第10話「胎動」
「大変な事になったな・・・・・・」
TVを見ながら、リューヤは小夜子に言った。
「そうだな・・・・・・アレクシーナ・クライはかなり厳しい立場に立たされるだろうな・・・・・・・」
「β能力者達・・・・・悪魔憑きの連中による反乱なのか?」
「アレクシーナに会うか、紫炎に会うか・・・・・どちらにせよ、情報を確認した方がいいな・・・・・アレクシーナは私達に会うどころではないだろうから、紫炎にあたった方がいいだろう・・・・・・成り行きに注意しながら私達は、連中を狩る・・・・・そういう動きでいいとは思うがな・・・・・」
「なら、話は早い・・・・・この国にいる「悪魔」を狩ったら、日本に向かおう。」
「目標は捕捉してる。後は、人気のないとこに誘い出して「狩る」だけだ。」
「なら、急ごう。この問題、急いだ方がいい気がする。」
リューヤがそう言うと、小夜子は静かに頷いた。
「ラスアは、うまく働いてくれたな・・・・・・・」
ジョー・アルシュはほくそ笑み、机の上に片手を置いて窓の方を向いた。机の前には一人の男が方膝をつき、ジョー・アルシュの方を見ている。黒い喪服のようなスーツに身を包んだその男は、まるで皇帝に対するような畏敬の念を、ジョー・アルシュに向けていた。
「目の前にぶら下がった人参を追うのが、ケモノの性。彼に、自国の王の位と、新世界の王の位を約束し、オイルの権利をくれてやると言うと、飛びついて参りました。」
「あの程度の男に「王」が務まる訳もないのにな・・・・・・身の程を知らん男だ・・・・・・・」
「左様で・・・・・・」
「ラスアのように神輿に奉り上げ、利用して殺そう・・・・お前達は俺もそのようにしようとしているのだろ?」
「滅相もない。アレクシーナが我々を裏切った今、我々の望む「王」はあなた様しかいません・・・・・・・」
「最初からその予定だったはずだ。」
ジョー・アルシュは右腕の痣を見せた。その時の状態によって浮き上がるその「666」の痣は、今、クッキリと浮かんでいた。
「それは、「眺める者」の与えた印・・・・我々とは無関係でございます。」
「信じられんな・・・・・・・」
ジョー・アルシュは厳しい目を向けた。
「確かに、あなたの特別な「力」と「運命」を利用させて頂こうと思ってはおります。しかし、「眺める者」からも一定の力を借り、我々「干渉者」からも強い力を得れば、あなたはアレクシーナはもちろん、あのリューヤ・アルデベータすら凌ぐでしょう・・・・・・・その力で・・・・・権力の頂点にお立ちになりたいとは思われませんか?」
「ふふふ・・・・・・はーはっはは・・・・・・俺はこの世界も「眺める者」も・・・・・神も憎い・・・・・・神がいるなら、この世界は理不尽過ぎる。何故、ただの人間であったはずの・・・・・努力を積み重ねこの地位を手に入れただけのこの俺に666の「刻印」を押す・・・・・・これでは恨むな、憎むなと言う方が無理だ・・・・・・・・俺は・・・・・そいつらに一泡吹かせてやる。この世の最高の力を得られるならば俺は見てみたい、体験したい。そして、この愚かな滅び行く人類を・・・・・俺の「力」で立て直す・・・・・・お前らの思惑がどうであれ、お前らが力を貸すと言うなら借り受けよう・・・・・そしてお前らの望む最終戦争を引き起こそう・・・・・もちろん、私が「救世主」となってだがな・・・・・・真にこの世界を救うのはリューヤ・アルデベータでもアレクシーナ・クライでもない・・・・・・この俺ジョー・アルシュだ・・・・・・見ているがいい、神よ・・・・お前の計画は全てご破算にしてやる」
ジョー・アルシュはそう言って、再び高らかに笑った。




