達は喉元まででかかっていた言葉を飲みこみ、誰一人として音を発する者は居なくなった。

 暫くの静寂が耳に痛く、鳴く虫の声が静けさにより拍車をかけていた。

 回復薬を全て飲み干し、ポーチを投げ捨てる、ダルシアの街の住人の避難は完了したのか、ビニシオはフィルはどうなっているのか、途中で何体か魔物が街に行ってしまった、そいつらが原因で何か起きていないか。


 様々な思考が頭を駆け巡る、今までで一番頭の回転が早くなっている自信がある。


「今、お前を攻撃しようとしたやつを潰したのは、何か分かるよな」

「さあね」

「分かっている筈だぞ」


 魔王が使う魔法、それすなわち闇の魔法であるのは確定してる。

 つまり当たり前の話をしようとしている、目的は何だ?

 俺とクロスさ世間話をするような間柄ではない、ましてやこの状況だあり得る筈がない。


「闇の魔法の習得は誰にでも可能だ、分かるだろう?兄弟」

「素質を持っているだけだ、発動はできん」

「―――論点をズラすな」


 一言、軽く喋っただけだ。

 だがそれでも俺を萎縮させるに十分すぎるほどのプレッシャーがかかってきた。


「闇の魔法の習得条件は知ってるんだろう?」

「知らん」


 発動条件なら知っているが習得条件は知らない。

 確か魔王に近しい存在は全員が闇の魔法を行使すると本に書いてあった。

 幾つかの予想はたてているものの確証がないためなんとも言えない。


 だが何故今その話をするのか、まぁ、恐らく俺が闇の魔法の素質を持っているからだろうが。


「闇の魔法の習得条件は―――――」



 そして、クロスが悲しみを込めるように発した言葉は俺の予想外のものだった。



「――――実の母親を殺す事だ」






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