「過労で倒れたら職場の無口な人に『結婚します?』と言われました。弟達も養うそうです」
掲載日:2026/03/18
私の人生なんて、無いようなものだった。
泣き止まない弟達。
止まらない督促状。
ゲーム機をねだる弟。
私は働いた。
働いて、働いて、働いて。
怒られて、諭されて、責任を押し付けられて。
そして――職場で倒れた。
目を覚ますと、見覚えのある顔が私を見下ろしていた。
同じ職場の、無口な人。
彼は少し困ったように言った。
「結婚します?」
「……え?」
「僕、結構いい家なんですよ。金なんて腐るほどありますし」
「え、じゃあ……弟達も、」
「もちろん。養いますよ。安心してください」
その言葉で、
私の人生は大きく変わることになる。
「……じゃあ、お願いします!」
言ってから、私ははっとした。
……え?
なんで?
私は慌てて彼を見る。
「いや、待ってください。なんで私と結婚なんですか?」
彼は少しだけ考えてから言った。
「……好きなので」
「いつからですか?」
「三年くらい前からです」
三年。
そんな前から。
私はしばらく黙ってから言った。
「……じゃあ、よろしくお願いします」
その日の夜。
家に帰ると、弟達が聞いてきた。
「ねえ姉ちゃん、その人お金持ち?」
「……らしいよ」
「やったー!」
私の人生なんて、
無いようなものだった。
――そう思っていた。
でもどうやら、
そうでもなかったらしい。




