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ブラッドサースティヴィーナス  作者: 檜鶯盈月
第1章 人質救出作戦
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次なるカード

 中世ヨーロッパの建築様式を彷彿とさせる広々とした部屋で、《黄昏の粛清者(エピュラシオン)》の創始者は立っていた。


 地下なので窓はない。ただ、机や椅子、棚などの調度品は上質でどれも気品があり、とても奥ゆかしさを漂わせている。


 汎用人工知能(AGI)を〝神〟と心酔する者たちのアジトの一室とは思えない広間で、創始者の男はある報告に苛立ちを露骨に剥き出しにした。


「ゴルティモアが()られただと!? では、例の物は手に入れられなかったのか?」

「はい。ゴルティモアだけでなく、殺戮機兵もほとんどが破壊されたとのことです」

「殺力機兵などどうでもいい! それより、あいつは何故〝あれ〟を使わなかったのだ!」

 創始者の男は物凄く激昂した。人質を取ってまで用意周到に準備したにも拘わらず、最後のPUDの奪取失敗に憤激しているようだ。


 本来なら前夜の一斉襲撃で創始者の男の野望は成就したはずだった。それを妨げた例の男にまたしてやられては腹の虫も収まらない。


「それが手下の話だと不意を突かれたみたいです。しかも、どういうわけか奴の味方も現れたようで……」

「味方!? そいつらも絶滅特殊部隊に属する者なのか?」

「はい、仰せのとおりです」

「パルマンとか言ったな。そいつはまだ子供だと聞いている。ゴルティモアに抜かりがあったのではないのか?」

 創始者の男は疑念をぶつけた。


「さぁ、どうでしょう。そいつのマンションを見張っていた者たちの話では、何者かに連絡を取った形跡はないと言っておりますが――」

「フン、下っ端たちの話など信じられるものか!」

 先ほどから事後説明する男の弁解の言葉など鼻にもかけなかった。


「フレデリクスよ、お前に十人の手下と八機の殺戮機兵を与える。何が何でも最後のPUDを奪ってくるのだ!」

「――!? それは街中で襲撃しろということですか?」

 ずっと同輩の弁明に徹していた男――フレデリクス・エルフェスコは突然の任命に戸惑いを見せた。


「弱点を突いても、奪い取れなかったではないか! 手段は問わん! お前のやりたいようにやれ!」

 創始者の男は最後のPUDの奪取計画の全指揮権をフレデリクスに一任した。ただ、最後にあの一言は忘れなかった。

「奴らと戦うときは絶対に〝あれ〟を使うんだ! 分かったな!」

「ハッ! あなた様の仰せのままに!」

 フレデリクスは深々と頭を下げながら、選ばれた者しか入ることのできないその部屋を退出した。


 この任務が成功しなければ、二度とここには戻って来られないのを胸に刻みつけながら。


☆☆☆


 パルマンは愛用のエアストームに乗って、絶滅特殊部隊(アナイレート・フォース)の本部があるエルデンバルト地区に来ていた。この地区は、汎用人工知能(AGI)が統括・管理する巨大都市(メガシティー)テンブルムの行政補佐を担う建物が密集した都市の心臓部とも言える地区だ。


 事後報告になるが、渾沌(こんとん)の女神エリスを活動期(プロシード)にするために必要不可欠な特殊な組み込み式内臓ストレージの一個を手に入れた経緯を隊長に報告する必要があった。


 恋人のジュリアナを両親の元に届けたパルマンの心境は暗かった。


 彼女の両親はパルマンとの交際を快く思っていなかった。それが今回の誘拐事件が火に油を注いだ。今回の事件が無事に解決するまでの間は、二人きりで会うのを禁じられた。


 これにはジュリアナも強く反対したが、全く聞き入れられなかった。それほどまでに心配と恐怖を与えてしまったのだと痛切に感じ取った。


 パルマンにしても、ジュリアナをこれ以上どんな危険にも(さら)したくはなかった。心の底から愛しているだけに――。


 ジュリアナを誰よりも恋焦がれている思いを理解してもらうためにも、ジュリアナの両親の言いつけに従うしかなかった。


 もちろん、鬱々とばかりもしていられない。パルマンは思考を切り替えた。


 絶滅特殊部隊の本部は近代的なフォルムをした五階建ての建物だ。


 パルマンは駐車場にエアストームを停止させると、品格のある造りの出入口(エントランス)に向かった。


 本部に入ってすぐ目の前に受付と待合室があった。右手にはエレベーターもある。


 ここには関係者以外にも長官に会うために行政関連のお偉方が来ることがある。そのための受付だった。


 今、受付のカウンターには、ビジネス用の制服に着替えた三人の美しい受付嬢が立っていた。

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