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開幕

鏑矢成かぶらや じょう様】


【このたび、閉校記念イベントの一つとして、「おばけやしき」を開催することになりました。ぜひ、参加していただけますよう、ご案内申し上げます。】


【今回の企画は、子供たちの要望で実現致しました。季節外れとお思いでしょうが、お汲み取りいただければ幸いです。】




 年が明け、三月末の日曜日。俺たち三人は通学路を歩き、懐かしい母校に向かった。

「しっかし、ハンパな集合時間だよなー、十一時二十分って」

 どうやら、おばけやしきには一般参加と招待参加があるらしかった。一般参加は誰でも入れて、時間は閉校式が終わった午後から。俺たち招待参加は午前中。なんと、軽い昼食も出るらしい。


「子供たちが作ったおばけやしきって、どんなんだろうね? コンニャクがピターッ! とか? ひとだまのオモチャ、売ってるよね!」

 亜依は歩きながらずっと、内容を想像してしゃべり続けている。

「さすがに今どき、コンニャクはないだろ……」

 すると祐紀ゆうきが、わざとらしく低い声で言った。

「いや、意外と本格的かもよー? なんか『おばけやしきアドバイザー』とかついてるし」

「それねー。卒業生でイベント会社やってる人だっけ? なんか胡散臭うさんくさくなーいー?」


 俺が冬休みを終えて大学に戻った後、亜依と祐紀はあちこちつてを使って調べてくれたのだ。招待参加の人数や年齢構成、内容の一部とスタッフまで割り出していた。それどころか、資材の発注先、昼食のメニュー、終了後の打ち上げ会場まで把握している。おばけやしきよりも正直、こっちの方が怖い。


「宝探しとか脱出ゲームとか、他にもあるだろうにさー」

 亜依は、何度も同じことを繰り返す。おばけやしきが、とにかく不満なのだ。それは俺も、祐紀も同じだ。俺たち三人は、小さい頃から「リアルおばけ」に悩まされてきたのだから。おばけやしきは、遊びとして楽しめるイベントではない。

 懐かしい母校には入りたい、だが気は乗らない。万が一にも本物と遭遇したら面倒だ。招待状には、必ず三人揃って参加してほしいと書いてある。悩んだ末、二度とない記念の日だからと参加を決めたのだった。




「いらっしゃいませ!」

 校門から一歩内側に踏み込んだとたん、スタッフ腕章をつけた子供に丁寧に礼をされた。実行委員なのだろう。こんにちは、でいいかなと口を開きかけた瞬間、顔をあげた子供は笑顔で言った。


鏑矢成かぶらや じょう様、次郎丸亜依じろうまる あい様、次郎丸祐紀じろうまる ゆうき様。お待ちしておりました」


 なんとも言えない違和感。うっすらとまとわりつく気持ち悪さ。俺は、まじまじと子供の顔を見つめた。笑顔がかわいい、ごく普通の子供だ。


「どうぞこちらへ」

「ありがとう」

 亜依の大人の対応、という声色で我に返る。俺と祐紀の腰を軽く叩いて先頭に立った亜依が振り返り、唇をはっきり動かした。

(しっ か り し て)

 え、もしかしてヤバイのか? 俺は右手をジーンズのポケットに突っ込んだ。五年生の時から三人お揃いで持っている御守り袋を握りしめ、亜依の後を追いかけた。


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