シンギュラリティは起こるのか
汎用人工知能の爆破を防いでから三十分が経過した頃、都市警察の刑事と爆弾処理班が到着した。
爆弾が解体されるまでの間、手下たちはじっと大人しくしていた。そのままベルハラートと手下たちは装甲車両に乗せられ、連行されていった。当然の話だが、全員に死刑の判決が下るだろう。
その一部始終を見守った後、絶滅特殊部隊の隊員たちはヴォルテックスに乗り込み、本部に帰還しようとしていた。当然だが、AGIを活動期にするための八個の特殊な組み込み式内臓ストレージも全て母体から取り出して持ち帰った。
最悪の展開を見事に回避し、一件落着に導いたパルマンを隊長のボルファルトを除いた隊員全員が冷やかし半分に褒め称えた。だが、当の本人は浮かない顔をしていた。
「どうした? 事件解決の立役者がそんな顔では部隊の士気に関わるぞ」
ボルファルトが心配そうに声をかけてきた。
「すみません。ちょっと今回の事件について考え事をしていて――」
「何よ、考え事って? 教えなさいよ!」
アリシアが面白半分に茶々を入れる。
「いや、人類がこの世界の頂点にいられるのは果たして後どれくらいなのかなって思ったんだ」
「おい、ミイラ取りがミイラにでもなったんじゃないだろうな」
ミハエルは不審な顔で指摘する。
「そうじゃないが、機械の知能が人間の頭脳を優に超えているのは事実だ。今回の事件が起きなくても、いつの日か機械が人類を隷属する日が来るんじゃないかって思っただけさ。自分で自分の首を絞めていたことに気付いたときには、既に取り返しのつかない事態に陥らなければいいなって――」
ただでさえ、人間は機械の知能に依存し過ぎの部分がある。知らない間に機械に支配の座を取って代わられても気付かないのではないか。そんな危惧の念を抱かずにはいられなかった。
「悪いけど、あたしらもそこまでバカじゃないよ。しっかりと線引きをすれば、未然に防げる話じゃない。違う?」
「ああ、それはそうなんだけど――」
ヴァネッサの意見はもっともだ。それでも、パルマンは釈然としなかった。
「じゃあ、あんただけ原始時代に戻れば? 私たちはちゃんと機械と共存して生きていくから」
アリシアの言葉に何かを感じた。
人類が優位な立場ならば、共存と言えるだろう。それが自己過信による錯覚ではないことをただ祈るだけだ。
機械の知能なくしてはまともな生活すらままならないのは受け入れるべきだ。無論、それは今に始まったわけではない。
(では、これから先はどうなるのだろうか?)
現代を生きる人間には誰にも分かるはずもない未知の領域と言えた。
パルマンは外の風景に目を向けた。気が付けば、とっくに昼を過ぎていた。日は徐々に西に傾きつつあった。
自分の考えはどこか間違っているのか、と自問自答してみた。結局のところ、正しい回答は見出せなかった。ただ、他人任せにはできない話なのだけは心に刻みつけておく必要があった。




