全ては平和のために
(あともう一押しだ!)
これから言う言葉が全てを握っている気がした。おのずと力がこもる。
「そのスイッチを押せば、この巨大都市は間違いなく機能停止に陥るだろう。さっきあんたは超人化計画を支持する者が沢山いたと言っていたが、支持しなかった者たちも少なからずいたはずだ。その人たちの命までも奪うことになるんだぞ! それでも、あんたは悔いが残らずに死ねるのか? それでも、まだスイッチを押せるのか?」
「クッ!」
パルマンにとっては止めの一撃に他ならない。
言ってることは間違いなく正論だった。もしこれ以上反論するようなら、説得による解決は困難を極める。だが、ベルハラートは苦々しい顔でただ沈黙していた。
両手を上げた状態でパルマンはゆっくりとベルハラートのところに歩き出した。
「く、来るな! こ、これを――」
「あんたにはもうそのスイッチは押せない」
ベルハラートの言葉を制し、パルマンは断言した。距離を徐々に詰めていく。
それほど離れていないのに、とても長い距離を歩いているような錯覚すら覚えた。どうにかベルハラートの目の前まで歩み寄ると、パルマンは右手を差し出した。
「さぁ、それを渡してくれ」
まだ躊躇しているようだ。ただその目に先ほどまでの憎悪は帯びていない。
「さぁ!」
ベルハラートは根負けしたようにスイッチをパルマンの手のひらに乗せた。次いで、大声で号泣しながら力なく地面に崩れ落ちた。
パルマンは汗の滲んだ手でスイッチを掴み取ると、屈んで「ありがとう」とベルハラートの肩に手を置いた。
その瞬間、絶滅特殊部隊の他の隊員たちは一様に安堵の溜め息を漏らした。
「お前たちも両手を上げろ!」
即座に地面に置いたレーザー光線用の回転弾倉式機関銃を掴み取ると、ボルファルトがまだ事件は終わってないことを指し示した。
手下たちの中でこれ以上抵抗する者は一人もいなかった。すると、それぞれの銃器を持った他の隊員たちが駆け寄っていき、跪かせていく。
「よくやってくれた!」
ボルファルトはこちらに戻って来るパルマンに激励の言葉をかけた。
「ありがとうございます、隊長。それから、このスイッチを渡します」
全てをやり切った手応えを感じた。説得に成功した満ち足りた気持ちだった。ただ、それと同じくらい精神的な疲労感が全身にのしかかってきた。
あとは都市警察に連絡して、爆弾処理班に爆弾の解体をしてもらう必要があった。
(なんとか解決したな)
一時はどうなるかと思ったが、敵味方合わせて多大な犠牲者を出した今回の事件もようやく終焉を迎えつつあった。
思えば、これからの人類の未来について物凄く考えさせられる事件だった。
ベルハラートは断罪すべき極悪人だが、事件が明るみになれば、この男のAGIに対しての考え方と似た思いの人間も現れるかもしれない。そうなったときに、また同じ事件が起きないとは断言できない。これは肝に銘じておく必要があった。
それはさておき、パルマンは早く一息つきたかった。




