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ブラッドサースティヴィーナス  作者: 檜鶯盈月
第2章 仕組まれた罠
23/69

大した収穫なし

「いいわ。あなたの言葉を信じてあげる。それで、予め電話をもらったけど、知りたい情報は何年も前に倒産したヒュリエント社の最高責任者(CEO)と当時の幹部たち全員の行方についてだったわよね。世の中は《黄昏の粛清者(エピュラシオン)》という謎の秘密結社の話題で持ち切りなのに、何で今さらヒュリエント社なんかを調べてるの?」

「秘密結社だったら、既にパルマンたちが調べ始めてるぜ」

「なるほど。パルマンの坊やがね。彼、大層な物を手に入れたって話じゃない?」

 レヴィオラは意味深に訊いてきた。マスメディアでさえも入手困難な情報を手に入れるのが盗諜屋だ。


「話を聞きに来ているのはこっちだぞ」

「そうだったわね。悪かったわ」

 露骨に仏頂面をするロマーディオに軽率さを詫びると、レヴィオラは机の抽斗(ひきだし)からメモリーチップを一つ取り出した。


「このメモリに倒産直前まで幹部だった人間全員の現在の住所、新たな職場、年収、家庭環境などの情報が詰め込んであるわ」

「幹部だけ? CEOについての情報はないの?」

 ヴァネッサが当然の指摘をした。


「それなんだけど。当時のCEOだったナタニエル・オルディスはヒュリエント社が破産する少し前から一家全員失踪してるのよ。様々な情報が錯綜してるけど、どれが真実なのかは今のところは不明なの。都市警察(シティーポリス)の捜査では事件性もあり得るという判断を下してるわ。私は失踪よりも、何者かに連れ去られたって睨んでるけどね」

「なんでそう思う? 住んでいた家には失踪に関係する証拠はなかったのか?」

「なかったわ。だから、自宅ではない別の場所で(さら)われた線が濃厚ね。ただ、それ以上有力な情報は得られてないのよ」

 ヴァネッサのいる前で、レヴィオラは嘘をつくはずがない。ある意味大きな収穫ではあるのだが、盗諜屋が入手できないのに自分たちに何か打つ策は考えられなかった。


「なんてこった。後はうちの分析官(アナリスト)(すが)るしかねぇのか」

 ロマーディオは、ヴァネッサに同意を求めた。

「何かナタニエルの足取りを掴める手がかりが見つかるといいけどね」

 秘密結社はヒュリエント社の製造した殺戮機兵(カルネージ)をどうにかして入手した。レヴィオラの言う誘拐説も捨て切れないが、失踪したと思わせるために偽装工作をしたとも考えられる。この男なら、簡単に殺戮機兵を手に入れられる立場にいたからだ。


 一つの仮説として、秘密結社の黒幕がずっと行方を(くら)ませているナタニエルの可能性が浮上した。主な動機は自社を倒産にまで追い込んだ世論に対する復讐と言ったところか。


「レヴィオラ、今回の情報料だ。一万リブラだったな」

 ロマーディオは濃い赤紫色(ワインレッド)のレザートレンチコートの内ポケットから出所不明で用途自由のマネーカードを取り出し、デスクに置いた。


 リブラは現在世界各国で共通に使える通貨だ。その価値は昔の米ドルと同じぐらいと言えた。


「今回は完璧に依頼を遂行できなかったから、全額は受け取れないわ。三十パーセントを返すわね」

 レヴィオラはある装置にマネーカードを差し込み、幾つかのボタンを慣れた手つきでいじり始めた。再びマネーカードを取り出すと、ロマーディオに返した。


「じゃあ、また頼むな!」

 ロマーディオはそれを受け取り、ヴァネッサと一緒に部屋を後にした。

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