ギャングの親玉の逃亡
『嘘よ! そいつの名前はメンデロ・バルコバ。デランテとほぼ同時期に《ヴァイオレント・フィスト》に入ってるわ!』
分析官のベリンダからイヤホンに情報が流れてきた。
「ねぇ、メンデロ。本当に知らないの? 私たちはあんたのことならどんなことでも知ってるのにね。潔く白状しないと、痛い目を見るわよ!」
アリシアは凄みを利かせて食ってかかった。
名前が知られたメンデロは一瞬驚いた顔を見せたが、瞬時に監視カメラを睨みつけた。
「お前らがAGIを〝神〟だと心酔してるのはとっくに調べがついている。しかも、昔の仲間だった奴らが《黄昏の粛清者》に加担してるのも判明した。まだとぼけるつもりなら、お前ら全員をテロリストの共犯者として引っ張ってもいいんだぞ!」
このままだと一向に埒が明かないと感じ取ったパルマンは大口径のプラズマ銃をメンデロに向けて嘯いた。しかも、秘密結社とは言わずにテロリストと言葉を変えた。
言っていることはただのこけ脅しではない。かなり強硬な手段だが、絶滅特殊部隊の権限を行使すれば、不可能ではない荒業だ。
「良い案ね! テロリストの共犯となれば、一生刑務所から出られないわよ! ここから先はよく考えてから話すことね!」
アリシアもパルマンの言葉に乗っかった。どんな手段を使っても秘密結社の野望を打ち砕くための突破口を切り開く必要があった。
これ以上出まかせを言い続ければ、一生刑務所暮らしになるかもしれない。そんな恐怖感に襲われたメンデロは負けを認めた。その直後だった。
『大変よ! 監視カメラの電源を切られたわ! もしかしたら――』
ベリンダがみなまで言わなくても容易に理解できた。店の奥で一部始終を見ていた何者かが逃亡したのだ。
「追うぞ!」
パルマンは急いで店の奥に通じるドアに向かった。
「ここの奴らはどうする?」
ミハエルが訊いてきた。
「都市警察に任せろ! 逃げた奴のほうが捕まえる価値がある!」
言わずもがなな話だ。振り向かずに叫ぶパルマンの後を残りの二人も追った。
絶対に逃がすわけにはいかない。そんな切迫感が三人をせき立てた。
☆☆☆
もぬけの殻となった店内を監視する部屋を確認した後、パルマンたちは開け放たれたままの《ハンニバル》の店員専用の出入口から外に出た。逃げた奴らから一分ほど出遅れていた。
左右に抜ける細い裏道に怪しげな人影は見えない。ここは手分けして探すしかないと思った矢先だった。
『街にある監視カメラから逃走するマルケスタと思しき人物を見つけたわ! 仲間を一人だけ連れて、大通りに向かってる!』
分析官のベリンダからこれ以上ない救いの手が差し伸べられた。
(ここからなら右の道を行ったほうが早い!)
パルマンたちは焦燥感を滲ませながら全速力で駆け出した。このまま人通りの多い大通りに出られたら、自分たちが敗北を喫したのも同然だからだ。
数分もかからずに表通りに出たものの、それらしき人物は見かけなかった。
既にどこかに逃げられてしまった。パルマンの脳裏に不吉な考えが過った。




