探索開始・1
【一、一年生の教室】
「なあ、亜依。やっぱり、なんかヤバいの?」
ドキドキしながら一年生の教室に入ると、黒板に計算問題が書いてあった。単純な加減乗除のみで、計算結果を入れるらしい手持ち金庫も教卓に置いてある。少しホッとした。
「いや、あの子おかしいでしょ? なんでいきなり、あたしたちの名前フルネームで呼べたと思う?」
「え? 俺たち招待客だし、集合時間に三人で現れたからじゃないの?」
「でも、顔知らないでしょ? 間違えたら失礼だもん、先に確認しないかな?」
「小学生だぞ? そんなことに気が回るかー?」
「あそこまで丁寧に敬語使って接客できる子だよ? 分かっててやったんだったら、かなり頭回るよ、あの子」
俺と亜依が議論している間に、祐紀が金庫を開け、ハサミをゲットした。一緒に入っていたメモに「二年生の教室へ」と書いてあった。
【二、二年生の教室】
「うーん……たしかに気持ち悪い感じはしたんだけど、ありえないわけでもないしな……」
「あたしはグレーに感じるけど、まだ疑わしきは罰せず、ってとこかな?」
今度は教卓に、クロスワードパズルが置いてあった。これも十センチ四方くらいの簡単なやつ。パズル好きな亜依が解いている間、今度は祐紀と議論している。
「そもそも、あたしたちを招待するあたり、いろいろ調べてると思うし」
「それもそうだな」
「やっぱり他の招待参加の人たちもさ、霊感ありとかオカルト好きとかばっかりだもん」
「よく分かったな」
「蛇の道は蛇」
「怖い」
「はい、次行くよー」
クロスワードの答えは「カビン」。亜依は窓際の花瓶から懐中電灯をゲットしてきた。メモは「図工室へ」。
【三、図工室】
入ってすぐの机に、画用紙が一枚置いてあった。その回りに、いろいろな画材が散乱している。
「何か描けっていうのか?」
「ヒント探そう」
亜依が画材を一つ一つ見ている。黒板には何も書いていない。メモらしきものもない。俺は片っ端から引き出しや扉を開けてみたが、変わったものは見つからなかった。
「祐紀も探してよー」
「うん……」
祐紀は真っ白な画用紙を手に取り、何度も裏表をひっくり返したり、透かして見たりしている。さらに両面を指先で交互になで、いきなり叫んだ。
「これだ!」
「何が!?」
「ここ、さわって!」
ざらざらした表面。指を滑らせていくと、感触が変わるところかある。何ヵ所かなぞって指の腹を見ると、うっすらとテカっている。
「……ロウか!」
授業を思い出した。ロウで下絵を描き、上から水彩絵の具を塗ると、水をはじいて絵が浮き上がる。
分かりやすいように濃い色で、と青を塗る。ハサミでヒモを切る絵が浮かんできた。棚の陰に不自然に張ってあったヒモを切ると、どこからか紙袋が落ちてきた。表面には「職員室へ」。中身は、アンパンマンの顔のボールだった。
「うわ、成にピッタリ!」
俺の小学校時代のあだ名はアンパン……悪意を感じる。姉妹はしばらく笑っていた。