揺るぎない決意
パルマンたちが絶滅特殊部隊の本部に戻ると、受付のエリノアに呼び止められた。
「ボルファルト隊長があなただけ長官室に来てほしいそうよ」
時刻は正午をとっくに過ぎている。半日という約束の時間にはまだ早いが、どうやら長官の目的は終わったようだ。
昼食に買いに行くミハエルとアリシアに自分の分も頼みながら、パルマンは五階に向かった。
再び長官室まで来ると、ノックしてから「パルマンです」と告げた。
「入りたまえ」
すぐに長官だけが開けられる自動ドアを開いた。
室内は朝とほとんど変わらない光景が視界に入ってきた。違うところがあるとすれば、机の上に汎用人工知能を活動期にするための最後の切札である特殊な組み込み式内臓ストレージの入った銀製のケースが置かれている点だ。
「パルマン君、よく来てくれた。君からの預かり物を早々に返したくてね。さぁ、受け取ってくれたまえ」
「もういいんですか?」
ランドロスが何のためにこれを使ったのか、一向に説明がなかったのが気にかかった。
「ああ、それは君の持ち物だからね」
「あの、中身を確認してもいいですか?」
「もちろんだとも」
パルマンは銀製のケースを手に取り、スライドさせて中を検めた。見た感じではPUDは本物のように思える。
ランドロスが何を企んでいるのかについては見当もつかなかった。しかも、それを制服の内ポケットにしまおうとしたときだ。
「パルマン君、君にまた一つ提案がある」
追い討ちをかけるようにランドロスは口を開いた
「なんでしょうか?」
「この事件が一段落するまでの間、その最後の切札をこちらで預からせてはくれないかね?」
「長官!」
ボルファルトが苛立ちを露わにした。
「いいかね。今現在渾沌の女神エリスは我々人間の平和を維持するべく制御されている。言い換えれば、本来あるべき力を使えずにいるわけだ。それが《黄昏の粛清者》によって真の力に目覚めれば、我々人間に対してどういう行動に出るかは皆目見当がつかない。何しろ、相手は人間と同等以上の知能を持つのだからね」
そこで一度言葉を切った。事の重大さを考えさせるためだと理解できた。
「よく聞いてくれ。私はこの危惧の念が解消されない以上、AGIを絶対に活動期にさせてはならないと考えている。そのためにも、このPUDは安全な場所で厳重に保管したほうがいいだろう。どうだ? パルマン君はそうは思わないかね?」
パルマンは押し黙るしかなかった。
ランドロスの言い分は正しい。だが、ある考えが過った。
(じゃあ、どこで守ると言うんだ? 俺たちも都市警察も先の同時多発襲撃事件でさえ未然に防げなかったじゃないか。それに、《黄昏の粛清者》の魔の手から絶対に守れる安全な場所がこの巨大都市にあるだろうか? 答えはノーだ。例えどこに隠したとしても、いずれは奴らに見つかる。そうなったとき、この最後の切札を奪い取られない保証なんてどこにもない。それだったら――)
「長官、その申入れの件、謹んでお断りします」
パルマンは揺らぎない決意の下で言葉を口に出した。




