盗諜屋メーティス
正午より少し前に絶滅特殊部隊隊員のロマーディオ・ザガロとヴァネッサ・ベラルージュはバスタベリオス地区に来ていた。数年前から懇意な間柄にある《メーティス》という名前の盗諜屋に向かって――。
季節は冬の到来を迎えようとしていた。周囲の人々は厚手の服を着ている。
周囲は華やかな繁華街や楽しそうな娯楽街が所狭しに広がっている。その深淵部にあるのが不夜城と呼ばれる歓楽街だ。
夜遅くなると、未成年の不良たちが年齢を偽ってナイトクラブやディスコへ入って行く姿が絶え間なく目に入る。世の中の裏事情を何も知らない気の毒な者たちだと憐れみを覚えた。
興味本位で酒を飲み、気の向くままに踊るだけで済めばいい。だが、無法者たちの経営する質の悪い店だと強引に麻薬を買わされたり、世の中の恐ろしさを知らない少女たちは無理やり売春宿に売り飛ばされたりと嫌な噂をよく耳にする。
まだ営業をしていない歓楽街に二人は私服姿のまま足を踏み入れた。それには二つの理由がある。
一つは自分たちが絶滅特殊部隊の隊員だと知られないために。もう一つはこれから行く先が盗諜屋だと分からないために。
並んで歩く二十歳のロマーディオと十九歳のヴァネッサは、傍からは仲睦まじい恋人同士に見えなくもない。それは周囲の人間が二人に無関心なだけで、どう見たってそうじゃないのは明白だ。
ロマーディオとヴァネッサは手を繋いでもいなければ、腕組みもしていない。何か楽しげな会話をしている様子すらなかった。
道なりに歩き続けること十分ほど。ようやくポールダンズバーに偽装した《メーティス》に到着した。経営陣以外はここが盗諜屋であることを知らない。
まだ営業時間外だが、店の自動ドアは作動していた。
ロマーディオたちは堂々と店の中に入った。二人が来るのを知っている盗諜屋の人間が監視カメラで見守っているはずだ。
店内は数台の清掃用の人工知能搭載ロボットだけが静かに動いていた。
ダンサーが下着のような姿で妖艶に踊るポールの立ったステージを横切りながら、奥にある関係者以外立ち入り禁止のドアを開けた。ここも施錠されていない。
まだ今の時間帯では従業員やダンサーたちの更衣室や休憩室に人の気配はなく、当然ながら明かりも点いていない。それでも、この暗がりの中で経営者の部屋に通じる頑丈そうなドアの両脇には巨漢のロマーディオ並みに背が高くて頑強な体つきの警護役たちが立っていた。




