第1話「始動」
「世界平和統一連合の発起と参加を呼びかける」
アレクシーナが海外に向けて発信した。
その骨子は簡単で明白な物だった。
・強国からの外圧による主権への侵害に対抗する事
・軍事力を統合し各国の軍事的負担を軽減する事
・軍事力によるあらゆる問題を解決する手法の放棄
・軍事力はあくまで主権の侵害に対する自衛の為にしか使わない
・経済的、軍事的相互協力
・各国の主権と違いを認め合い平和的かつ恒久的発展にお互いの国同士が協力し合う事。その協力は利己的であってはならない
・連合内部での決定は各国から選出された議員による話し合いの上、議会の投票によって決まる。(議員は様々な状況を合理的かつ明快にした分析により各国から数人選出される。詳細は別紙参照)
「こんな所でいいのだろうな・・・・・・」
アレクシーナは、執政室で座って紅茶を飲むリーン・サンドライトにそう言った。
「そうですね・・・・・この先、世界はアレクシーナ様の理想に傾きます。扱いを間違えると大変なのはアメリカと日本でしょうか?」
「そういう事になるな・・・・・私はアメリカという国も日本という国も嫌いではないが・・・・・力が強すぎるというのは困りものだ・・・・・・」
リーンはフッと微笑を浮かべる。
「お分かりでしょうが、現状でこの方針で行くのならば、アメリカや日本の協力はかかせません。」
「分っている・・・・・・・だが、あまり早い時期に参加されると我々の理念は実質無価値のものとなる・・・・・・・かといってアメリカや日本の敵勢力になるのは、本来の趣旨と違う・・・・・あくまで恒久的な平和と人類の発展が我々の目的だからな・・・・・・・・」
「アレクシーナ様は多少傲慢になられなければならないでしょう。」
「アメリカや日本のような強国を利用しろ・・・・・そういう事だな・・・・・」
「そうです。おいそれと利用されてくれる相手でもなく、またプライドも高い国ですから、簡単な話ではありませんが・・・・・・」
「何故、政治という物はこうも難しいのだろうな・・・・・・・・」
「権力という物が、やはり人間の弱さを巧みにつくように出来ているからとしか言い様がありません。」
「疑心暗鬼による腹の探り合いが外交というのは出来れば終わりにしたいものだ・・・・・・・・・」
「それは・・・・・・このシステムが完成しても変わらないと思います・・・・・・ただ、これがうまく行けば、人類は新たな段階に入るでしょう・・・・・」
「どちらにせよ、私は、お前を信じるしかない。」
リーンは二コリと笑う。
「アレクシーナ様、あなたは聡明な方です。私が例え何を言おうと、御自分で判断するだけの能力をお持ちです。β能力などに頼らざるを得ない私とアレクシーナ様はやはり、違うのです。」
アレクシーナも紅茶を啜る。
「リューヤやサイジョーを本当にあのシナリオに組み込んでいいのか・・・・・・私は悩む・・・・・・・」
「私にも判断出来ませんが・・・・・・細かい戦略や戦術はあの方にまかせて差し支えないと思います。」
「こうなってくると、私は只の神輿だな・・・・・・・・」
「人材を使いこなす・・・・それも立派な王の仕事です。あまりお気になさらぬように・・・・・・・・」
「私は人を利用するのが好きではない・・・・・・」
「目標が定まればそういう訳にはいきません、現状の世界では利用する気が無い者は利用されるだけです。政治の世界では尚更の事です。アレクシーナ様が利用する。アレクシーナ様が利用される。今は相互利用の時・・・・・そう考えるしかありません。いずれは違った世界になるかもしれませんが・・・・・・」
「そうだな、もう歯車を回し始めたのだ・・・・・・感傷的になりすぎるべきではない・・・・・・そう考えるしかあるまいな・・・・・ただ・・・・私はそれが罪である事を忘れようとは思わぬ・・・・・・」
リーンは再びニコリと笑う。
「だから、アレクシーナ様は使命を帯びたのです。最大の敵はリューヤ・アルデベータ・・・・・それをお忘れなきように・・・・・」
リーン・サンドライトは紅茶の入ったカップを再び口元にあてた。