囮になる決意
「ボルファルト君、君には既に話したが、《黄昏の粛清者》はとても巧妙に作戦を練った上で今回の八つの襲撃を行っている。無論、こちらもやられてばかりではない。都市警察が送ってきたガリエラ宅でパルマン君が始末した敵の写真を分析官が調べたところ、一人だけ前科者がいたことが判明した。現在その男の行動履歴を隈なく洗っている最中だ。それから、全て廃棄処分にされたはずの殺戮機兵が未だに存在している話も先ほど聞いた。ヒュリエント社は既に倒産したが、最高責任者や幹部も含めて元社員が今回の事件に関与してないか、追及していくつもりだ」
そこで、長官は一度言葉を切った。
「ただ、今話した内容を全て暴き出すには相当な時間がかかるのも事実だ。そこで、私はある秘策を思いついた。それを実行するにはどうしてもこれが必要なのだ。分かってくれたまえ」
また沈黙の間が訪れた。三人とも思考する先の結論は同じだと思いたかった。
「どうだね? パルマン君。この私を信じてもらえないだろうか? その代わり、これを返すまでの間は常にボルファルト君を同行させよう」
正直パルマンは、ランドロスがどういう人間なのかを詳しくは知らない。それだけに不安が全くないとは言えなかった。だが、隊長が信頼に足る人なのは周知の上だ。
「分かりました。半日だけお預けします」
もはや選択肢はなかった。
「すまないね、パルマン君。帰る頃までには必ず君に返すと約束するよ」
ここでの話は終わった。誰も言わなくても明白だった。
「では、失礼します」
パルマンは一礼すると、長官室を出た。唐突な展開に手持無沙汰なのは否めない。
一度ドアは閉まったと思ったら再び開き、ボルファルトが出て来た。
「ちょっとお前に話がある」
ドアが閉まるのを確認してから、隊長は口を開いた。
「何も手助けできなくてすまない。だが、長官のことは俺に任せてくれ。秘策とはどういったものなのか、こっそりと探ってみるつもりだ。どんなことがあっても、あの内臓ストレージは必ずお前に返すからな」
「大丈夫です。隊長のことは信頼してますから」
戸惑ってないと言えば噓になるが、言っていることは紛れもない事実だ。
あのPUDは、ガリエラが自分を信じて託してくれたものだ。確かに、最良の手段とは言えないものの、自分の手で守り抜きたいという気持ちがあった。
「それでなんだが、便宜上他の隊員たちにはお前があれを所持していることにしておいてくれないか。同期のミハエルとアリシアにはお前が狙われたときに備えて、護衛役を頼むと伝えておいた。ロマーディオとヴァネッサは例の盗諜屋に向かわせた。うちの分析官では得られない情報を持っているかもしれないからな」
盗諜屋とは集団で活動する組織的な情報屋のことだ。
単独では入手が困難でも、集団なら得られる確率が何十倍にも跳ね上がる。
絶滅特殊部隊と繋がりがあるのは《メーティス》という名前の盗諜屋だ。
「それと、お前の恋人の自宅付近を都市警察の装甲車両数台が警護している。同じ手段を二度使うとも思えないが、用心に越したことはないからな」
「すみません。お心遣いに感謝します」
「残るはお前だ。今や敵は血眼になって襲ってくるだろう」
まさにボルファルトの言うとおりだ。このまま本部に居続ければ、間違いなく相手はここを襲撃してくるに違いない。そうなれば、甚大な被害が出るのは目に見えていた。
(ここは俺が囮になるしかないな)
「隊長、俺に何か任務をください! ミハエルとアリシアがいれば、何とか乗り切れます!」
「そう言ってくれると思っていた。長官から話があったように、お前が殺した謎の秘密結社の手下たちの中に前科者がいてな。お前は分析官と協力して、その男が《黄昏の粛清者》に入るまでの足取りを追ってくれ。詳しい話はミハエルたちに伝えてある」
「分かりました。じゃあ、俺は二人がいる指令室に向かいます」
一礼したパルマンは来た道を戻り、三階に向かった。
敵の標的になる覚悟はとっくにできていた。後はなるようになるものだと腹を括った。
(全てはこの事件を早く解決するためだ! それから――)
ジュリアナとの関係を両親にもう一度許可してもらう。そのためにも、自分にできることは何でもやろうと思った。
冷静な自分らしくない無謀な賭けに身を投じるのに後悔は微塵もなかった。




