警鐘
昇降口で受付をして、懐かしい校舎に踏み込む。なんと、校舎を丸々使ってやるようだ。ウォークラリーのようにポイントを回り、謎を解きアイテムを集め、非常口から脱出するというミッション。地図、バインダー、ペンなどが入ったエコバッグ(アイテム袋)を渡される。
「皆様、よい時間を」
「宝探しと脱出ゲーム……」
ボソッ、と祐紀が言った。
「ロールプレイングゲーム《RPG》のダンジョンみたいだな」
地図、つまり校舎の見取り図に一ヶ所、大きな星印がついている。一年生の教室だ。つまり、まずはここに向かえということだと解釈し、俺たちは歩き始めた。
「なあ、亜依……さっきの『しっかりして』って、なんかヤバいの……?」
「あー、ヤバいっていうか、ちょっとあ」
『ピンポンパンポーン』
「うひゃっ!?」
「ひっ」
「えっ」
俺、亜依、祐紀はそれぞれ声をあげた。
『本日はご来場、誠にありがとうございます。わたくし、ゲームマスターのサムと申します。これから簡単に、当おばけやしきの説明をさせていただきます』
いきなりの校内放送。予想もしていなかった展開に、三人とも足が止まる。
『最初に、設定について。当おばけやしきには、いわゆるおどかし役のおばけは配置しておりません。物陰から飛び出したり、大きな声を出すなどのイベントは一切ございません。安心してダンジョンを探索なさってください』
「えっ?」
「おばけ無しのおばけやしき?」
「ダンジョンって言った」
こんなとき、スピーカーをじっと見てしまうのは、なんでだろう。
『次に、クリア条件について。出口である非常口の鍵を発見し、全員揃って脱出すること。アイテムを全部揃えていなくてもかまいません。また、時間制限はございません』
「鍵を見つけたら、直行でいいってことだな?」
「全員揃って、が引っかかる」
「時間制限なしって怖い」
『最後にヘルプについて。行き詰まりには三回までヒントを差し上げます。入り口でお渡ししたアイテム袋に入っている携帯電話の、一番のボタンを押してください。わたくしと通話ができます。また、リタイアされる場合もこちらからご連絡ください』
「……」
「……」
「……」
落ち着いた口調で説明を続けるゲームマスター。おばけも出ないしクリア条件もシンプル、親切にヘルプもある。なのに、このじわじわと這い上がってくる恐怖は何だろう。
『また、照明やトイレなどの設備はご自由にご利用ください。それでは、またのちほど。皆様、よい時間を。ピンポンパンポーン』
「……ヤバい」
「……甘く見てたわ……」
「……早く出よう」
理由がどうとか、そういう話ではない。小さい頃から悩まされ、少しずつ飼い慣らしてきた俺たちの「霊感」が、何かの危険信号をキャッチした。それだけで十分だ。
「急ごう!」
俺たちは早足で、一年生の教室へ向かった。