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ブラッドサースティヴィーナス  作者: 檜鶯盈月
第2章 仕組まれた罠
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ストリートギャング

 パルマンが指令室に入ると、ミハエルとアリシアが待っていた。


 絶滅特殊部隊(アナイレート・フォース)隊員(メンバー)は隊長のボルファルトも含めてたったの六人しかいない。それにしては指令室は広すぎた。


「お、やっとお出ましか。同時多発襲撃事件に巻き込まれたって話は耳にしていたが、お前にとっては災難以外の何物でもないな」

 ミハエルはから同情するように声をかけてきた。


「だが、余計な心配はするな。そのために僕とアリシアがいるんだからな。何でも頼れ」

「悪いな。俺もお荷物にならないように精一杯努力するつもりだ」

「水臭いことを言うのは止めてよね。私たちは命を預け合った同期の仲間でしょ?」

 アリシアも(なぐさ)めの言葉を口にした。


「まぁ、ここでしんみりしてても何も解決はしないしな。残りの二人は何か新しい情報を得るために《メーティス》に向かったよ。隊長から話は聞いてると思うが、僕らはお前が始末した連中のここ最近の動向を分析官(アナリスト)たちと協力して探れと言われた」


「その件なんだが、俺はその男の情報は何も知らされてない。分かる範囲で教えてくれ」

「今、画面に顔写真を出す」

 ミハエルが手元の制御盤(コンソール)を慣れた手つきで操作した。すると、前方の何も映っていない巨大画面の一画にふてぶてしい男の顔写真が表示された。写真の真下に名前が、右側に罪歴が表示される。


 その顔写真を目にしたパルマンは思わず息を呑んだ。右の頬に大きくZの文字のタトゥーが入った顔を見間違えるはずもない。


「男の名前はデランテ・オルグレン。未成年の頃から《ヴァイオレント・フィスト》っていうストリートギャングに仲間入りし、暴行事件で去年まで刑務所にいたみたいね。知ってるとは思うけど、このギャングは渾沌(こんとん)の女神エリスこそ〝神〟だと公言して(はばか)らないクレイジーな集団よ。あとは例の秘密結社との繋がりだけね」

 アリシアはいかにも興味ありげに口を開いた。


 パルマンも、このストリートギャングの大まかな情報なら把握していた。歓楽街が密集するバスタベリオス地区で幅を利かせている一派だ。


「そんなの至って簡単だろ。こいつらは銃器や麻薬(ドラッグ)の密売や横流しをやってたって話だ。例の秘密結社の信念とも一致してるし、資金を集めるために目を付けられたに決まってる」

 ミハエルがこれ以外にないと言わんばかりに考察を披露した。


「まぁ、シンプル過ぎてつまらないけど、それが妥当よね。パルマン、あなたはどう思う?」

「出所したデランテはまたギャングに戻ったのか?」

「それなんだけど、刑務所を出た直後に姿を(くら)ませたみたい」

 アリシアは否定したものの、漠然としていた。


 再びギャングに戻らなかったのには何か深い理由があったはずだ。それから、相当な決断をしたことだろう。無論、ミハエルの話も無視はできない。


「そうだな。果たして《黄昏の粛清者(エピュラシオン)》はギャングなんかを頼みにするほど金に困っていたかどうかだな。それより、幾らでも戦闘員はほしいはずだ。そこで、この男は思想を同じくする秘密結社の一員になりたくて、ギャングそのものを連中に売ったっていうのはどうだろう?」

「なるほどね。秘密結社は水面下でこの機会を(うかが)ってたはずよ。それとは真逆の大っぴらに活動するギャングに近づくのは目立つし、危険も伴うわね」

 アリシアは一応納得したようだ。


「言われてみれば、同時多発襲撃事件を起こすのに必要な資金を一介のストリートギャングが(まかな)えるはずもないか。パルマン、お前の推察が的を射てるのなら、秘密結社は会員以外にもかなりの数の戦闘員を難なく手に入れたわけだ。そうなると、さっきの僕の安易な推論は撤回すべきだな。とは言え、ここからは分析官の同席を希望する」

「もちろんだ。俺たちだけでは一向に憶測の域を出そうにないからな。分析官なら、もう少し的確な情報を持っているはずだ」

 パルマンの言葉に残りの二人は相槌を打った。それから、情報解析室と回線を繋ぎ、要件を伝えた。


 すると、担当の分析官の映像が巨大画面に表示された。


 歳は二十代後半ぐらい。オシャレな眼鏡をかけ、しっかりとした顔立ちの黒人女性だ。


「こんにちは、皆さん。私はベリンダ・マルチネス。長官のほうからあなたたちの後方支援をするように指令を受けているわ。よろしくね!」

 ベリンダはとても好感の持てる話し方で挨拶をした。パルマンたちも親しみを込めて返事を返すと、今までの間に導き出した二つの組織の関係性について話した。


「へぇ、なかなか興味深い話ね。予め伝えておこうと思ってたんだけど、あなたたちが殺した手下たちの中にはデランテ以外にもこのギャングの人間がいたわ。今写真を出すわね」


 デランテの顔写真の真下にこの男とほぼ同年代の卑劣な顔つきの写真が表示された。

「男の名前はサイラス・ドルトリオ。理由は分からないけど、デランテよりも立場は下だったようね。この二人の関係性は不明だけど、秘密結社とこのギャングとの間に何らかの繋がりがあったのは濃厚と見ていいわね」

「だったら、僕らのやるべきことはとても簡単だ。さっさとこいつらの根城に乗り込み、口を割らせる。確か、酒場だったよな?」


「少し待ってね」

 ベリンダは体を少し左に向けて自分のパソコンで調べ始めた。


「えーと、大通りから少し離れた場所にある《ハンニバル》って名前の酒場ね。店の中に入るときにはちゃんとイヤホンマイクを付けといてね。私は店の監視カメラを乗っ取って、あなたたちをフォローするから」

「ありがとう、ベリンダ! 絶対に秘密結社に結び付く手がかりを掴むわよ! どんな手段を使ってでもね!」

 やる気を燃え(たぎ)らせるアリシアの言葉に全員が発奮した。その勢いのまま、パルマンたちもバスタベリオス地区に向かうことにした。

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