第5話:王府の陰謀と、便利薬局の決意
夕暮れの王都。薬局の窓から差し込む光は、棚の薬瓶を赤く染める。
「今日も忙しかった……」紡葵は小さく息をついた矢先、扉が大きく開いた。
王府の役人が息を切らして駆け込む。
「紡葵さん、助けてください! 王宮の宴会で中毒者が出ました! お客様の中には王族も!」
紡は即座に観察眼を研ぎ澄ます。顔色、瞳の輝き、手足の冷え——症状は昨日と同じ系統だが、より深刻。
「量と摂取時間は? どの料理を口にしたかも」
役人が答える間、アール=フェルクが静かに傍らに立つ。
「紡葵さん、これは偶然ではありません。料理に混入された毒草は市場には出回っていない特異種です。王府内部からの意図的なものです」
紡は唇を引き締める。小さな薬局の事件が、ついに王府の陰謀と直結したのだ。
「マルコ、材料を全部持ってきて。急ぎで調合するわ」
「任せて!」マルコは棚から解毒用の薬草と液体を運ぶ。
紡は手早く処方を組み立てる。観察→成分推定→適量算出——現代の知識を応用した処方は、王都でも例のない精度だった。
「これを飲ませれば、中毒は緩和される。だが、原因を突き止めなければ、また事件が起きる」
アールは頷き、王宮に報告しつつ、毒の分析を始める。二人の動きは完全に連携しており、マルコの力仕事も加わって迅速に患者の救護が完了した。
処置を終えた紡葵は、王宮から持ち込まれた資料を開く。怪しい貴族たちの行動記録、流通経路の調査、過去の中毒事件——全てが線でつながりつつあった。
「……やはり、黒幕は影の侯爵家……。王府内部に手を回している」
アールは静かに告げる。
「紡葵さん、この件は王府内部の調査も必要です。私が協力します」
「ええ、よろしく」紡は微かに笑みを浮かべた。胸の奥で、緊張と少しの期待が混ざる——日々の調合が、王都を救う力になる瞬間だ。
外では夕闇が王都を包み始める。小さな薬局の灯りが、今夜も人々の命を守り、そして陰謀の影に立ち向かう。
毒と真実、そして少しの恋心——全てを調合するのは、紡葵自身の手。便利薬局の決意は、王都を揺るがす大事件へと確実に導かれていた。