6.もう1人の会計さん
「え…、僕何か言った…?」
真面目にあたしは聞いた。
あたしのその真面目な視線の先に、また必死に視線を堪えている壱夜先輩や縁先輩。
複雑な顔で、じーとあたしの事を千景先輩が見ていた。
「唯チャン、今千景の事なんて言った…?」
くくく、と壱夜先輩がずっと笑いを堪えている。
堪えるなら、何か言って普通に笑ってよ。
「ち…かげ先輩…?…あ…」
会計さん…?あたしったら何言ってるわけっ?
いつも、会計さんとしか思って無いから仕方が無いけど。
「あ…の、ごめんなさいっ。」
頭を下げる。まあ、一応だ。
後でどうとか言われても困るし…。
というよりも、思いっきり会計さん…じゃなくて…千景先輩が笑っている。
くすくすと。
「よかった。唯がそんな感じの人だと生徒会明るくなるね。」
へ…?何が、よかったって…?
ちょっと、話がズレてる様な…ズレて無い様な…。
「あ、唯チャン、自己紹介が遅れたね。
俺は、朔捺 縁。一応、千景と同じで生徒会会計。
千景は、喧嘩ばっかりしてるから、仕事が全部俺に来る…。」
「ちょっと…、それって酷くない?唯が居る所で…。」
ちょっちょっちょっ、千景先輩が縁先輩の事を上目遣いで見てるよ…。
わー、千景先輩の上目遣い…正面から見たい…。
「本当の事だしさ。
入学式の新入生代表の言葉って唯がやる事になってるらしいね。まあ、頑張りなよ。」
縁先輩が、あたしに向かって何か言っている。言っている。言っているぅ?
「ちょ、ちょっと新入生代表の言葉って…?」
ちら、と視線を壱夜先輩の方に持っていく。
壱夜先輩は、今思い出したかのように、あ、と声を上げた。
「ごめんごめん、言ってなかった?」
言うも何も、そんな話は初耳ですがっ。
しかも、あたしが代表で…?無理無理。
「聞いて無いです。」
「あー、壱夜酷いねー。」
会計…もとい、千景先輩が壱夜先輩を睨む。
「酷い、って。でも一応、今日聞いたし唯に会ったのは今日が初めてだしさ…。
さっき、校長の所言ってた時に言われた。」
「じゃあ、壱夜が書くべきじゃない…?
新入生代表の言葉を。それを、唯が読めば。」
千景先輩が、調子に乗っているように見えるのは気のせいですか…?
そ、それよりも千景先輩、先程の問題はどうなったのですか…?
と聞けずにいた自分が悲しいような…。
「はぁ、それも俺がやるの?まぁ、いいけど。
今からやらなきゃな…、あーマジで面倒。」
壱夜先輩は立ち上がり、机の上に元々あった白紙を一枚手に取る。
「縁、何書けばいいの?縁、1年の時やったよな?」
「あぁ、確か、やった記憶が。」
「どんな事、言った?」
壱夜先輩が縁先輩の目を真剣に見てる。
勿論、壱夜先輩の右手にはシャーペンが握られている。
「はぁ、自分でやるって言ったからには、自分でやりなよ。」