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ブラッドサースティヴィーナス  作者: 檜鶯盈月
第2章 仕組まれた罠
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無法地帯

 絶滅特殊部隊(アナイレート・フォース)長官のランドロスは、ボルファルトと一緒に高級感のあるフォルムをした長官専用のエアヴィークルで貧困層のゴルトバルキア地区まで来ていた。犯罪件数の多さから無法地帯と呼ばれることもある。


 これでは「どうぞ襲ってください」と言わんばかりだ。ボルファルトとしては絶滅特殊部隊専用のエアヴィークルで行くべきだと提言したが、全く聞く耳を持たれなかった。反対に、重装備で行く必要はないと言うのを押し止められただけでも良いほうだ。


 何しろ《黄昏の粛清者(エピュラシオン)》の連中が喉から手が出るほど欲しがっている特殊な組み込み式内臓ストレージ――PUDを持っているのだから。


 自動運転のエアヴィークルは目的地として指定された建物の前で停止した。廃ビルと言ってもいいほど老朽化した高層ビルだ。


 周囲の様子を見た限り、何者かに尾行された形跡はなかった。


 車のドアを開けると、改めて危険がないか確認するために制服姿のボルファルトがまず外に出た。両手にレーザー光線式の回転弾倉式機関銃(ガトリングガン)を構えている。


「長官、今のところ異常なしです」

 ボルファルトの報告が終える前にランドロスが降りてきた。先ほどまでと同じ服装にロングコートを羽織った長官は高級な腕時計で時間を確かめた。


「長官、こんなところに何の用ですか?」

「ボルファルト君、それは君の知るべきことではないのだよ」


 ランドロスは警戒するボルファルトの肩に手を軽く置いた。

「ここら辺は無法地帯と大々的に呼ばれているが、私たちが敵意を示さない限り、相手も何もして来ない。彼らは自分たちの生活を守りたいだけなんだよ。この建物の住人もね。そもそも無法地帯と呼ばれ始めたのも、貧困区の管理に手を焼いた都市警察(シティーポリス)の連中が一般市民を安易に近寄らせないために流した(デマ)が発端なのだよ」

「とは言っても、危険な場所には違いはありません。この地区には犯罪者も多くいると聞いてますから」

「ああ、それもそうだな。だが、ここから先は私の支配領域(テリトリー)だ。戻ってくるまで、君はここで見張りでもしていてくれ。だいたい一、二時間ほどで終わるはずだ。じっと待ってるのが退屈だったら、車の中で休んでいても構わんよ」


 とても不満に満ちたボルファルトを尻目に、ランドロスは古びた自動ドアを開け、建物内に入っていった。


 薄汚れた窓から日の光が中を照らしているが、蛍光灯はちゃんと点いている。


 一階には幾つかの仕事場が設けられており、貧しそうな身なりをした人々が黙々と作業していた。ただ、異彩を放つランドロスを誰一人として敵視する者はいなかった。


 建物内が(すね)に傷のある者たちの巣窟になっているのは既に知っていた。


 貧困区の住人の大半は多少の軽犯罪に手を染めなければ、まともな生活を送ることすら困難なのだ。そこで、ランドロスは手を貸してもらう代わりに、ある程度の軽犯罪を犯しても目を(つぶ)ってきた。そういう場所はここ以外にも幾つかあった。


 絶滅特殊部隊の本分に抵触しかねない行為とも言えるのだが、ランドロスの考え方では善の範疇だと捉えていた。


 建物内ですれ違う、この男の恩恵を受けた違法者たちは一様に深々と頭を下げた。


 目的の場所はここではなかった。エレベーターホールまでやって来ると、上のボタンを押す。


 少ししてから自動ドアが開き、中に入ると、6のボタンを押した。


 一度も途中の階で停止することはなく、目的の階に到着した。

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