ジュリアナ動く
ジュリアナは二つのカーテンの端と端を固く結んで地面まで垂らすと、それを伝って自宅の庭先に降り立った。
この周辺を巡回する都市警察の装甲車両に見つからないように隣の家との垣根を飛び越えてから歩道に出る。それから、スマートフォンのアプリを使って、付近にいるタクシーを呼んだ。
「パパ、ママ、ゴメンね」
数分で目の前に停止した自動運転のタクシーに乗り込むと、世界民間保護団体のテンブルム支部に向かって発進した。
ジュリアナは一心に恋人であるパルマンの手助けがしたいと思った。もちろん、お荷物にはなりたくなかった。だから、唯一自分が頼れる場所に行くのだ。
絶滅特殊部隊が極めて優秀な組織なのは百も承知している。だが、ニュースでは失敗談しか報道されていなかった。そのことにも苛立ちを覚えた。
闇に暗躍する凶悪な犯罪集団とも戦った経験があるWCPOなら、何らかの手がかりになる情報が得られるかもしれない。その期待を裏切らないことを願うしかなかった。
パルマンに家まで送ってもらったとき、自分に何が起きてもこの事件に関わるようなことはしないでくれ、と忠告された。だが、それを守らず、真逆のことをしている。もし、この事が知られれば、一生許してくれないのではないか。そんな不安と必死に戦っていた。
「パルマン、あなたを心から愛してるわ!」
もう後戻りはできない。そう自分に言い聞かせるしかなかった。取りあえず、ジュリアナは支部長のブリオナ・エルドリッチにこれから行くことを先に伝えておこうと思った。
派手なデコレーションをあしらったスマートフォンから電話をかけると、まず受付の女性が出た。すぐに自分の名前を告げ、支部長と直接話がしたい旨を伝えた。確認のために少しの間待たされたが、どうにか繋がった。
『もしもし、ジュリーなの? 久しぶりね。確か、貧困区の弱者救済のとき以来じゃない?』
三十代後半ながら、声には若々しさが感じられる。
「お久しぶりです、ブリオナさん。実は今、タクシーでそちらに向かってるんです」
『こっちに? 何かあったの?』
心配そうに訊くブリオナに対して、ジュリアナは支部に行く理由を説明した。
『――なるほどね。要件は理解したわ。けど、うちは警察機構と違って、必要以上に凶悪犯と敵対しないのは知ってるでしょ? あなたの期待に副えるかどうか――』
「別に空振りでもいいんです。一応資料を調べる許可をくれませんか?」
『それは構わないわよ。資料室長にはあなたが行くことを言っておくわね』
「ありがとうございます! では、失礼します!」
そこで電話を切った。支部に着くまでの間ゆっくりしていようと思った。残る問題があるとすれば、この資料室長だった。
もう六十代ぐらいの初老の男なのだが、堅物の頑固者で有名だった。しかも、自分のことをあまりよく思ってない節がある。だからと言って、怖ず怖ずともしてられない。
「よし、頑張らなくっちゃ!」
ジュリアナは声を振り絞って気合いを入れた。何が何でもパルマンの役に立つ掘り出し物を見つけ出してやると心に誓いながら――。




