招待状
「なあ、どうすんの? 行く?」
「うーん……気乗りはしないなあ……」
「でも、これ」
俺たち三人の手にはそれぞれ、白い封筒が握られている。招待状だ。
「三人セットなんだよね、迷惑なことに」
「迷惑って」
「あ、ごめん。でも迷惑じゃん?」
俺と亜依が話している間、祐紀は招待状の文面をじっと見つめている。心なしか、顔色が悪い気がする。
俺と亜依、祐紀は幼なじみ。俺と祐紀は同級生、亜依は一年上だ。あまり規模の大きくない小学校だったので、年齢差はほとんど意識しないで育った。まわりも皆、そうだ。
今日は大学の冬休みで帰省した俺に合わせて、相談がてら居酒屋に来ている。
「成、こういうの大丈夫なんだっけ?」
亜依が聞いてきたところで、飲み物が届いた。俺はグレープフルーツ酎ハイ、車を出してくれた祐紀がトマトジュース、亜依の前にはドン、と生ビール中ジョッキ。
「グレープフルーツ絞らせてー! それ好きー!」
あっという間に、亜依が俺の手からグレープフルーツと絞り皿を奪う。慣れた手つきで酎ハイを完成させ、俺に渡す。と同時に、ジョッキを振り上げて叫んだ。
「かんぱーーい!!」
「合わせようとくらいしろよ!」
とっくに中身を三分の一ほど流し込み、鼻の下の泡を手でぬぐう亜依のいつものマイペースぶりに、なぜかなごむ。酎ハイを味わいつつ、料理を選ぶ亜依を見ていた俺は、やはり違和感を感じていた。いつものにぎやかさが、半分足りない。
「祐紀、ほんとに飲まなくていいの? 代行代くらい出すよ?」
亜依が珍しく、姉らしいことを言っている。俺も言おうとしてたのに先を越された。
「そうだよ、二十歳になったから飲む! って張り切ってたのに」
「うん、今日はいいや」
「調子悪い?」
「大丈夫、お酒って気分じゃないだけだから。ほら、食べよ?」
最初に頼んでおいた分の料理が届いた。祐紀がサラダを取り分け始める。亜依は勝手にビールと料理を注文している。俺は手元の招待状を、あらためて見た。
【おばけやしきへのご招待】
【○○小学校児童会・おばけやしき実行委員会】
三月に統合で閉校になる母校からの、季節外れの招待状。懐かしさと、関わりたくない内容。行きたいけど、行きたくない。
「成ー? なくなるよー!」
祐紀の声で顔をあげると、亜依が俺の一口ステーキを持っていくところだった。
「あ、肉! 俺の肉!」
「ちゃんと代わりにシシャモ置いたよー」
「肉が食いたかったの! あーっ半分ないじゃん! いつの間に!?」
「祐紀も食べてたー」
「代わりに卵焼き置いたよー」
「だーかーらー……もう……」
いつもの風景だ。振り回されながらも、少し気が軽くなった。招待状は、とりあえずバッグにしまった。