第40話「能力者」
「あなたが、リューヤ・アルデベータ少佐か?」
アメリカからやって来た5人の部隊の長が聞いた。
「ええ。私がリューヤ・アルデベータです。あなたが、ジョージ・L・マッケンフィールド中佐でありますか?」
「敬語は略してもらって構わない。私の階級は、君の階級を聞いてからつけらられた便宜的な物でな。本来は中尉だ。・・・・負けず嫌いなのだよ我が国は・・・・・・・」
リューヤは苦笑いした。それを見てジョージ・L・マッケンフィールド言葉を続ける。
「作戦の指揮は君がとって欲しい。上からいろいろ言い含められているが、この作戦は世界の運命を決める重要な作戦だ。失敗は許されない。」
「ええ。」
リューヤが生返事をすると、小夜子が横から口を挟んだ。
「いえ、作戦指揮は中佐にとって頂いた方がよろしいかと思われます。リューヤ・アルデベータ少佐は、感情的というか、情動的といいますか、上に立って作戦を指揮する冷静な指揮官タイプとは異なります。」
小夜子は直情的な瞳でジョージの目を見詰めた。
「そうですね・・・・・・・俺は指揮官ってタイプじゃない・・・・・」
リューヤは正直に言った。
「君が、ミナヅキ・サヨコ少尉か。」
「は!であります。」
「リューヤ・アルデベータ少佐の護衛として、たいした成果を上げていると聞いている。」
「光栄であります。」
「我々のα能力部隊もそれなりの訓練をしてきた。君達の噂をいろいろ聞いて、そこから発展させての訓練もしてきた。自信はある。だが・・・・・実戦に勝る経験はないと私は思うのだ。」
「・・・・・・・・」
「君達は「ナンバーオブビースト」との実戦経験がある。そして、その内の一人を倒したと・・・・・・・」
「はい。偶然に近い決着でしたが・・・・・・」
リューヤが少し困ったように返事をする。
「それを押して、私に作戦指揮を取れと言うのかね・・・・・・・」
「それは・・・・・・・」
小夜子が押し黙る。
「まあ、いい。その事に関してはアレクシーナ女王と、私の上と話して見よう。その前に・・・・・・」
ジョージ・L・マッケンフィールドはそこで、一瞬口を止め、続けた。
「作戦までに短い時間しかないが、その経験を我々に伝えて欲しい。少しでも勝率を上げておきたいのだ。」
「分かりました。」
「リューヤ少佐に、ミナヅキ少尉、長旅で疲れているだろうが、一時間後に訓練に入りたい。」
『了解しました。』
リューヤと小夜子は同時に返事をした。
西城は個室に篭り、タバコを蒸かせていた。落ち着かない。核が投下された瞬間、確かに何かが壊れるような気配を感じた。薬を飲んでから、何かがおかしい。普通の人間が感じられないような物を前より深く感じれるようになっていた。暴力の世界に身をおいている。だから、相手の力量や、危険度という物を肌で感じ取れるという事は前からあった。そういう感覚が前より鋭くなっている。それだけではない。他の人間の動作が、先に見える・・・・・今の画像と違うのは分かっているのだが・・・・・・・そういう事が何度も起こっている。薬の後遺症が残っているせいかとも思ったが、どうやらそういう事ではないらしい。あれをきっかけに、どうやら自分の内部にある、α能力とかβ能力とかいう物が覚醒し始めたらしい。
確か、α能力もβ能力もどの人間にも眠っている「力」だと、リーンが言っていた。訳の分からない能力によって、自分が感じていた世界が壊れていく・・・・・・・・今まで自分が知っていた、分かっていたつもりでいた世界が、凄く狭い世界だった事がよく分かる。それが、酷く広い世界を認識出来るようになった。リューヤや小夜子、リーンや紫炎はこういう世界で生きていたのだ。それが、少し分かる気がした。だが、自分のいた世界はあくまで、昔感じていたあの世界だった。
その変調が自分でも分かる。
自分の世界がほんの少しずれた・・・・・・それがどうしたってんだ・・・・・・・・
西城はそう思ってタバコの火を消した。
自分はリューヤや紫炎の世界に巻き込まれたのだ。いや、自分から望んで巻き込まれていったのだ。その事自体に後悔はない。薬にしたところでそうだ。自分が飲まなければ、あるいは全滅していたかもしれない。それは、自分にとって許せる事ではなかったはずだ。今感じているような違和感など、あの時に薬を飲まなかったた場合の後悔に比べれば、どれ程の物でもない。
問題は、リューヤ達の作戦の間、アレクシーナ・クライを守る為に薬を飲むかどうかだった。本当はあの時全ての薬を飲んでいない。アレクシーナは一時的に覚醒する為の3倍の量の薬を渡してくれていた。万が一体質によって、効き目が薄い場合の為だった。
自分は、その時、一般量の薬を飲み覚醒した。残りの薬の一回分を、アレクシーナに返した。アレクシーナ様は二度と使わせないと言っていたし、いぶかしんだが、100%の効き目が欲しかったと言ってごまかした。自分は適応量の一回分を万が一に備えて隠している。それを使うべきかどうか、迷っていた。いや、考えていた。使う事は決心しているのだ。だが、使った後の後遺症はアレクシーナに当然知れる。危険な事態にならなければ、使わないですむ。それならば、それですむのだ。
だが、その薬を使わねばならない時が来る事を、西城は予感していた。ほんの少しだけ覚醒したα能力だかβ能力だか訳の分からない能力が、それを使う事態が来る事を告げていた。
肝を括らないとな・・・・・・・・・・
西城はそう自分に言って、再びタバコに火を点けた。