誘拐予告
番号を確認したが、アドレス帳にはない番号だった。虫の知らせのような悪寒が全身に走るのを感じたパルマンはすぐに電話に出た。
「もしもし――」
『パルマン・エバーキースだな。俺はゴルティモアという者だ。いいか、これから言うことをよく聞け。今、お前の恋人のジュリアナ・リルフォーマは俺の傍にいる』
「何!?」
パルマンと同い年のジュリアナは普通の学生だ。しかも、貧しい市民たちを救うための慈善組織である世界民間保護団体に所属していた。
WCPOの主な目的は社会的弱者に手を差し伸べ、惜しみない支援をすることだ。状況次第では凶悪な犯罪組織と戦うこともある。二人はある事件で知り合い、深い付き合いにまで発展した。
突然の電話に身の毛のよだつ恐怖を感じた。だが、慄いてばかりもいられない。
『言いたいことはだいたい想像がつくだろうが、お前が我々から奪い取った物をこれから指定する場所まで持って来い』
「その前に、まずジュリアナの生の声を聞かせてくれ」
『……いいだろう』
パルマンの憤激を押し殺した要望に対して、ゴルティモアは勝ち誇るような声で答えてきた。
スマートフォンの向こう側で小さい声で「出ろ!」と命じる声が聞こえた直後、恋人の声が聞こえた。
『パルマンなの? 私だったら大丈夫だから、心配しないで! 何かは知らないけど、絶対にこんな奴らに渡しちゃダメよ! 私はあなたを信じてるわ!』
気丈な話し方はジュリアナ、いや、ジュリーらしかった。自分の身に命の危険が迫っている恐怖は感じているだろうが、それ以上に絶対に悪を許せない女性なのだ。
「ジュリー! 必ず助け出してやるから心配するな!」
パルマンの声がジュリアナの耳にまで届いたかどうかは分からない。その直後に「下れ」と言うゴルティモアの声が聞こえたからだ。
『パルマン、お前の望みは叶えてやった。次はこちらの番だ。お前があの家で手に入れた物をこれから一時間以内にベラルデルミオ地区にあるヒュリエント社の倉庫跡地まで一人で持って来い。お前が絶滅特殊部隊の隊員なのはとうに調べがついている。予め言っておくが、仲間を連れてきたら、この女の命はないと思え。分かったな?』
そこで電話は切れた。おそらく、《黄昏の粛清者》の手の者に違いない。
(やはり俺の素性は知られているようだな。どうやってジュリーの家の場所まで掴んだのかは分からないが、彼女を無事に救出するためにも、ここは俺一人で行くしかない)
ただ、現時点で後手に回っているパルマンが単独で動くのは危険な賭けだ。この特殊な組み込み式内臓ストレージを渡さずに恋人を助けられるか、一縷の不安が残らなくもない。
それに、こんな大事件が起きたのに本部に出向かなければ、隊長や他の隊員たちが不思議に思うはずだ。どうにかしてこの緊急的な状況を伝える必要があった。
パルマンは持っていたスマートフォンをスワイプすると、こういうときのために用意された特殊なアプリにパスコードを入力して起動させた。
絶滅特殊部隊の隊員のみに配布された《ヒエログリフ》という名前のメールアプリで、入力した文面を有能なクラッカーでさえも解読不能な暗号に変換して送信することができた。
パルマンは端的にまとめた文章を入力し、送信した。仮にパルマンの住むマンション付近で盗聴している秘密結社の手下がいても、スマートフォンから発信した暗号化されたメールまで探知できるとは思えなかった。
(いざというときに全力を出せるように何か口に入れとくべきだな)
動揺する気持ちを徐々に落ち着かせると、下着姿だったパルマンは自動調理機能を搭載した電子レンジで、ベーコンと生卵をのせた食パンが焼けるまでの間に服を着た。ついでに敵地と化した倉庫跡地に乗り込む準備も整えておく。
「さぁ、ジュリーを助けに行くぞ!」
電子レンジが鳴って、出来立てのベーコンエッグトーストを頬張ると、足早に玄関のドアを開けた。
駐車場に置いた愛用のエアストームに向かって。




