2.ルームメート+a
「もしかして、唯ちゃん…?」
知らない人に、名前を呼ばれた。
此処で、あたしの事を女の子のように呼ぶ人間は居ないはずだ。
勿論、今此処で下手に喋れば性別の事がバレる。
「イキナリ、ごめんね。俺、櫻木 壱夜。貼り紙見なかった?
今日から、君と俺が相部屋みたいだよ。
どうやら、新1年生と2年生が奇数みたいで、俺と君が同じ部屋になったみたい。
まあ、これから、ルームメイトとしてよろしくね。」
櫻木 壱夜先輩が、手を差し伸べてきたから、仕方が無く手をやる。
「香月 唯です。よろしくお願いします。
聞きたい事があるのですが、何故わかったのですか…?」
これは、普通、聞くだろう。聞かない方が可笑しい。
イキナリ、自分の名前を呼ばれたのだから。
「あ、空瑠ちゃんが教えてくれたんだ。
小さくて、可愛くて、光りの加減によると髪が赤っぽく見える子、って言われたんだ。」
空瑠ちゃん、というのはさっき居た管理人さんの事…かな。
…にしても、小さくて、可愛いは余計だよっ。
「そう…ですか。」
「あ、ごめんね。男の子なのに、可愛いって言っちゃって…」
全然、申し訳なさそうな感じがしないんですけど。
男の子…に見えるかな。
「じゃあさ、部屋に行こうか。」
壱夜先輩に、手を引っ張られエレベーターの中へと連れ込まれる。
エレベーターなんて、あったんだ。
そういえば、此処に入る時に何階建てか見て無いな。
エレベーターの中に入ると、壱夜先輩は6階のボタンを押した。
エレベーターのボタンを見てみると、どうやら6階まであるそうだ。
「君と俺の所は、6階だから覚えてね。」
チィン
という独特な音がして、6階で止まった。
エレベーターを出て、右側に行って突き当たりを左に行った所で、壱夜先輩が振り返った。
「覚えとか無いと、迷子になるよ。」
今までの道を思い出す。大した道のりでは無いのだが、何処も同じ造りでややこしい。
エレベーターから出て、右、真っ直ぐ、突き当たりを左、そして突き当たりから4つめの所で壱夜先輩が止まった。
「此処。どうぞ。」
と、壱夜先輩が扉を開けた。
中は、広く30畳くらいあって、テレビとパソコン、ソファが目立っていた。
その部屋、30畳だけでなく、他に扉が2つがあった。どうやら、そこは寝室になっていて6畳ずつあるらしい。
「初めに言っとくね。俺は、2年で生徒会長をやっている。此処の6階は生徒会の人間しか入る事が出来ないけど、
此処の俺の部屋を今年から、君も使うようになった。という事で、君にも生徒会に入ってもらうよ。」
壱夜先輩は、ソファに腰掛けながら言った。
ちょっ、ちょっと待って…、生徒会って…?
「生徒会って、何の話ですか?」
「俺のルームメイトになる対価、という感じかな。簡単に説明するよ。生徒会について。
まず、生徒会長・副生徒会長がいて、それを補佐する書記が1人ずつ。それと、会計が2人の計6人。
それで、生徒会長の補佐をする書記を君にやってもらいたいんだ。今年いっぱいね。」
「つまり、僕に生徒会に入って書記をしろと…?」
「まあ、そういう事だね。これからよろしく。あと、そこの部屋は勝手に使って良いから。
俺は今から5日後の君らの入学式の挨拶について、校長に話さないといけないから行くけど、此処にある物なら勝手に使って良いよ。
でも、俺が使ってる部屋はあまり弄らないでね。」
と言うと、部屋から出て行った。
此処に1人取り残され、どうしろ…と?
あたしは、仕方が無く壱夜先輩に言われた部屋に入った。
そこにはシングルサイズのベット・本棚・机・洋服箪笥があった。ご丁寧にクローゼットまでついていた。
とりあえず、持ってきた荷物を洋服箪笥とクローゼットの中に入れた。