〝神〟など必要ない
さらに溜め込んだ鬱積を吐き出した。
「パルロデミオ家は偉大な〝神〟の義脳の設計にも携わった天才脳科学者の家系だ。それにも拘わらず、奴は人類こそが唯一無二の存在だと言わんばかりに生物学者となった。我が一族の恥さらし者になったのだ!」
「あんたはそんな父親を見返したかった。そこで、渾沌の女神エリスの神格化を思い立った?」
パルマンは試しに今回の同時多発襲撃事件に繋がる動機の深部を突いてみた。的の中心ではないにしても、外側には命中しているはずだ。
「いや、そうではない。私が憤慨したのは身の程を弁えない奴の計画を支持する愚か者どもが山のように現れたことだ。だから、〝神〟を目覚めさせることでそいつら全員に思い知らせてやる必要があったのだ! 人間などたかが知れた存在であることを!」
ベルハラートの言い分は大きく偏ってはいるが、全てがただの妄想による発言でもない。
現在では人工知能でさえ、人間の頭脳を凌ぐ勢いだ。それをも遥かに凌駕するAGIが自ら意思を持ち、独自の判断を下せるとしたら、それは神に最も近い存在と言っても過言ではない。
「あんたが何を言いたいのかは分かった。俺も目の当たりにしたが、AGIがその真価を発揮すれば、本当の神になり得るかもしれない」
「今さら気付いたところでもう遅いわ!」
「まだ俺の話は終わってない。あんたの父親が目指した道も理解できなくない」
「何だと!?」
この話題を続けても、ベルハラートをただのぼせ上らせるだけだ。別の角度から追い詰める必要があった。
「あんたには言うまでもない話だが、AGIの覚醒は人類にとって脅威でしかない。あんたの父親もその危機感を抱いたからこそ、人類の更なる進化という無謀とも思える夢を叶えたいと思い立ったんじゃないのか? 俺にはそう思えてならない」
「そのとおり! 人類の進化など無能な者がすることよ! 既に人間の頭脳では機械の知能に遠く及ばないのだ! だが、その事実を人類に知らしめる絶好の機会を失った。もはや生きる意味などない!」
突如危機的な展開となった。この流れは断ち切る必要がある。それでも、パルマンはここが落としどころだと思った。
「ベルハラート、あんたは本心から神という存在が必要だと思っているのか? 人類は今まで自分たちの力だけで生きてきた。これからもそれは変わらないと俺は思う。本当に進化するかどうかは分からないが、人類は誰かに指図されなくても自らの足で生きていける。この世界に〝神〟なんて存在は必要ないんだ! なぁ、あんただって心の奥底では同じ考えなんじゃないのか? 愛するお兄さんを実験体にした父親に対する歪んだ復讐心からこのような暴挙に駆り立てられた。実際はそうなんだろ?」
核心を突いた問いかけだった。
どんなに機械の知能が進化しても、人類は自分たちの力で生き続けることができる。何にも支配されることなく、ただ自分たちの思い描くままに――。
これはパルマンの率直な願望でもあった。
これまでAGIが休眠期の状態でも、何一つ問題もなかった。これから先も〝神〟の出る幕などないのだ。
「ガ、ガキの分際で偉そうにほざくな! お前などにこの思いが理解できるはずもないのだ!」
否定はしているが、確実にベルハラートの心を揺さぶっていた。




